公園文化ロゴ
公園文化ロゴ
生きもの小話パンくず
公園文化を語る 公園の達人 公園管理運営「チャレンジ!」しました 生きもの小話 みどり花コラム アートコラム 花みどり検定 公園の本棚 世界の公園 たまて箱 公園”Q&A /
生きもの小話
サケの遡上を体験する

サケは、食べられる恐れの少ない川で孵化・生長した後、豊かな海へ出て成熟し、生まれた川へ戻って産卵します。知識としてはよく知られていますが、私は実際にサケの遡上を見たことが無く、いつか、子供たちと見てみたい、と新潟市内の夫の実家で、大みそかに新巻鮭を食べるたびに思っていました。夫に「サケの遡上はどこで見られるかな?」と聞くと、「僕は高校生の時に信濃川に上ってくるのを見たことがあるよ。」と的の外れた返事が返ってきました。信濃川と言えば、日本最長の一級河川で、その河口域となる新潟市内では、全長約300mの万代橋がかかっていることからも容易に想像がつくように、川幅は広く、観察施設でもない限り、お盆と年末年始に帰省するだけの私たちがサケの遡上を見られるはずもなく、新潟でサケの遡上を見ることはかないませんでした。

 

そんな折、長男が小学1年生、次男が4歳になる年に、夫の都合で、1年間、アメリカの西海岸にあるシアトルに家族で住むことになりました。シアトルは、エメラルドシティと呼ばれるように、緑豊かな都市で、私たちは週末ごとに様々な場所へ足を運びました。その一つに、チッテンデン・ロック(Chittenden・Locks)がありました。チッテンデン・ロックは、水位の異なるピュージェット湾とレイク・ユニオン、レイク・ワシントンを船が行き来するための水門で、年間4万隻もの船やツアー船が利用しています。人間が船で行き来するだけでなく、サケも海からレイク・ワシントンへ行き来できるよう、フィッシュ・ラダーがあり、観察のための施設も設置されていました。6月のキングサーモン(Chinook salmon)から晩秋のギンザケ(Coho salmon)まで、長期に渡ってサケを観察することができます。6月に訪れたときには、数はわずかでしたが、落差数メートルある急なラダーを何度も失敗しながら、やっとの思いで上っていく姿が見られ、「サケはこんな急流をのぼるのか。」と感心しました。

 

「Where’s the Fish Ladder?」とあり、本物を観察して欲しい、 という思いを感じるチッテンデン・ロックの看板

「Where’s the Fish Ladder?」とあり、
本物を観察して欲しい、という思いを感じる
チッテンデン・ロックの看板

一方で、長男の通う学校の裏にある公園(Carkeek Park)は、ピュージェット湾に面しており、環境の変化によって1920年代に途絶えたサケの遡上を市民活動によって復元させたPiper’s Creekという小川がありました。私は、毎週水曜日にその公園内を散策するグループに参加し、公園にある森の中の大木やピュージェット湾の眺めを楽しみました。10月から11月にかけて、散策会は、毎回Piper’s Creek沿いを歩くサケ観察ルートになりました。参加者は、サケの姿を見つけると、立ち止まり、流れに逆らって段差を登ろうとするサケには「Go for it! Go! Go!」と皆で声に出して応援し、木陰で休むサケには、「Just over there!」と指さして、いつまでも見ていました。また、Piper’s Creekの水のたまったところにサケがいると、あそこで産卵をしているのではないか、もっと近くで見たい、ひょっとして、川岸まで下りたら卵が見えるのでは??と思ったものでした。もしも、お互いの目が無かったら、川まで入って卵を探しだすのではないか、と思うくらい、私も含め、みんな、サケに夢中でした。11月に開催された「Salmon Walk」では、公園管理者がサケの遡上を復元した話や、現在行っているサケの稚魚の保護、放流について話てくれ、公園内にある稚魚を育てるタンクなどを見せてくれました。参加者もいつもの倍以上の30人程度が集まっていて、市民のサケへの関心の高さを感じました。

 

上流で産卵するキングサーモン(Chinook salmon)と異なり、 シロサケ(Chum Salmon)は河口付近で産卵する(Piper’s Creekにて)

上流で産卵するキングサーモン(Chinook salmon)と異なり、
シロサケ(Chum Salmon)は河口付近で産卵する(Piper’s Creekにて)

 

ある日の散策会で、産卵を終えて力尽きたサケの死体が川べりにあるのを見つけました。そのサケには、何かにかじられたたような跡もみられ、私の中で、「そうか、死んだサケはアライグマなどの野生生物が食べるのだな。」と腑に落ちた瞬間がありました。まさに、産卵して命を落とすサケの生態を理解した体験でした。先のチッテンデン・ロックで見られるサケは、フィッシュ・ラダーを通り過ぎたら、そのあとはどうなるのかわかりません。しかし、Piper’s Creekでは、遡上だけでなく、サケがどんな場所を選んで産卵するのか、産卵後どんな姿になるのか観察できます。知識だけでは得られない、サケが命をつなぐ姿が目の前で繰り広げられるのです。

この感動を子供たちと共有したい、と思い、休日に夫と子供たちを連れてPiper’s Creekに行きました。「あそこにサケがいるよ、見えてる??海で暮らしていたサケが帰ってきて、川で卵を産むんだよ!」と説明しましたが、子供たちは、淡々とサケの観察を済ませ、感動を共有するには至りませんでした。

意外にも、夫が「こんな小さな川にもサケがのぼるのか…!!!」と感動し、じっとサケを見つめていました。夫には信濃川に上るサケを見た経験があるからこそ、Piper’s Creekで命を落とすサケの姿は衝撃だったのでしょう。彼の感動もまた、私が感じたものとは異なるものでした。

経験と知識、興味によって同じサケの生死を見ても異なる感動を得るのです。あれから10年近く経った今、私たちがPiper’s Creekを訪れたら、それぞれに違う感動を得るのかもしれません。夫が見た信濃川のサケのように、子供たちにとってPiper’s Creekのサケが彼らの新たな発見や感動の礎になることを願っています。

(2021年10月掲載)

 

長男の通っていた小学校では、 サケの稚魚を育ててPiper’s Creekへ放流する活動も行っている

長男の通っていた小学校では、
サケの稚魚を育ててPiper’s Creekへ放流する活動も行っている

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/

世界の公園玉手箱カーキークパーク:https://www.midori-hanabunka.jp/world/CarkeekPark/

キーワード: サケ、遡上、アメリカ、シアトル
高橋 悦子
高橋 悦子
Project WILDエデュケーター、樹木医
畑のパセリについたキアゲハの幼虫を家に持ち帰り、羽化を見て楽しむような母親に育てられ、昆虫、クモ、カナヘビなど身近な生き物に親しむ子供時代を過ごす。高校生の時に、新聞のコラムで知った「樹木医」にあこがれ、造園系の大学へ進学。卒業後、一般財団法人 公園財団に入団し、勤務先の公園で生きものの面白さを再発見する。 好きな生き物はタマムシ。きらきらした色と流線形のボディに加え、身近な生き物のはずなのにあまり見かけないレア加減がたまらない。
区切り線