花屋さんの店先で春を告げる可憐なスイートピー。
この仲間の豆にまつわるお話です。
第二次世界大戦中の1942年12月のこと、ルーマニアのヴァプニャルカ強制収容所で痛みと痙攣を起こし、足が棒のように硬く麻痺する患者が出ました。病気は瞬く間に収容されていたユダヤ人の間に蔓延し、1月には110名、2月には611名が発症。立つことも身動きできない人もいました。ついには収容者1201名中、なんと800名がこの病気にかかったのでした。ラチリズムというこの病気は昔から知られており、ギリシャのヒポクラテスも知っていたそうです。
ラチリズムの原因がガラスマメの摂取にあることは17世紀には分かっていたのです。
けれども収容所では食糧不足の中、ゲシュタポの指導により牛用の飼料で作ったパンが与えられ、入っていたガラスマメのためにラチリズムが起きたのでした。
しかし、ドイツ側ばかり非難はできません。連合国側にもこんな例があります。戦後間もない1946年のこと、フランスのシャンパーニュにあった捕虜収容所では、500~1,000名ものドイツ兵がラチリズムになったそうです。
ガラスマメの有毒成分は牛などの消化管にいる微生物により分解されるので、タンパク質に富む飼料になります。また、乾燥に強く、干ばつにも収穫できる有用な植物と言えます。
日本ではラチリズムの発生はありませんが、いまだに発生をみるのは貧困や飢餓によりやむなくガラスマメを口にする人々がなくならないからです。世界中の人々が飢えることがない時代が早く来て欲しいものです。
最後にガラスマメの名前について。
英名のグラスピーを訳す時に草マメとかにすべきところ、LとRを間違えてガラスとしたのではと言われています。また、この度調べた医学事典では堂々とガラスマメとありました。冗談のような本当のお話です。
緑花文化士 川本 幸子
(2021年12月掲載)
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