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生きもの小話
忘れられない“お正月”

それは真冬の奈良で…

 

もう10年以上前の話になります。奈良の実家に帰省すると、必ずラーメンを食べに出かけます。幼い頃から食べ続けたスタミナラーメンの味が忘れられないのです。その日も父と母と一緒にスタメンを食べに行き、お腹も心も満たされて気持ち良く、布団に潜り込みました。奈良盆地の夜はグッと冷えます。布団から顔を出して、天井を眺めながら、眠りに落ちました。すると、真夜中になんだかアゴの下、いや口元あたりにフワフワした感覚があることに気づきました。なんだろう?眠いし、寒いし、これは気のせい!で済ませてしまいたい自分がいます。しかし、そのサワサワ感がだんだんと力強くなり、何か柔らかい紐のようなものでアゴや口元の辺りを触れられている。いや、ホコリをとる柔らかいハタキで、叩かれている感じと言いますか…。だんだん威力が増していき、それとともに、どんどん私の脳は覚醒していきました。脳が機能し始めると、これは何だろうか?気のせい(夢)ではないことは確かです。何か細い紐のようなもので、ペシペシと叩かれている。そのとき、直感的に「ゴキブリ!」と私の脳は判断したのです。なぜか?

皆さん、嫌われ者のゴキブリをじっくり観察した人は少ないと思います。実は体長の2倍ほどもある長い2本の触覚を持っているのです。それを前後左右にビュンビュン振り回しながら、餌の在りかなど様々なことを探り感じ取っています。

これは、間違いなくゴッキ~の触覚であり、そのしなやかな鞭で私はペシペシと叩かれている…。すでに脳が眠りから完全に目覚めました。冷静に考えます。むむっ…今は真冬。部屋の中とはいえ、冷蔵庫並みの寒さです。ゴキブリが活動しているわけがない!また、ゴキブリの触覚で口元を叩かれているなんて、やはり夢であってほしい。でも、やっぱり叩かれている。私のお腹に入ったスタミナラーメンの香りに魅かれてやってきたのだ!

 

写真はリアルすぎるので、読者のために絵にしてみましたが、 やはり気持ち悪いですね。やっぱりこの足のトゲトゲが苦手です。 このトゲが私の顔に...

写真はリアルすぎるので、読者のために絵にしてみましたが、
やはり気持ち悪いですね。やっぱりこの足のトゲトゲが苦手です。
このトゲが私の顔に…

 

さて、本当にゴキブリなのか?確かめる必要があります。さて、どうする?こやつは布団の縁に乗っかって、私の口元に向けて触覚を振り回している。よし布団を少し揺すってやろう!グラっと動かした途端、だだだっ…電光石火のごとく、奴は私の口元に飛び乗り鼻からオデコを駆け抜けていったのです。わかっていたけど、この硬い爪先、スピード、カサカサ感!確信しました。ゴッキ―だ。

すぐさま跳ね起き、室内灯の紐(スイッチ)を力いっぱい引きました。奴はどこにもいません。勢いよく引いたランプの紐がゆらゆら揺れています。それ以外の動きはまったくない。恐ろしく静かな時間が流れていきます。必ずどこかにいるはず…こうなったら絶対見つけ出してやる。8畳の部屋には箪笥が一つ置かれているだけの非常にシンプルな和室です。タンスの後ろだろうか?覗き込んだり、少し動かしてみたり、いろんな隙間をさんざん探し回ったのですが、どこにもいません。はは~ん、わかったぞ!この忍者野郎…灯台下暗し作戦だな!私のパジャマのどこかに潜んでいるに違いないと思い脱いでみたのですが、やっぱりいない。布団の上でパンツ一丁になって、茫然と突っ立っていると、引き戸が突然、スライドしました。1階で寝ていた母が2階のドタバタ音に気づき、慌ててかけ上がってきたのでした。私のあられもない姿を見た母の表情がみるみると変わり…

「あんた、頭がおかしくなったんか?こんな真夜中に服も着ないで何してる?」と怒鳴りつけられました。我に返った私は、母の気持ちを落ち着かせようと、できるだけ穏やかな口調で、「母さん、ゴキブリがいたんだよ」と伝えると…

「あんた、こんな寒い真冬にゴキブリいるわけないやろ!あんた、ほんまに頭、大丈夫か?もう少しまともな夢を見たらどうや!」と…。母にどやされると…「そうだよな、極寒の1月だもんな。オカン(母)の言う通りやな。それにしてもリアルな夢だったなぁ~」

顔を走って縦断されたことが現実であってほしくない私は、やはり夢で片づけることにしたのです。

 

ゴキブリの幼虫。どんな生きものでも子どもは可愛らしい...と私は思います。 生まれた時の大きさは5ミリほどで、脱皮をしながら成長し、 8~10回ほどで成虫になります。

ゴキブリの幼虫。どんな生きものでも子どもは可愛らしい…と私は思います。
生まれた時の大きさは5ミリほどで、脱皮をしながら成長し、
8~10回ほどで成虫になります。

 

さて、数日後、東京に戻った私の家に突然、母から電話がかかってきました。何だろう?と思い電話をとると、「ひろし!いたわ!おっきい奴が、あんたが寝てた部屋におった!いやいや、良かったわ。ひろしの頭がおかしくなったんかと少し心配してたんでな。ひろしは正しい。ゴキブリって真冬でもいるんだね。良かった良かった!」と…

「ほら見てみ!嘘やなかったやろ。まったく…俺は正しい!わはは…。母さん、元気でな。チン」

電話を切ったあとの私の複雑な心境をご理解いただけるでしょうか?私はオオカミ少年でなかったことが証明されたのですが、やっぱり私の顔を奴は歩いたんだ…。

あの“G”は、私の口から漏れ出るスタミナラーメンの微かな香りに引き寄せられたのでしょうね。あのときの様々な情景がありありと頭に蘇り、気持ちはけっこう落ちました…。

 

皆さん、ゴキブリのこと、正しく知ってほしいと思います。カマキリとゴキブリは分類学上、とても近い種類なのですが、カマキリは人気者!ゴキブリは嫌われ者です。恐竜時代から生き残ってきた、生命力に溢れたすごい昆虫なのにヒドイ扱いですね。

 

 

Project WILDに「第一印象First Impressions」というアクティビティ(プログラム)があります。その生き物のことを良く知らないで、勝手に嫌いと決めつけるのはやめよう!そんなプログラムです。ゴキブリのことを嫌う人は山のようにいますが、ゴキブリのことを良く知っている人は本当に少ない。好き嫌いがあるのは良いと思います。でも、ちゃんと相手のことを知ってから嫌いになりましょう。そうでないと相手に失礼です。生物多様性の大切さが謳われています。もしゴキブリがこの世からいなくなれば、生態系のバランスはどこかで崩れるでしょう。ゴキブリ君の存在が私たちの豊かな暮らしを支えてくれている…はずです。私は嫌いですよ!その理由をちゃんと言えます。トゲトゲの足、素早い動き、そして何より嫌なのは臭いです。体に備えた臭腺から油臭い、何とも表現しにくい香りを発することで仲間同士のコミュニケーションや結婚相手を探すのに役立てています。

皆さん、ちゃんと相手のことを知ってから、好き嫌いを判断しましょうね。それは様々な生きものたちと共生していくために、とても大切なことなのです。

 

 

(2022年1月掲載)

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/

キーワード: ゴキブリ、昆虫、網翅目、生物多様性
川原 洋(かわはら ひろし) <br/>Nickname / ひろ(Hiro)
川原 洋(かわはら ひろし)
Nickname / ひろ(Hiro)
一般財団法人 公園財団 公園管理運営研究所
開発研究部 環境教育推進室長
Project WILD 日本代表 コーディネーター

1967年11月奈良生まれ・奈良育ち。幼少から特に生き物が大好きで小学生時代は真っ暗になるまで野山で遊び、家の中で遊んだ記憶があまりない。 当財団がProject WILDをアメリカから導入した、1999年よりこの仕事に携わる。 アメリカで年1回開催されるProject WILDコーディネーター会議に、日本代表として参加しAFWA(全米野生生物協会)や全米各州のコーディネーターとネットワークを持つ。
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