第14回は、東京都足立区にある足立区都市農業公園(以下、公園)で有機農業・無農薬栽培に取り組んでいる小泉 大和さんの「チャレンジ!」をお届けします。
この公園には、足立区のかつての「農」の風景を思い起こさせる水田、畑、古民家があり、人と自然の共生館、染物や紙すきなどができる工房棟があります。私たちの組織「体験型有機農業パークマネジメント」は、2017年(平成29年)4月より指定管理者として公園を管理運営しています。公園を管理運営するに当たり、足立区と指定管理者の間で「年間30品目以上の作付け」「農薬・化学肥料不使用」の取り決めがあります。2017年はジャガイモやトマトなどの一般的な野菜から、ゴマやワタなど、なじみがあっても栽培状況を見る機会の少ないものまで様々な農作物約60種を栽培しました。
また、「農薬・化学肥料不使用」であるため、NPO法人 日本有機農業研究会の農家15名程度の方にスタッフとして農地管理をお願いし、約20人の援農ボランティアと私たち農業コーディネータースタッフ3人による日々の作業、公園で公募した14人(H30年9月現在)のボランティアで農作物の栽培を行っています。
私たちの目指す「農薬・化学肥料不使用」は、単に安全・安心な食べ物の栽培ではなく、自然と共生する暮らしです。園内に生えている雑草をあえて刈らず、体験プログラムで使用するフィールドには生きものがすむ場所を確保する等、生きものや植物の特性を利用しながら農薬を使わずに園地管理を行っています。
それでもキャベツなどには多くのモンシロチョウの幼虫がつき、外側の葉は穴だらけになってしまうため、それらを取り除いた小さなキャベツを販売しています。育てているキャベツが全滅してしまう可能性もありますが、農薬で幼虫を駆除したりせず、後述するプログラムや公園に常駐するスタッフが農作物と生きもののつながりについて解説し、お客様に自然について理解を深めてもらうきっかけとしています。例えば、たくさんのモンシロチョウの幼虫が孵化しますが、その多くが寄生バチに寄生され、成虫まで成長できるものはほんのわずかであることを話し、キャベツもモンシロチョウも生態系の一部であることに気づけるようにします。
公園では、スタッフが自然解説をする他に有機農業、食、環境など農業や地域の文化を知って親しんでもらうために、様々なプログラムを実施しています。2017年度は、生きものの観察をする、収穫した農作物を味わうなど当日気軽に参加できるプログラムから、全8回シリーズで3ヶ月かけて野菜を作る栽培プログラムまで、年間で1,000件以上のプログラムを実施しました。プログラムの中には、外部の講師を招くものもあり、園内の草花や野菜を描く絵画教室など、生活文化を取り入れたものも実施しています。
また、毎年10月には、2日間にわたって地元のお店の出展や収穫体験など様々な体験プログラムを実施する「秋の収穫祭」を実施しています。今年(2018年)は、10月20日(土)・21日(日)に予定しています。
これらの全てのプログラムは、公園を理解してもらうことと多くのお客様に公園を楽しんでいただくことを目的としています。このため、利用者の少ない平日の利用を増やすため、未就学児が参加できる「田んぼの生きものさがし」や園内の草花を使って色を擦りだす「草花ステンシル」など、簡単なプログラムを毎日実施しています。
これらのプログラムや公園スタッフの自然解説によって、お客様が「公園に行くと何か楽しいことがある」「あの公園スタッフの話が面白かったからまた聞きに公園に行こう」と思い、公園のファンがどんどん増えています。
公園で採れた農作物の活用方法は、販売や農作物を活用したプログラムに使ったり、園内のレストランの食材として利用しています。園内での販売は、無農薬で安全な農作物であることとお手ごろな価格であることからお客様からの評判も良く、多くの方にお買い求めいただいています。
しかし、農作物は毎日採れるため、お客様の少ない雨の平日などには、農作物が余ることがあります。残った農作物は堆肥にして循環させてもよいのですが、食べられる農作物を堆肥にするのはもったいなく、なにかもっと良い活用方法は無いか探していました。
指定管理業務を始めて半年ほどしてから、公園の中で完結するのではなく、地域と連携、貢献する公園管理運営が必要だと考えはじめました。そんな時、小学校のPTAなどで組織したNPO団体が、公園のある鹿浜地域で月に1回、子ども食堂を実施していて、NPO代表の方が講演会をすると知り、聞きに行きました。講演では「食材を様々な方から寄付してもらっているが、食材が足りなくなることもあり、買い足さねばならず、活動することによって赤字になってしまうことが課題の1つである」と話されました。そこで、講演後にNPO代表と話し合い、地域貢献の一環として公園で採れた野菜を提供することとなり、今年(2018年)3月から公園で余った野菜を提供しています。また、NPO代表を通して、中学生の学習支援と食事の提供を行っている支援団体へも週1回有機野菜の提供を行っています。これらのNPO団体は寄付された食材を見てその日のメニューを決めるため、どんな野菜をお渡ししても受け取っていただけます。野菜を必要とする地域の子どもたちのために使ってくれるため、私たち公園も地域貢献ができているとうれしく思っています。
今後も、自然と共生する農業公園として様々な取り組みを行い、地域に無くてはならない、特色ある農業公園であり続けたいと考えています。
■関連サイト
足立区都市農業公園ホームページ http://www.ces-net.jp/toshino/
足立区都市農業公園Facebook https://www.facebook.com/toshinopark/
※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、取材時のものです。(2018年10月掲載)
第50回 公園散策を楽しめるセルフガイドマップ
第49回 ステキな公園はスタッフの健康から「‘キラリ’健康プロジェクト」(みちのく公園)
第48回 中学生の提案から始まった、ボール遊びができる公園の整理(船橋市)
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練(静岡県立森林公園)
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる(株式会社日比谷アメニス)
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)