第19回目は、磐田市竜洋昆虫自然観察公園(以下、昆虫公園)で昆虫の解説・展示等を行っている竜洋環境創造株式会社の柳澤 静磨さんの「チャレンジ!」をお届けします。
昆虫公園は昆虫の標本展示や生態を解説する「こんちゅう館」と野外で昆虫等を観察できる観察舎や池のある面積約3haの公園です。親子で昆虫の観察や小学校の校外学習に利用され、市民からは昆虫だけでなくトカゲ、クモ、ムカデ、鳥等の様々な生き物についての問い合わせをいただきます。質問の内容は、家の近くで見かけた昆虫の名前から、生き物の飼い方、捕まえ方まで様々です。昆虫公園には、館長1名、昆虫等の飼育・展示等を行うスタッフ2名、園内の植物や施設を管理する職員2名、花壇を管理する職員1名の計6名が常駐しているため、
基本的な質問であれば、問い合わせを受けた者が、専門的な質問には、昆虫等の飼育・展示等を担当する北野伸雄(愛称:こんちゅうクン)と私の二人が回答します。
昆虫公園では、土日祝日に園内で昆虫を観察するガイドウォークを実施したり、昆虫に親しむためのクラフト教室や昆虫の育て方教室等も行っています。中でも、土日祝日に園内を回りながら昆虫を観察するガイドウォークは人気が高く、毎回多くの参加者が集まります。
園内には、カブトムシが産卵できるような腐葉土、蝶が食草とするような植物、昆虫の隠れ家になる枝を集めて束にした粗朶(そだ)等、昆虫を観察できる様々な仕掛けがあります。これらの仕掛けを活かすことに加え、昆虫にとって更なる多様な環境を準備するために、常に園内の状態を観察し、植物・施設管理を行う職員に刈残す場所や池の管理方法等を伝え、対応をお願いしています。例えば、刈残した背の高い草があるだけで、観察できるバッタ類の種類が増えるようになります。様々な種類の水生植物を水辺近くに植えることで、水の中の生き物を水辺から観察しやすくなります。
しかし、初めて来た来園者がこれらの仕掛けに気がつくことは難しいため、前述したガイドウォーク等で一緒に昆虫を探したり、昆虫の観察方法を紹介しています。
昆虫公園では、年5回程度テーマを絞って特別展を行っています。この特別展は、夏休みの自由研究の手助けとなるようなもの、季節や社会の流行によって注目されているもの等にテーマを絞り、テーマに沿った生き物やパネルを展示しています。テーマを決める際に参考にするのが、昆虫公園に寄せられる様々な質問やガイドウォーク等での来園者の反応とブログ、SNSでの反応です。つまり、バッタに比べてカマキリを見たときの子供たちの反応は大きく、SNSでもカマキリの記事のほうが拡散しやすい傾向にあります。実際に2018年にカマキリ展を開催したときには、子供たちは展示されている世界の様々なカマキリを熱心に観察していました。このような反応の大きい昆虫、注目されやすいテーマに常にアンテナを張り、特別展のテーマを決めています。
昆虫公園で働いていると、昆虫なら何でも好きなのではないかと思われがちですが、実は、私は昆虫の中でも、ゴキブリは害虫というイメージが強く、苦手でした。ある時、昆虫公園の事務所にゴキブリが出たため、先輩であるこんちゅうクンに助けを求めたところ、こんちゅうクンはゴキブリを捕まえ、事務所で飼育しはじめました。更に、そのゴキブリをこんちゅう館で展示したため、私もゴキブリの世話をすることが多くなりました。世話をしてみると、ゴキブリには愛嬌があり、なんだかかわいくなり、ゴキブリをよく知らずに害虫というイメージから「嫌い」だと思っている方が多いのではないかと感じられました。実際に、こんちゅう館での様子を見ていると、展示されているゴキブリを観察している来園者が多いこと、洗練された形や、面白い模様のゴキブリ等は害虫のイメージとギャップがあり興味深いことから、ゴキブリは特別展のテーマとして良いのではないかと考えるようになりました。
折しも、仕事で西表島・石垣島で昆虫採集をする機会を得て、暖かい地方のいろいろなゴキブリを見て、ゴキブリに魅了されていきました。そこで、既にゴキブリ展を開催している動物園の情報を集めたり、昆虫園を視察し、展示内容等を企画書にまとめ提出した所、館長やこんちゅうクンから「展示するゴキブリは多いほうがいい」、「関連したイベントをしてはどうか」等の意見が出て、企画が膨らみ、あっという間にゴキブリ展実現に至りました。
特別展の実施に当たり気をつけている点は、子供たちが関心を持って見られる展示をすることです。学術的な記述よりも、ぱっと見ただけで理解することができる写真や楽しめるコメントをつけ、展示を見た人がいろんなゴキブリがいることを理解し、楽しんでもらえれ ば良いと思っています。また、参加型の特別展になるよう、ゴキブリの人気投票等もしています。人気投票では、SNSでの拡散も狙い、これまで昆虫公園に来ることが無かった人、昆虫公園を知らなかった人等に昆虫公園を知ってもらうきっかけ作りを目指しています。
ゴキブリ展には静岡県内だけでなく、北海道や沖縄在住の方、普段の来園者層とは異なるカップルや年配の方もいらっしゃいました。1回目(2018年2月3日~4月8日開催)のゴキブリ展では開催していない前年に比べて倍近くの入園者数を記録し、大成功を収めました。更に、2回目のゴキブリ展(2019年2月2日~4月7日開催)は1回目を上回る入園者数を記録しました。その影響もあってか、2018年度の入園者数は7万人を超えました。
1回目、2回目共にゴキブリが嫌い、苦手という感情を逆手に取り、ゴキブリをアイドルのように扱ったり、「気持ち悪い」「怖い」といったマイナスの言葉は使わずに「カッコイイ」「美しい」という言葉を使ってゴキブリの魅力を全面に出したことが功を奏したのではないかと考えています。今年度(2019年度)の特別展(表1)でも、更に発展させたゴキブリ展を企画している他、最近注目を集めている「昆虫食」等の新たな企画も考えています。今後も、昆虫公園では、昆虫の魅力を発信すると共に、話題づくりができるよう心がけ、普段昆虫に関心のない方にも興味を持ってもらえるよう、工夫していきたいと考えています。
第50回 公園散策を楽しめるセルフガイドマップ(新宿中央公園)
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(国営みちのく杜の湖畔公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(千葉県船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(東京都足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(諫早市こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)