オオムラサキやん!憧れの蝶が目の前にいる…
昭和54年8月15日の午後2時、小学6年生、夏休みの思い出です。あの日は浜田武と秘密の場所へ出かけました。狙いは大きなクワガタです。小さな自転車を30分ほどこぎ続けると、秘密の場所の入り口に到着します。人に知られたくないので自転車を草むらに隠し、素早く山に突入、山道を足早に駆け上がります。20分ほどで大きな「一本クヌギ」が遠目に見えてくると、なんとも言えない甘酸っぱい香りが漂い始め、ワクワク感は最高潮!幹回りは1m近く、根元から真っすぐに青空に突き出した大木です。小学生の私と浜田がちょうど手をつなぐとクヌギの幹の太さになる。その高さ5メートルほどの枝分かれしている辺りに樹液がたっぷり染み出しています。
見上げると、いつもは巨大なノコギリやミヤマクワガタが鎮座しているのに、その日は巨大な蝶が悠々と樹液をなめていました。当時から私と浜田は昆虫図鑑を隅から隅まで穴が開くほど見ていましたから、すぐにその巨大な蝶がわかりました。二人、同時に、ひそひそ声で、「オオムラサキやん!」と…。切手の絵柄にもなっている日本の国蝶が目の前にいる!やばい!今まで数えきれないほど色んな場所に足を運んだけれど、オオムラサキに遭遇したのは初めてでした。
しかし、アミ(捕虫網)を持ってない…。クワガタ狙いのときは、蹴ったら落ちてくるので網は持っていかないのです。でも、なんとしても手に入れたい!
器械体操の要領で肩に足を乗せて立ちあがると高さは2倍!そのまま手を伸ばして帽子で捕獲する…いや高さを考えるとまだ届かないか…。木によじ登るのはどうか?これも二抱えもある巨木なので、登れたとしても両手がふさがった状態での捕獲は無理だ。むむむ…考えた結果、一人が見張りをして、1人が網を取りに帰る!決まれば即行動!私は山道を転がりそうな勢いで駆け下り、自転車に飛び乗って競輪選手並みの猛ダッシュ、団地C10の3階まで駆け上り玄関に立てかけてあった網を掴むとまた、もと来た道へ!1時間ほどで浜田の隣に立っていた。
「早かったな!」「まだいるか?」「おるで!」
2人の会話はこれぐらい…
見上げると、ほぼ同じ場所にゆったりととまっていました。
すぐに網をかまえて…手の震えを抑えながらサッとかぶせました。むむむっ…アミの枠には入っているのだけど、オオムラサキは飛び立たない。動かないオオムラサキをどうしようか。このまま網をずらしていくしかない。浜田から「ゆっくり慎重にいけよ!」と声がかかる。
バサバサバサ…突然、網の中に落ちた。羽ばたく力がすごい。網の中で羽ばたいているのは本当にチョウなのだろうか…小鳥を捕えたような感覚を憶えた。手に残った心地良い振動と重さをまだ記憶している。
この素敵な場所は、すでに住宅地になってしまいました。でも、私の記憶の中にしっかりと刻み込まれています。目を閉じると、入り口から大きな一本クヌギの場所までほぼすべての映像が蘇ります。これだけ鮮明に思い出すことができるのは、何度もあの場所に通ったこと!そして、やはりオオムラサキの思い出があまりにも鮮烈だったからです。
あれ以来、幾度となくあの場所に足を運びましたが、オオムラサキに遭遇したのは、あのときだけ、たった一度きりの出会いでした。
この写真の標本が、そのときに採集したオオムラサキです。正しい標本製作、適正に管理をすれば50年近く経った今も、採集した当時のまま!?と言っても良いほどです。
標本=命を奪う=よくないこと
なんて考える方もいらっしゃいますが、子どもたちが自然の美しさ、大切さを感じ学ぶための1つの良い方法だと私は考えます。手先を使った細かい作業(標本作り)は、脳の活性化にもつながります。また、正しい標本ラベル(採集日、採集場所、採集者名)をしっかり記録しておくと、今はすでに開発で失われてしまったあの場所に、日本の国蝶が生息していた証拠(データ)にもなります。
是非、子どもたちと昆虫採集に出かけてください。小さな生き物たちにも私たちと同じ命があること!必死で生きていることが感じられます。そして、私とオオムラサキのような一生忘れない出会いがそこにあるかもしれませんよ!
昨年夏より日本産クワガタムシにこだわったオンライン標本展示をスタートしています。
チョウの標本も素敵なのですが、甲虫もお薦め致します。特にクワガタムシは、子どもさんから大人の方々にも根強い人気があります。大きく美しい外国産のクワガタムシに注目が集まりがちですが、是非、日本(祖国)のクワガタたちにも目を向けていただきたいと思います。驚くほど多種多様なクワガタたちが日本国内に生息しています。日本が誇る豊かな自然環境の証です。
◆Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/
(2024年9月掲載)
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