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公園管理運営チャレンジしました
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(船橋市)

第38回は、日本植物画倶楽部と連携して万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」を平城宮跡歴史公園(奈良県奈良市)で企画し、更に、(一財)公園財団が管理運営する各国営公園管理センターと連携して5か所の公園等を巡回する展示会に発展させた川原淳さんの「チャレンジ!」をお届けします。

(一財)公園財団<br/>事業推進部 川原 淳さん
(一財)公園財団
事業推進部 川原 淳さん

平城宮跡歴史公園は、奈良市内に広がる特別史跡平城宮跡を計画地とした国営公園エリアと県営公園エリアからなる都市公園です。世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産の一つであり、我が国を代表する歴史・文化資産である平城宮跡の一層の保存・活用を図る目的に国と奈良県を中心とした地域が連携して整備が進められています。第一次大極殿、朱雀門などの建物復原や遺構表示に加えて、平成 30 年 3 月に朱雀門南側拠点施設の整備が進んだことから第一期開園を迎えました。現在では年間およそ 100 万人に来園いただいており、今後も第一次大極殿院建造物の復原整備が進められるほか、県営公園エリアの拡張も予定されています。

復原した朱雀門と幅74mにおよぶ朱雀大路(朱雀門ひろば)

復原した朱雀門と幅74mにおよぶ朱雀大路(朱雀門ひろば)


きっかけは “人と人とのつながり”
特別講演会の開催(2019年10月)

特別講演会の開催(2019年10月)

国営平城宮跡歴史公園(以下、本公園という。)では、公園の趣旨に沿った様々なイベントを地域と連携して企画し開催しています。その中の一つに「特別講演会 生物多様性保全をグローバルとローカルの取組みから学ぶ」がありました。平城宮跡と同じ世界遺産構成資産の一つである奈良春日山原始林の植生維持が難しくなってきているという地域の課題を発信することを目的に企画したもので、その時に英国王立キュー植物園公認画家である山中麻須美さんに世界の取組みについて紹介いただきました。彼女との出会いを遡ると、高田松原津波復興祈念公園(岩手県陸前高田市)のシンボルである「奇跡の一本松」を描いて、そのアート作品を国土交通省に寄贈した関係から、当時の国営飛鳥歴史公園事務所古木治郎調査設計課長に紹介いただいたのがはじまりです。彼女が本公園に程近い奈良市立一条高等学校の卒業生であり、私も奈良市出身だったことから意気投合して、イギリスから日本に帰国されるタイミングを狙ってボタニカルアート教室を企画し、講師を担っていただきました。

 

話が少し戻りますが、この生物多様性をテーマとした特別講演会に関心を持ち参加いただいたのが日本植物画倶楽部理事の小西美恵子さん、そして会員の日野彰子さんでした。日本植物画倶楽部とは国内のボタニカルアートを楽しむ人たちが集う団体で、植物画の普及と発展を目的に様々な活動や交流を図っており、会員による作品展開催の他、「日本の固有植物図譜」「日本の絶滅危惧植物図譜」などの出版物に掲載する植物画の制作にも取り組んでいます。ですからボタニカルアートのつながりから山中さんと小西さん、日野さんが旧知の仲であったのは言うまでもありません。

 

ボタニカルアート教室入門編(2021年11月)<br/>右手前の立っている女性が山中さん

ボタニカルアート教室入門編(2021年11月)
右手前の立っている女性が山中さん


開園して間もない本公園にはいくつかの課題がありました。そのひとつが公園のメイン施設である平城宮いざない館内にある文化財も展示できるほどの設備が整う大きな企画展示室でした。魅力ある施設である一方で維持管理費には限りがあるため、これに見合う展示を季節毎に企画し、実施するのは一苦労でした。特に文化財の展示にはその保険代が想像以上に高く、1回の展示会で年間予算をオーバーするほどでした。もうひとつは公園の認知度向上です。奈良市内の最大の観光地である奈良公園や東大寺に比べると知名度はまだまだ低く、リピーターであるコアの歴史ファンだけでなく、先ずは1度公園に足を運んでいただくきっかけづくりをして、利用のすそ野を広げていく必要がありました。

 

出土した文化財などの展示も想定して作られた企画展示室

出土した文化財などの展示も想定して作られた企画展示室

 

 

講演会が終了した後に、小西さんたちとお茶を飲みながら講演会の出来や感想について雑談に花を咲かせていました。その時に日本植物画倶楽部が各地で定期的に作品展を開催していること、その会場探しに苦労していることを知りました。公園は企画展示室の活用が課題でしたので、両者の思惑が合致しました。

 

次に企画展のテーマについてです。折しも、講演会が実施された2019年は「令和」に改元された年であり、「万葉集」に注目が集まっていました。万葉歌に詠まれた「万葉植物」にスポットをあてて作品を描いてもらい、万葉歌の解説をつけることにより歴史、歌、植物、アートなど様々な分野に関心のある方々に発信し、交流につなげたい。「新作で展示会を開催するのならば、私も1種類描きますよ。」との山中さんの言葉にも後押しされて、テーマが定まりました。

 

その後の話ですが、植物画倶楽部の中で調整が図られ、描きたい植物が重ならないよう人選と新規作品を描くために少なくとも2年~3年は必要との見解でした。そこで本企画展を公園開園5周年企画と位置づけて準備を進めることとしました。ちょうど国が整備を進める第一次大極殿院南門の完成時期とも重なります。またその過程で山中さんがイギリスに帰り、英国王立キュー植物園主席画家クリスタベル・キングさんに声掛けいただいたことでさらに輪が広がりました。余談ですが、日本植物画倶楽部にとって、他団体との共催企画により新たに作品を書き起こして展示会を開催するのは今回が初めての試みであり挑戦であったようです。


「万葉集」は、奈良時代末期に成立したとみられる我が国最古の和歌集で、収められている約4,500の歌の約3分の1に植物が登場し、その種数は160種ほどとされています。そしてこの植物種にあわせた歌の選抜とその解説作成には、この分野の専門家の協力が必要不可欠でした。そこで国営飛鳥歴史公園開園から維持管理運営にたずさわる一般財団法人 公園財団(以下、当財団)のネットワークを生かして、南都明日香ふれあいセンター犬養万葉記念館の岡本三千代特別館長に本企画展の監修をお願いしました。加えて万葉歌の解説は、小西さんの人脈により猪名川万葉植物園の木田隆夫園長にお願いをしました。お二人とも今回の企画展主旨を汲んでいただき快諾いただくことができました。

 

そこでまず本公園企画展示室の大きさから作品数を概ね定めました。次いで植物種と歌の選定ですが、植物学的に見る植物の特長や一般的な植物の知名度、作品映えの程度、本公園や周辺で身近にみられるか、そして歌の内容、詠み人や詠んだ地域の多様さなど様々な視点、立場から意見交換を行い最終的に77種選抜しました。その後に日本植物画倶楽部において、それぞれの植物の描き手が決められ、1年以上かけて植物のありのままの姿を正確、細密に描いていただき、植物学的な見地から専門家のチェックを受けて作品完成にいたりました。

 


スケールメリットを生かして全国の国営公園に巡回展示

万葉集は日本全国で詠まれた歌が編纂されているほか、皇族、貴族の歌から庶民の歌まで編纂されており、それぞれの階級の人がその思いを歌にした面白さから各地に愛好家がいることが知られています。そして日本植物画倶楽部は会員が描いた作品を多くの方に鑑賞いただきたい想いがあり、当財団はこの企画展を複数の会場で行うことができれば、各公園は主に展示および撤去と展示期間中の運営にかかる費用で開催することができるため、費用対効果が格段に良くなります。そこで全国の公園を管理運営する当財団のネットワークを活かして、本企画展を全国国営公園での巡回展に昇華させることにしました。ちょうど企画してから1年後に私が平城宮跡管理センターから当財団本部に人事異動となったことから、展示会の準備は平城宮跡管理センタースタッフに委ねて、全国巡回展にかかる調整を担いました。

 

巡回展の会場選定にあたっては、①展示施設の状況(直射日光、湿気等対策)、②運営面の対策(盗難やいたずら等のセキュリティ対策)、③展示会を1年としたい日本植物画倶楽部の意向(作品管理の視点)、を考慮して各公園担当者と調整を図り5つの国営公園を選抜し開催期間を設定しました。特に①は大切な作品を預かることから、小西さんをはじめ植物画倶楽部の皆様に足を運んでいただき、会場を確認いただきました。

 

展覧会場の状況(平城宮跡歴史公園)

展覧会場の状況(平城宮跡歴史公園)

展覧会場の状況(平城宮跡歴史公園)展覧会場の状況(平城宮跡歴史公園)


今回の企画展にあわせて日本植物画倶楽部に作品図録を制作いただきました。展示会の記録とともに、作品数が77点と多く、これに付随する万葉歌の解説を会場で読み込むにはかなりの時間を要することが想定されるため、持ち帰って自宅でも見ることができるようにという想いからです。歌の解説を作成いただいた木田さんによると、万葉歌に登場する植物は、植物の生態・特性から詠まれたものや染料の工程を踏まえて詠まれたもの、恋を表現するために使用したものなど様々です。歴史や文化、植物やアートに興味をもつきっかけづくりにこの図録が役立てばうれしく思います。企画展開催中の各公園ショップにて販売していますので、ぜひご覧になってください。

 

末筆になりますが、本企画展の開催にあたってご協力をいただきました皆様へ心から御礼申し上げます。

 

◆関連ページ

平城宮跡歴史公園 https://www.heijo-park.go.jp/

日本植物画倶楽部 https://www.art-hana.com/

 

※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。(2022年3月掲載)

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過去記事一覧
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(船橋市)
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第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
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第23回 できる人が、できる時に、できることを(こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
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