第26回目は、地域団体や市民と共に竪穴住居を復元するプロジェクトを実施している兵庫県立考古博物館の「チャレンジ!」をお届けします。
建築中の竪穴住居の屋根に乗り、カヤを結束する竹製の針を手にしている
史跡
大中遺跡と命名されたこの遺跡は研究者や地域住民によって、保存運動が盛り上がり、工場予定地だったものを兵庫県が買い取り、遺跡公園として整備しました。現在は県立歴史公園「播磨大中古代の村」として隣接する兵庫県立考古博物館(以下、博物館)が環境整備をおこない、公開・管理しています。
博物館は兵庫県内の遺跡及び考古資料の調査研究を行っています。その成果を活用して、出土品を観覧できる展示の他に、触れたり試したり、発掘体験ができたりするハンズ・オン展示、考古学の調査成果を解説する講座、古代体験イベント「大中遺跡まつり」などを開催し、考古学の普及啓発に努めています。また、「播磨大中古代の村」の整備の一環として、博物館の学芸員、地域や関係団体と共に竪穴住居を造る「竪穴住居復元プロジェクト」を実施しています。
大中遺跡は、今から約1,800年前の庶民が住んでいた集落跡で、奈良県にある平城宮跡などとはずいぶん様相が違う遺跡です。これまでに100軒以上の竪穴住居跡が見つかっています。しかし、発掘調査からわかるのは、建物の地面から下の部分だけです。そのためやや時代は下りますが、古墳の発掘調査で出てきた家型の埴輪などを参考に、どんな建物だったのかを考えていかなければなりません。しかし、そういった一見面倒なプロセスこそが知的好奇心を刺激され、ロマンのある作業となっています。
また、実際に木を切り、穴を掘り、部材を組んでみてはじめて気づくことも多く、発掘調査で得られた資料を理解するのに大いに役立っています。また、博物館で地元の市民といっしょに竪穴住居を復元する活動を行うことで、地域と博物館への愛着が生まれることも期待できます。
このため、博物館では、2008年からため池の環境保全を担っている「いなみ野ため池ミュージアム」、里山林を保全している「NPO法人ひょうご森の倶楽部」、建築学科がある「国立明石工業高等専門学校」、博物館のボランティア「ひょうご考古楽倶楽部」などの市民と連携しながら実施する「竪穴住居復元プロジェクト(以下、プロジェクト)」を開始しました。
活動はまず材料の入手から始まります。
竪穴住居は住居の骨組みである柱や梁、桁や垂木などに、クヌギやコナラ、クリ、アベマキ等の木材が使われ、屋根には茅が葺かれていたことがわかっています。そのため、骨組みの木を山から切り出してくることを始めました。しかし、プロジェクト発足当初、どこの山にどんな木が生えているかということすら知りませんでした。
「NPO法人ひょうご森の倶楽部」に協力を仰いだところ、彼らの活動拠点に目当ての木があり、それを伐りだすことができるようになりました。彼らはチェーンソーを持っていますが、我々は手で切ってみました。本来は石斧を使うべきでしたが鋸を使いました。建築を専門に勉強している「国立明石工業高等専門学校」の学生に切ってもらいましたが、骨組みとなるほどの木を鋸で切るのは容易ではありません。さらに学生は大工道具を扱ったことがほとんどないので、道具の使い方(日本の鋸は引いたときに切れるなど)から勉強してもらいました。
次に、屋根の材料としてため池に生えているアシ(カヤ)を11月から1月の間に刈り取ります。そして、発掘調査で明らかになった住居のプランを地面に描き、30センチくらい掘り下げてそこから柱を立てて大枠を作り、最後に屋根を葺きます。
プロジェクトは、天候の具合等によって年間20回くらい活動できますが、毎回同じメンバーが来るわけではないので、作業の確認のために30分はレクチャーします。また、夏は熱中症対策として休憩をたくさんとるため、1回にできるのは3時間程度です。このため、おそらく弥生時代の人なら2週間程度で完成させたであろう竪穴住居を、我々は1年以上かってやっとこさ1棟作るのです。
これまでに竪穴式住居を11棟復元しましたが、やっかいなのが維持管理です。竪穴住居は大体20年くらい保つのではないかと思って(考古学の人はだいたいみんながそれ位だと思っています)いましたが、それは、「実際に人が住み、毎日メンテナンスをされていれば」の話です。そうでなければ10年くらいしか保ちません。プロジェクト開始から12年たって、倒壊の危機に瀕している住居が何棟かでてきました。屋根に上って応急処置をしていますが、垂木が腐っているため屋根が抜け落ちる可能性があり、危険な状態です。
担い手の育成もあまり進んでいません。最初は面白そう、と多くの人が集まってきましたが、10年経っても同じ人が活動をしています。活動が長く続いていると、どうしても新しい人が入ってきにくい雰囲気が出てきてしまっているようです。12年分きっちりと高齢化がすすみ体力面からも世代交代していく必要があります。体験イベントなどで人を集めて作業を進めようとしても、そこに集まって来た人に任せられる仕事は最後の仕上げなど、ほんのちょっぴりで簡単な部分だけです。
継続的に活動出来る人をスカウトしてきたり、新しい人がプロジェクトのメンバーに入りやすい仕組みづくりが必要になってきていますが、簡単なことではありません。-竪穴住居づくりはひとづくり-これが最大の課題だと考えています。
公園を整備するのであれば、経費がかかっても専門業者に任せたほうが早くきれいに仕上がります。我々が行っているこのような事業は手間もかかりますし、なかなか進みません。
時に続けていく意味を問われることも多いのですが、考古学の発展にもつながり、活動を続けていくことによって地元の人たちも関心を持ってみてくれています。一緒にプロジェクトを実施している「国立明石工業高等専門学校」の学生や近くの子どもたちの中から、将来、プロジェクトを中心に担ってくれる人や博物館のスタッフとして活躍してくれる人が出てくれないかなあ、と期待しながら続けていきたいと思います。
■関連ページ
兵庫県立考古博物館 ホームページ:https://www.hyogo-koukohaku.jp/index.html
※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、掲載時のものです。(2020年7月掲載)
第50回 公園散策を楽しめるセルフガイドマップ(新宿中央公園)
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(国営みちのく杜の湖畔公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(千葉県船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(東京都足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(諫早市こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)