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生きもの小話
「豊かさが繋いでくれるもの」

私の趣味は山登りと散歩です。淡々とぼーっとしながら歩くのが好きで、休みの日にはよく山や森へ出かけます。山や森は生き物たちの棲みかです。いつも”皆さんのお家にお邪魔させていただきます”と思いながら、大好きな山や森へ足を踏み入れます。

 

山や森で出会った生き物は、ツキノワグマ、アナグマ、シカ、フクロウ、キタキツネ、タヌキなど数知れません。ツキノワグマには3回程出会いました。土に残る大きな足跡と大きなフン、そして獣臭を感じた時の怖さは今でも覚えています。もっふもふ尻尾のキタキツネが、雪の上をぴょーんぴょーんと気持ち良さそうに走っている姿を見て、楽しそうだなと感じたこと。薄暗い森の中からフクロウのホーホーという鳴き声が聞こえ、心地良いと感じたこと。知らず知らずのうちに自然は人の心を豊かにしてくれる、そんな気がします。

 

私は今、北海道で暮らしています。北海道の山々は1年の半分程、雪が積もっています。白くて空気が澄んでいて、とても静かな冬の森が私は好きです。雪が降った翌日は、頑張って早起きをして、水筒に熱々のコーヒーを注ぎ、散策のお供であるドーナツをリュックに入れ、早朝から森へ出かけます。どんなに早く行っても必ず先客がいて、きらきらとした新雪にポツポツと小さな足跡がちらほら、、、エゾシカやキタキツネでしょうか。

 

凍った湖の上に残る動物の足跡

凍った湖の上に残る動物の足跡

 

森の中でササが揺れる音や足音が聞こえて振り返ると、エゾシカがこちらの様子をうかがっています。エゾシカはニホンジカの一種で、北海道のみに生息しています。日本に生息するシカの中では最大級で、大きなオスは体重150kg以上になるそうです。立派なツノを持ったオスが颯爽と森を駆け抜ける姿を見かけると、その迫力と美しさに圧倒されます。初めてエゾシカと出会った時はその大きさに驚きましたが、毎日のように見かけると、だんだん大きさにも慣れていきます。それでも、ついついカメラのシャッターを切ってしまうのは、自然がもたらす一瞬の美しさを残したいという想いが、自分の中にあるからだと感じます。

 

雪が降る中で仲間を見つめるエゾシカ

雪が降る中で仲間を見つめるエゾシカ

 

エゾシカは他の種類のシカと同じように、季節によって毛皮の色や模様を変化させます。夏毛は赤茶色で、胴から背中にかけて見られる白い斑点“鹿の子模様”は、木々の間に差し込む木漏れ日の風景に溶け込みます。冬毛は斑点のない濃い灰褐色で、枯葉や枯れ枝など冬の森の色合いになります。私たちと同じように季節に合わせて衣替えをするわけです。エゾシカに限らず北海道に生息する動物たちは、暖かな地域に生息している種類と比べると体の大きさや重さ、毛皮の色や量などが異なります。北海道という極寒の大地で生き抜く動物たちの知恵や戦略、そして強靭な生命力を感じることができます。

 

5月に森で出会ったエゾシカ(夏毛にかわりつつある)

5月に森で出会ったエゾシカ(夏毛にかわりつつある)

 

1月に森で出会ったエゾシカ(冬毛)

1月に森で出会ったエゾシカ(冬毛)

 

そんな逞しく生きているエゾシカと、今年の冬に悲しい出会いがありました。5頭のエゾシカが海岸沿いのフェンスをぴょんと飛び超え、突然、私の愛車の前に現れました。急ブレーキを踏んでも間に合わず、大きなオスジカのお腹に激突。衝撃でシカは倒れましたが、すぐに起き上がりガードレールを超えて住宅街に走り去って行きました。シカが生きていて本当に良かった!という気持ちと、シカにとても悪いことをしてしまったという後悔の気持ちで一杯になりました。その夜、道内のエゾシカに関する事故について調べてみたところ、交通事故は毎年4000件近く発生していました。特に私が住んでいる胆振いぶり地方の事故件数が最も多く、全体の約2割を占めていました。

また、事故に遭ったおかげで、北海道内の衝突事故件数をまとめたエゾシカ衝突事故マップがあることを知りました。事故が発生してから気を付けるのではなく、発生しないように気を付ける、そのために必要な知識や情報を事前に収集しておくことが大切。仕事の際は意識しているのに、「詰めが甘いぞ自分!」と、さらに大反省しました。

 

あらためて、シカが命を落とさなくて良かったと心の底から思いました。そして、あの時のシカさんが今も元気に暮らしていることを願うばかりです。シカさん!痛い思いをさせて本当にごめんなさい。

 

私にとっては悲しい出来事、シカにとっては痛い出来事でしたが、今回の事故のおかげで、私たち人間と野生動物はとても近しい存在であることを改めて気付かされました。自然豊かな北海道で暮らすということは、そういうことなのです。私たちが生活している隣で、動物たちも同じように暮らしています。だからこそ、傍にいる相手のことを“理解しよう”という気持ちが自然に芽生え、日常生活の中に溶け込んでゆくのだと思います。公園も私たち人間と生き物が身近な存在であることを感じ、互いの生活を認識できる場所だと思っています。公園に訪れる方々が、少しでも生き物のことを理解してみようかなと歩み寄り、自分なりに生き物との向き合い方を見つけられる場になれば嬉しいです。

 

自然は人の心を豊かにしてくれる、その豊かな心で生き物とこれからも向き合っていきたいなと私は思います。生き物も人間も「豊かさ」があれば繋がれる、そう願っています。

 

(2024年6月掲載)

 

Project WILD公式HPには環境教育活動事例などが掲載されています。 https://www.projectwild.jp/

 

キーワード: エゾシカ、ツキノワグマ、豊かさ、北海道
臼井 ひとみ (うすい ひとみ)
臼井 ひとみ (うすい ひとみ)
一般財団法人公園財団 民族共生象徴空間管理事務所勤務
Project WILDエデュケーター

潮風香る海の町で、自然と触れ合いながらのびのびとした幼少期を過ごす。
鶏小屋の卵を家に持ち帰り、姉と2人でこっそり温めていた小学生時代。海の真横にある学校の教室から、気持ち良さそうに風に乗っている鳶を授業中に眺めていた中学生時代。

とにかく公園が好き!という気持ちで公園財団に入団。国営武蔵丘陵森林公園で約3年間企画を担当し、現在は民族共生象徴空間(ウポポイ)にて施設・植物管理を担当。
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「豊かさが繋いでくれるもの」
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