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第20回 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる

公園をより楽しく有効に使ってもらうために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。

◆第20回は、尾久の原公園(東京都荒川区)で動植物の自然観察を行っている市民グループ「尾久の原愛好会」会長の石川正(ただし)さんのインタビューです。
都立尾久の原公園(荒川区尾久)は、もともと化学メーカーの工場の跡地でした。工場移転に伴う新たな整備計画が住民の反対運動によって中断後、放置された空き地にはいつしか植物が生え、雨水が溜った水辺には水鳥やトンボなど、多くの生き物の棲み家となっていました。地元の自然保護団体が保全活動を続けた結果、跡地に誕生した自然環境はそのまま残した状態で、公園として整備されました。
毎月、自然観察会を行い、尾久の原公園の自然保護活動を行う石川さんに、公園の歴史から会の活動内容についてお話をうかがいました。

工場跡地に生まれた自然の原っぱ

尾久の原公園は、1917(大正6)年に建てられた旭電化工業(現:株式会社ADEKA)の工場の跡地につくられました。工場は1977(昭和52)年に移転後、東京都が土地を買収しました。元は水銀などを扱う化学工場だったため、土壌汚染処理の後、きれいな土が盛られ整地されました。

都は、18ヘクタールの跡地を汚水処理場と清掃工場の建設計画を立てましたが、地元住民の反対を受け、跡地はしばらく放置されました。その後防塵対策用に洋芝の種子が蒔かれると、草木が芽吹きました。さらに敷地の窪みに雨水が溜り、小さな池ができると水生植物が生えてきました。

工場跡地はいつしか原っぱへと姿を変えると、水鳥やトンボがやって来て、池の中にはゲンゴロウやザリガニ、カエルやミジンコなどの生き物が棲みはじめました。野鳥はオオヨシキリ、バン、カルガモ、カイツブリなど60種以上が確認され、バンとカルガモが、ひなをかえす様子も見られるようになりました。そして、トンボの数と種類の多さに注目が集まりました。

東京・下町が関東有数のトンボの生息地に

当時、荒川区の自然保護活動団体「下町みどりの仲間たち」(彦坂雅男氏代表、当時約50人)が、工場跡地の自然観察と保護活動を行っていました。その団体の中心メンバーであり文筆家の野村圭佑さんは、水溜りにギンヤンマのヤゴがたくさんいることに驚き、トンボの観察を始めました。日本蜻蛉学会に協力を仰いで調べた結果、ギンヤンマやハネビロトンボ、アキアカネ、イトトンボ、シオカラトンボなど約30種類を確認しました。さらに関東地方では絶滅したと考えられていたオオキトンボも確認しました。工場の跡地は、トンボが好む自然の湿地帯に生まれ変わったことで、関東有数のトンボの生息地となっていたのです。この跡地を「トンボ公園」として残すことはできないか、と考えた野村さんは、トンボを含む希少な動植物を守るために観察と調査に奔走しました。多くの観察記録は報告書などにまとめ、都に陳情書を提出しました。

野村さんと公園スタッフによるワークショップ 公園のヨシでヨシズ作り

下町に蘇った自然を守り抜いた野村圭佑さん

都は1989年に、跡地を運動公園にすると決定しました。そこで野村さんらは、設計する際は現存する自然を生かした公園に整備するよう、都に強く要望しました。また、他の団体から都への要望もあり、跡地に出来た自然を残した状態で公園が整備されることになりました。

1993年、自然の原っぱを含む約6ヘクタールの「尾久の原公園」が部分開園しました。
野村さんの活動を取材したNHKが、1991(平成3)年に工場跡地に蘇った自然についての特集番組を放送しました。その後、野村さんは尾久の原公園の鳥や虫、草花の観察記録をまとめた『原っぱで会おう―愉快な水辺の生きもの観察』(八坂書房)。子供向けに分かりやすく解説した『科学で環境探検 下町によみがえったトンボの楽園』(大日本図書)などの本を出版しています。

工場跡地が公園として整備されるまで、紆余曲折を経て約10年という長い月日がかかりましたが、下町に蘇った貴重な自然が残されたのには、ひとえに野村さんの功績といっても過言ではありません。野村さんは2006年11月に亡くなるまで、荒川の自然環境の保全活動に生涯をささげられました。

活動を受け継いだ「尾久の原愛好会」

2000(平成12)年に、荒川区議の瀬野喜代さんの呼び掛けで「尾久の原愛好会」(以下、会)が発足しました。野村さんをはじめ多くの人の手によって守られた尾久の原公園の「小さな自然を大事に守る」をテーマとし、モットーは「楽しく、活動する」を掲げてスタートしました。私は発足当時からのメンバーです。パソコン操作が好きなので、会のホームページ制作も担当しています。
会の主な活動は、尾久の原公園の自然観察とその保護です。荒川の土手や河川敷の清掃活動のほか、荒川の水質検査などのボランティア活動にも参加しています。

会の活動は、毎月第4日曜日の午前10時から約2時間です。会費は年間2400円で、興味があれば誰でも参加は自由です。メンバーは、公園近辺に住む有職者や会社員、専業主婦、リタイヤ組など60歳代が中心の男女18人(2017年7月現在)です。また会のメンバーは、尾久の原公園から徒歩3分の場所にある喫茶店「フェルメール」の常連客でもあります。喫茶店オーナーの角田崇子(かくた・たつこ)さんは、会発足当時からのメンバーで、工場跡地の自然が公園として守られた歴史を知るメンバーのひとりです。「フェルメール」は会の連絡場所であり、メンバー同士のコミュニティスペースとしても活用させてもらっています。

会の発足当初は、当時メンバーだった野村さんが講師となり、子供たちに昆虫やザリガニなど、生き物の名前や生態を教え、植物を使った遊びを伝える活動を行っていましたが、その後は自然観察が中心となりました。

二代目会長が植物誌を作成

家が近所同士のご縁で会にお誘いした池田稔さんには、2004年から5年間会長(二代目)を務めていただきました。池田さんの実家は栃木県の農家で、子供時代から動植物に馴染みがあったことから「東京の下町にこれほど希少な植物が残っていることは素晴らしい。よくぞ公園として残してくれました」と感激され、積極的に会の活動に取り組んでいただきました。観察会では、池田さん手作りの資料を基に、植物を観察しました。

さらに池田さんは活動日とは別に、週2回ほど公園に足を運び、植物を記録する作業を始めました。植生している植物を独学で学び、地道な作業の末に出来上がったのが約160種の野草と約50種の樹木を掲載した『尾久の原公園植物誌』(A4版)です。植物誌は【野草編】2冊と【樹木編】1冊の計3冊。池田さんがパソコンで作成した手作りの植物誌です。会にとってはもちろんのこと、荒川区にとっても貴重な資料です。

池田さんが作った『尾久の原公園植物誌』

絶滅危惧種を守り、増やしていく

尾久の原公園の特徴は、国内でも希少な植物が多いことです。そこで会では、希少種の保護・育成を重点課題としています。

保護している主な植物には、ウキヤグラ、カズノコグサ、アゼナルコ、ミソハギ、ハンゲショウなど。特に準絶滅危惧(NT)であるタコノアシやミゾコウジュの観察と保護に力を入れています。タコノアシとミゾコウジュが植生している場所は、会では把握しているのですが、公園が委託している芝刈りの業者さんにとってはどれも同じ雑草です。希少な植物であることを知ってもらうために、植物にはマークを付けて、テープで囲うこともあります。タコノアシやミゾコウジュは、風で飛んだ種子が根付くのか、毎年生える場所に違いがあります。これらの植物は湿原の奥に植え替え、生息地の拡大にも取り組んでいます。

また、昔は水面に多くのザリガニが確認できたのですが、ライギョの影響で姿を消してしまいました。イベントなどを利用して外来種の駆除ができないものか、公園スタッフと話し合っていますが、なかなか方策が見つかりません。

尾久の原公園のスタッフとは、会の発足当初から活発な情報交換を行って円滑な関係を築いてきました。2013年から新たに管理・運営の委託を受けた指定管理者ともコミュニケーションがとれており、会の活動には積極的に参加・協力してもらっています。

堆肥の運用にチャレンジ

池田さんの会長時代は、池田さんに観察会の資料作りから講師役までを担っていただきました。その後も活動内容に変化がなかったため、2017年からは「皆で行動しよう」を方針に掲げました。自然観察のほかに、メンバー全員が継続して取り組めるものを模索していた時、園内に植生するヨシが、やせ細り、元気がなくなっていることに気付きました。尾久の原公園では、ヨシやガマを定期的に刈り取り、園外で処分していたため、有機物が足りなくなり元気がなくなったのではないかと考えました。そこで、これまで園外で処分していた発生材を材料にして堆肥を作り、園内の植物に還元してはどうか、と考えました。そのきっかけとなったのが2016年夏に実施した足立区にある桑袋ビオトープ公園(以下、桑袋ビオトープ)の見学会です。

桑袋ビオトープは、恵まれた自然環境の中で、希少な生き物や植物を管理している素晴らしい公園です。とくに植物発生材を元に作った堆肥をリサイクルしていたのが印象的で、尾久の原公園でも同じような取り組みができないかと考えました。

「もっと堆肥について学びたい」と、同年の秋に2度目の見学会を行いました。このときは尾久の原公園のスタッフも参加してくれました。桑袋ビオトープの担当者には、堆肥場の見学も含め、園内で行っている堆肥の運用についてとても分かりやすく丁寧に説明していただきました。この日の見学会を機に、会の活動テーマは「堆肥の運用」に決まりました。

尾久の原公園での堆肥の基は、現在植生しているヨシの活用を予定しています。いずれは桑袋ビオトープのような堆肥の循環も視野に入れて研究していきたいと思っています。尾久の原公園は過去の土壌汚染処理の影響で、杭を深く打てない、土壌を掘ってはいけない等の制約があるため、尾久の原公園の中での堆肥運用の実現には時間が掛かるかもしれませんが、長い目で取り組んでいきます。

会の活動は今年で17年目を迎えます。これまで長く継続できたのは、活動そのものが楽しいからです。そして自然を愛する仲間たちが自由に参加できる会の雰囲気と、メンバー同士がおしゃべりする拠点「フェルメール」の存在が大きいと思っています。今後は堆肥について勉強をして、いまある希少な自然を大事に見守り、後世に残していきたいと思っています。そのためにも若いメンバーの入会を期待しています。

■関連サイト
尾久の原愛好会 http://www014.upp.so-net.ne.jp/tadayan/index.html
尾久の原公園(東京都公園協会)https://www.tokyo-park.or.jp/park/format/about016.html

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過去記事一覧
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続
01 自然環境は、利用しながら保全する


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