第35回は、コロナ禍の続く現在、適度な距離を保ちながら利用することのできる公園を代表して、国営木曽三川公園 管理センター長である一般財団法人 公園財団 古根 聡さんの「チャレンジ!」をお届けします
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生に伴い、人々の社会生活が一変し、新たな生活習慣を模索する日々が続いています。これを背景に、身近な開放的な空間として、公園や緑地の価値が見直されています。私の勤務する国営木曽三川公園においても、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言の発出時などには施設の利用制限及びイベントの中止などを余儀なくされています。しかし、全ての施設の利用が制限されるわけではなく、緑に囲まれたオープンエアーな芝生の広場や花畑などの空間においては、多くのお客様が適度な距離を保ち、散策、花の鑑賞、屋外での飲食などの利用をされている姿が見られます。特に、季節の花を楽しむことのできる花畑の鑑賞に来られたお客様の様子を見ていると、さまざまな制約がある現在の人々にとって、大きな癒しになっていると感じます。
国営公園をはじめとして多くの公園で見られるコスモスなどの大規模花畑は、今から35年前に当公園財団が国営昭和記念公園で試行的に実施したことを機に始まりました。四半世紀以上たった現在、コスモスだけではなく、さまざまな園芸植物を用い、全国各地の公園や緑地でその場所にあった花畑がつくられており、多くの方が花や植物に癒されていることは、私たちにとって大変うれしいことです。当時、手探りで試行した状況をふりかえり、お話ししたいと思います。
国営昭和記念公園(以下、昭和記念公園)は、東京西部の立川市・昭島市に位置し、昭和天皇御在位五十年記念事業の一環として整備され、1983年(昭和58年)10月に一部供用が開始されました。当財団は、開園当初から昭和記念公園の管理運営を受託してからは、お客様にお楽しみいただくために、広大な芝生管理、樹木育成、花壇や植栽地に季節の花を育てるほか、さまざまなイベントを開催してきました。
開園4年目となる1986年(昭和61年)には、更なる入園者増を狙って年間入園者数を80万人から100万人を目指すことになり、公園の管理者である当時の建設省関東地方整備局国営昭和記念公園事務所(以下、公園事務所)が公園事務所職員と当公園財団職員(昭和管理センター)を対象として、お客様を増やすアイデアを募集する「昭和記念公園の利用促進に関するコンペティション(以下、コンペ)」を開催しました。応募されたアイデアを公園事務所長が審査し、優れたアイデアを表彰する、というものです。私が当時、配属していた業務課管理係は、植物管理を担当していたこともあり、広大な国営公園空間の「スケールメリット」を活かすべき、どこでもやっていないことを、やってみたい夢を考え、コスモスなどの一年草による花修景計画と花木園の構想をまとめた「ふれあい花と人構想」を提案しました。これは、約11haの広さを持ち、芝生が広がる「みんなの原っぱ」の北東側と南西側の芝約5,000㎡を剥ぎ取り、原状土に堆肥などを加え、土壌改良などをすることで「花畑」にし、秋にコスモスを咲かせ、翌初夏にシャーレーポピーを咲かせると共に、季節の花木が植栽されている園内の「花木園」の花を楽しんでいただくことによって、お客様に一年を通して花とのふれあいを提供する案でした。この提案は、コンペで金賞を受賞し、公園事務所長の了承の下、実施することになりました。
秋にコスモスを咲かせるため、5月の大型連休が終わるとすぐ、花畑の造成に入りました。「みんなの原っぱ」にあるケヤキを取り囲むように花畑があり、背景の樹木がそのフレームとなるよう、提案時の計画図の場所に曲線を使って花畑の位置を決め、花、樹木、芝が作る風景を構想しました。花畑の位置が決まると、芝生を剥ぎ、客土を行い、耕耘、土壌改良を行った後、整地、畝立てを行い、秋に開花するよう6月に播種を行いました。播種に当たって、面積も大きかったことから、種子単価の安い秋咲きコスモスを選定しました。発芽後の除草、施肥、夏場の灌水等を実施しましたが、大規模な花畑の管理は初めてのことばかりで、種苗会社からアドバイスしてもらったり、上司や業務課管理係のメンバーと相談しながら花の育成を行いました。花畑の中には小径もつくりました。その甲斐あってか、コスモスは、9月末から10月下旬にかけてよく開花し、「東京にいながら北海道に来ているみたい!」などの評価をお客様から頂くとともに、新聞、テレビなどマスコミ各社様に大きく取り上げられ、利用者数の増加につながりました。
翌1987年(昭和62年)も引き続き花畑でコスモスを開花させましたが、とても出来が良かったため、切り花にしてお客様に無料で配布したところ、大変好評をいただいたため、予定していた配布を翌週末にも実施するほどでした。また、この年、玉川大学農学部が同年2月に品種登録したばかりの世界初の黄色いコスモス「イエローガーデン」を試行的に播種し、遅咲きを加え、長く開花させることができたため、マスコミ各社様から取り上げていただくことができました。
1986年当時の昭和記念公園では、イベントと言えば、コンサートやウォークラリーなどが主でしたが、「ふれあい花と人構想」でお客様に花を楽しんでいただくことを目的とした提案をしました。このため、花々でお客様が呼べることを実証するために、花畑をつくった翌年の1987年に園内のサクラが植栽(既存木・移植木)されているエリアでライトアップを行う「桜まつり」を開催し、1988年には「桜まつり」に加えて花木園でハナショウブを楽しむ「花菖蒲まつり」を開催するなど、花をメインにした取り組みにチャレンジしていました。これらは、昭和記念公園で初めて、「花で集客するイベント」として実施したものですが、多くのお客様が訪れ、思い思いに花を楽しむ姿が見られ、私たちスタッフ一同、手ごたえを感じました。
初めてコスモスの花畑を実施してから4年目となる1989年(平成元年)に、花の風景をお楽しみいただくだけでなく、花を愛でる文化としてコスモスを楽しんでいただこうと、コスモスにまつわる俳句や写真コンクールを実施したイベント「コスモスまつり」を実施しました。その後も、コスモスの花畑修景は毎年続けてきましたので、今では、コスモスは、昭和記念公園の秋の風物詩となりました。
35年の花畑の歴史の中で、ピンクのコスモスの花畑の他に、黄色いコスモスを一面に植栽した花畑をつくったり、花弁が筒状になっているシーシェルなどの変わり咲きのコスモスを集めた品種を栽培したり、丘状になっている場所へコスモスを植栽し、青空とコスモスのコントラストを楽しむ風景を創出するなど、花の見せ方にもさまざまな工夫を凝らしてきました。当初は昭和記念公園だけだった花畑修景も、全国の国営公園でも実施するようになり、一年草のコスモスの他にもポピー、ネモフィラ、コキア、ヒマワリなど、球根ではスイセン、チューリップなどさまざまな園芸植物を用いた花修景を当公園財団職員はチャレンジしてきました。
更に、俳句や写真コンクールと切り花プレゼントだけだったイベントも、1990年代半ばには、観賞だけでなく、体験を通して花を楽しめるよう「押し花教室」、「フラワーアレンジメント教室」や花畑を巡る「スタンプラリー」などコスモスに因んださまざまなイベントを実施してきました。2000年代からはSNSを意識した写真撮影の場として、額縁や顔出しパネルの設置、花畑の中をゆっくりと歩ける小径作り、ここ数年はよりSNS映えするカラフルなドアやベンチの設置や2020年からの緊急事態宣言の折に公園が臨時閉園した際には、動画映像等によって花畑の様子を発信するなど、時代や社会状況に合わせて花を楽しむ方法を提案してきました。
これからも、多くのお客様が、オープンエアーな公園にある花畑に「身近な自然とのふれあい」の場として訪れ、青空の下、花を観賞しながら思い思いに撮影や会話を楽しむことができる空間と時代のニーズにあった新たな楽しみ方を提供していきたいと思います。
◆関連ページ
一般財団法人 公園財団:https://www.prfj.or.jp/
国営木曽三川公園:https://www.kisosansenkoen.jp/
国営昭和記念公園:https://www.showakinen-koen.jp/
※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。(2021年10月掲載)
第50回 公園散策を楽しめるセルフガイドマップ(新宿中央公園)
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(国営みちのく杜の湖畔公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(千葉県船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(東京都足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(諫早市こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)