はいさい!沖縄美ら海水族館で飼育員をしている山﨑啓と申します。今日は、沖縄に生息しているちょっと珍しい爬虫類を紹介させていただきます。
“身の回りの爬虫類”と聞かれて、皆さんが一番に思い浮かぶのは、何でしょうか?カメでしょうか。それともヘビですか。ちなみに、爬虫類をペットとして飼育されている方が年々増加している昨今、購入ランキング1位の爬虫類は、アフガニスタンやパキスタン原産のヒョウモントカゲモドキ(英名:レオパードゲッコウ)という原始的な地表性のヤモリです。多くのトカゲが昼行性であるのに対し、トカゲモドキ類は、ヤモリの仲間なだけに夜行性です。しかし、他のヤモリの仲間のように、指下板(指趾の裏側の細かい毛の集まり)を持たないので壁を這うことができません。さらにトカゲにありヤモリにはない可動性の瞼を持つので、瞬きが可能となります。「トカゲモドキ」と言うだけあって、トカゲのような特徴を持ったヤモリです。
実は日本国内にもトカゲモドキの仲間が生息しています。その名も、クロイワトカゲモドキ。沖縄諸島の固有種で5亜種に分かれ、沖縄県の天然記念物や環境省の国内希少野生動植物種にも指定される等、絶滅が心配されています。捕まえてしまうと、罰金500万円(以下)、法人なら罰金1億円(以下)なので、皆様注意してくださいね。私の職場、沖縄美ら海水族館が位置する海洋博公園内は、本種の生息域になっており、2015年からは生息実態調査を兼ねた「海洋博公園ナイトツアー」を行っています。ナイトツアーは毎年4月から10月のトカゲモドキの主な活動期に合わせ、各月2回実施しています。対象は小学生以上で定員は1回20名、日没後の園内を10名程のグループに分かれ、約2時間徒歩で探索します。また、探索前後には合わせて1時間程の室内学習会も行っています。
このナイトツアーを通した調査によると、園内にはクロイワトカゲモドキが1ha(100m×100m)に126 個体が生息していると推定されました。多くいるように思うかも知れませんが、生息範囲は園内でも局所的で、お客様と一緒に観察するのはなかなか容易ではありません。クロイワトカゲモドキは、非常に臆病な性格をしており、餌を探す際も隠れ家として利用している石垣やゲットウの茂みの目の前までしか出てこず、こちらの気配を察すると素早くそれらに逃げ込んでしまいます。ナイトツアー中も、“希少な在来種をお客様に見ていただきたい、知っていただきたい”という思いとは裏腹に、職員だけが目撃しお客様が観察する前に逃走してしまうことが幾度となく繰り返されてしまいました・・・
さて、この臆病な生きものを、ツアーに参加したお客様に見ていただくコツが2つほどあります。1つ目はトカゲモドキが好む生息場所をお客様と情報共有することが大切です。2つ目は、これが最も大事なのですが、その場所に近づいたら、“気配を消し去ること”です。トカゲモドキに近づくことが出来れば、写真を撮られても動きません(成功率は7割ぐらいでしょうか)。「まだバレてない。動かずやり過ごそう」とでも、思っているのでしょう(笑)。
ナイトツアーの様子は客観的に見るとシュールかもしれません。こちらが、油断するとすぐに逃げてしまう上に、遭遇率が低い日はトカゲモドキを観察できるチャンスは1度あるかないかです。ある方はゴキブリへの悲鳴を手で口を押さえて飲み込み、ある方は蛇への恐怖心を乗り越えて、その少ないチャンスを逃さないよう10名程の大人や子どもが一緒になって、暗闇の中、ライトもつけずに抜き足差し足忍び足…トカゲモドキの姿を発見すると、ボリュームを最小限にした歓喜の声をあげる。このように苦労して見たその姿に多くのお客さまは魅了されます。
クロイワトカゲモドキは、民家の石垣や生垣も隠れ家に利用し、かつては非常に身近な生きものでした。近年の環境開発による生息地の減少や違法採集、外来種の脅威等によって生息数が減少しており、絶滅が危惧されるようになりました。“身近”である分、私たちの生活の変化が及ぼす影響が大きいのでしょう。ぜひそう言った視点で野生の生きものに目を向けてみませんか。また、苦労して出会った野生の生きものの姿は、また一段と美しいはずです。ぜひ、海洋博公園のナイトツアーに参加し、クロイワトカゲモドキをはじめとした野生生物の魅力を体感していただけば幸いです。心よりお待ち申し上げます。
(2021年12月掲載)
Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています:https://www.projectwild.jp/
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