「狩猟」に興味はございますか?
こう聞くと指で鉄砲のジェスチャーをされる方が大半で、私自身も「狩猟=鉄砲」のイメージは狩猟免許を所持するまでずっと持っていました。実は他にも「わな」「あみ」と分野が分かれていて、私はその中で「わな猟」を行っており、福岡で狩猟を始め2024年の猟期で5年目を迎えました。
動物を殺める行為が伴うので「動物が嫌いなのか?」「なんて残酷なことを!」
と言われることもありますが私はむしろ動物が大好きで、獣道、鳴き声、糞、食痕等々…痕跡を辿るアニマルトラッキングが基礎となる狩猟は自然とダイレクトに向き合える体験であると考えています。道路に落ちている犬の糞は避けて通るのに、山の中で見つけた糞は嬉々として近づいて、なんなら棒でつついて未消化の種子や毛を探し、動物の種類や食性を調べるような性分です。
…前置きが長くなりました。
狩猟で狙う対象と言えば鹿や猪を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は他にも狩猟できる動物はたくさんいます。今回はその中でも「ニホンアナグマ」の愛嬌と力強さについて、猟師目線で書かせていただきます。
ニホンアナグマ -イタチ科アナグマ属-
漢字で書くと穴熊、よく「熊の仲間ですか?」と聞かれますがイタチ科の動物です。
短足ボディが特徴で夏冬の体格が異なり、
夏は比較的シュッとしていて遠巻きに見かけると猫と大差なく、
冬は蓄えた脂肪で二回りは太り、ずんぐりむっくり丸々とした姿になります。
この脂が非常に美味で…。
一般的に冬眠すると言われていますが福岡市近郊では割と活発で、猟期である11月〜2月でも動き回る姿を頻繁に見かけます。
名前の通り穴を掘るのが得意で、獣の侵入を防ぐ頑丈なフェンスやネットを設置しても地中から侵入して、農家さんを困らせています。巣穴を持ち、1か所見つけて周辺をよく観察すると同じような入り口をあちこちに見つけることができます。
住宅地の側溝もうまく活用し、人知れず移動するためのトンネル代わりにしているのですが、その割に警戒心が薄いようです。後ろから物音を消して忍び寄ると、かなり近くまで接近を許してくれます。気が付いて慌てて逃げていく様子は、なんともマスコット的な可愛さです。
食性については雑食で、なんでもよく食べます。
捕獲する際に金属ゲージのような「箱わな」を使い、餌を使っておびき寄せます。その際に辺りで収穫される作物を餌にするのではなく、ドーナツや菓子パン、スナック菓子といった自然界では絶対にお目にかからない物を使うと、かなりの確率で誘引することができます。甘党なのかな…?
界隈では特に「キャラメルコーン」の効き目が高いと評判で、実際に私も愛用し実績をあげています。
また個人的な感想ですが、住宅地周辺で捕獲した個体よりも里山や農地を荒らしまわっている個体の方が、食した際に変な匂いや癖もなく美味しいと思います。これは住み着く場所で得られる食べ物によるものだと考えます。里山や農地の美味しい果実や作物を食べて育った個体は、肉も美味しくなるのですね。
力強さについての説明がまだでした。
猟師3年目、とある事情で手足をワイヤーで括る「くくりわな」から、生きたままアナグマをリリースする必要があったときの話です。これまでアナグマより何倍も大きい鹿や猪を相手にしてきたので小さいアナグマに対して油断と言いますか、一種の驕りがあったことをここに告白します。
暴れまわらないようにアナグマを押さえつけていた太い木の棒を、その短い手足からは想像もできない膂力で押しのけて、わなを取り外そうと近づけていた左手人差し指を…がぶっ!!
噛まれる直前、そういえば穴を掘るぐらいだから木を押しのけるくらい造作もないよなぁと呑気に感心していたことをハッキリと記憶しています。
分厚いグローブを着用していたにも関わらず牙はあっさりと貫通し指に突き刺さり、これまたものすごい力で離してくれず、仲間の補助でようやく脱出できたものの大出血。
血と脂汗を流しながら下山し病院へ直行、緊急外来へ駆け込み破傷風の予防接種をブスり。骨まで達した咬傷は細菌を中に閉じ込めることになるため縫合ができず、軟膏と絆創膏による自然治癒頼りとなりました。幸いにも傷跡はそれほど残らず完治しましたが、もしこれが鹿の角で突かれていたら、突進してきた猪の牙だったらと思うとゾッとします。痛みと情けなさと舐めてかかった後悔がしばらく続きました。
文字通り手痛い経験でしたが、アナグマ…野生動物の生き抜くための生命力を思い知る良い教訓となりました。この件以来、どんな獲物を相手にしても常に私が「挑む側」であることを肝に銘じています。
「人間だからといって必ず優位ではないこと(鉄砲があって初めて対等である。は先輩猟師からの受け売りです)」
「命を奪う獲物に対しての敬意」
この2つを忘れずに私は今日も山へ入ります。
◆Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/
(2025年1月掲載)
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