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第19回 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る

公園をより楽しく、有効に使ってもらうために公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。

◆第19回は、群馬県高崎市で絵本を通して子育て支援活動を行っているNPO法人「時をつむぐ会」代表の続木美和子さんのインタビューです。
2016年3月、群馬県高崎市の観音山丘陵にあった遊園地「カッパピア」の跡地に、続木さんらの働きかけによって、ドイツ・ケルナー社製の遊具が設置された「ケルナー広場」が開園しました。
子供たちが心身共に健康に育つことを願い、絵本の読み聞かせや原画展を開催して地域文化の向上に努めるかたわら、公園づくりにも奔走してきた続木さん。これまでの活動についてお話をうかがいました。

絵本専門店「本の家」から生まれた「時をつむぐ会」

私は北海道富良野市で生まれ育ち、結婚を機に群馬県高崎市に住んでいます。当時、高崎駅前に絵本専門店「本の家」がありました。店内にはさまざまな絵本や児童書があり、大人が読んでもとても面白く、私はすっかり絵本にハマってしまいました。その後娘を出産してからも足しげく通い、毎月、夫の給料が出ると子供用に一冊、自分にも一冊、さらに贈り物としても絵本を購入していました。

その後、転機が訪れます。「本の家」の経営者が、病を理由に閉店するというのです。私は「絵本が買えなくなる」と、悲しい気持ちになりました。また、ちょうどその頃、早朝から深夜まで働き詰めだった夫が、「転職したい」と口にしていました。夫婦で話し合いの結果、夫が脱サラして「本の家」を引き継ぐことになりました。駅前にあった「本の家」は、その後、現在の高崎市中居町に移転しました。
多くの母親と子供たちに絵本を読んでもらおうと、意気揚々と「本の家」の店主になったものの素人経営者です。絵本は全く売れませんでした。見かねた出版社の担当者から、売るためには「種まきが必要」とアドバイスを受けました。

出版社の力も借りて、子供の年齢にあった絵本の選び方の勉強会や児童文学の講演会を店内で開くことにしました。勉強会や講演会には、子育て中の母親や児童文学に興味を持つ人たちが参加してくれるようになりました。絵本を深く学び、その魅力を知るにつれ「子供たちに本物の芸術を見せたい」という思いが募り、「本の家」に集まる絵本愛好家約30人とともに、1994年に「時をつむぐ会」(以下、会とする)を結成しました。

会では、「絵本は子供が出合う最初の文学であり、芸術である」を合言葉に、絵本や児童文学に関する情報発信を中心に、子供たちへの絵本の読み聞かせや、出版社や大学から講師を招いた勉強会や講演会を開催しています。

原画展で絵本ファンを増やす

会の活動の柱は絵本原画展です。きっかけは、米国の著名な女流作家が、東京で絵本原画展を開催することを知り、「高崎市でも開催したい!」と、企画会社を通じて直接依頼交渉をして実現したことからです。当時開館したばかりの高崎シティギャラリーの展示室で、1995年に初の原画展「ガアグ・バートン・エッツ展」を開催しました。地元新聞の記者が、田舎では見ることのできないアメリカの絵本原画であることや絵本原画の素晴らしさ、運営しているのが普通の主婦たちであることなどを紙面で紹介してくれたおかげで、期間中約1万人が来場してくれました。

絵本の原画は実に美しく、見た人は感動のあまり涙を流すほどです。原画展を見終わった来場者が、次々と絵本を手に取って購入してくれました。まさに「種まき」を実感しました。以後、原画展は年に1回、開催しています。

2000年1月には、高崎市制100年記念として「エリック・カール絵本原画展」を企画しました。米国の絵本作家エリック・カールの代表作『はらぺこあおむし』は、あおむしがチョウになるまでの出来事を貼り絵や、穴を開けた紙などで立体的に表現した絵本です。

「エリック・カールの本物の作品を子供たちに見せたい」と考えた私は、出版社に翻訳者の女性を紹介してもらい、米国にあるカール氏の自宅を訪ねました。直接会って交渉の末、原画展とカール氏の来日も実現しました。18日間開催された原画展には約2万人の来場者があり、入場制限をするほど大盛況でした。

会が主催する原画展は、表紙から裏表紙まで見せる全点展示にこだわっています。1冊の絵本を本物の絵で見られることは、とても貴重であり贅沢なことです。展示会開催の際は、会のメンバーがプロの手を借りながら会場構成、原画・美術保険の手配、額装、会場運営に至るまで、助成金などを頼らずにすべて自分たちの手で行っています。

1995年から国内外の著名な作家らを高崎市に招致した実績が認められ、会は2001年にNPO(特定非営利活動法人)に認証されました。

「ぴよぴよの会」は、読み聞かせから育児支援全般まで

保育園や幼稚園に通う前の子供たちにも、よい絵本に出合ってほしい。それにはまず母親も一緒に読み聞かせを楽しんでもらおうと、会の中に子育て支援活動「ぴよぴよの会」をつくり、1995年から活動しています。

「ぴよぴよの会」が発足したきかっけは、代表を務める元保育士の横山由美子さんが産休中、何軒かの友人宅を訪れた際、家の中に絵本がないことに驚き、家庭の中に絵本がないのであれば、読み聞かせの場を作ろうという思いからです。当初は近所の病院の協力を得て、小児科病棟のコミュニティスペースで、読み聞かせを始めました。読み聞かせは午前10時から開始。10組ほどの親子が集まってくれたのですが、何人かの子供がご飯やお菓子を食べながら聞いていました。おそらく起床後、慌ただしくやってきたのでしょう。衝撃を受けた横山さんはこの出来事を機に、母親に「早寝、早起き、朝ご飯」「決まった時間に食事する」といった生活リズムの重要さを最優先に伝えて、絵本の読み聞かせを行うようになりました。そんな積み重ねの成果でしょうか、意識が変わり始めた母親たちから、子供とともに早寝早起きが習慣になり「肌の調子が良くなった」という声が聞かれるほどになりました。

その後活動場所は高崎市内の公民館に変わり、絵本の読み聞かせや子育て講話の他に、わらべ歌、ふれあい遊び、手遊び、おやつ作り、自然観察など自宅でも親子で取り組める内容を企画して活動しています。「ぴよぴよの会」のスタッフは、横山さんの他に元保育士や小学校の先生など幼児教育に携わっていたベテラン揃い。当時はまだ「子育て支援」という言葉が無い時代でしたから、母親にとっては、気軽に子育ての悩みを相談できる貴重な場になっていたと思います。

カッパピア跡地を「子供たちのための広場に」ケルナーさんと出会う

高崎市には、1952年に開園した「カッパピア」という遊園地がありました。高崎白衣大観音が見つめる麓で、周辺の自然も満喫できる約15ヘクタールの広大な土地にジェットコースターや流れるプール、結婚式場などもあり最盛期には年間60万人が来場する群馬県を代表する行楽地でした。しかし、運営側の経営悪化により2003年に閉鎖されました。

カッパピアの閉鎖を知った会は、跡地を子供の遊び場、親子がくつろげる広場に整備したらいいのではないかと考え、「カッパピア高崎どろんこの森」(以下、「どろんこの森」とする)の構想を練り始めました。

一方、翌年の2004年、ドイツの遊具・玩具メーカーの社長兼デザイナーのハンス・ゲオルク・ケルナー氏(以下、ケルナーさん)が初来日します。「本の家」ではおもちゃも扱っていることから、東京で開催されるケルナーさんの講演会を聞きに行きました。私はケルナーさんの講演の中で、「世界中探しても100%安全な遊具などはない。大事なのは、子供の危機回避能力を養うことだ」という話に感銘を受けました。会が構想を練っている「どろんこの森」にこそ、*ケルナー遊具が必要だと感じ、講演後、私は壇上に駆け上がって「高崎市に来てほしい」と直談判していました。

*ケルナー遊具とは、斬新なデザインと構造が特徴で、子供が自由に創造したり、工夫して遊ぶことができる。滑り台の階段やジャングルジムが斜めになっているなど、一見、危なそうに見える遊具は、子供の冒険心を駆り立てて、危険を回避する身体能力の向上につながる。自分で考え、見て触って自分の責任で遊ぶことが狙い。「子供が遊びを通じて自分の限界を体感できるよう、ある程度リスクを提供し、危機回避能力や身体能力を高めることが大切である」という考えからデザインされている。

心配性で過保護な親が多いこともあって、今の子供たちは遊びの中でも危ないことを避けた環境の中にいます。そんな環境に慣れてしまうと、子供の成長を妨げてしまいます。公園を見渡せば安全な遊具ばかりで、危険と判断された遊具がどんどん撤去されているように感じます。

ケルナー遊具は、子供たちが外遊びをするきっかけになり、体力や運動能力の向上はもちろん、危険予知能力や事故回避能力を高めることにもつながると思い、「カッパピア跡地にケルナー遊具を導入したい」と市に熱望しました。

「どろんこの森」構想から13年、「ケルナー広場」開園

2005年、会の招きで来日したケルナーさんは、すっかり荒廃してしまった遊園地跡を見て「(盛んだった当時の)遊んでいた子供たちの声が聞こえるようだ」と言いました。会の構想も含め、心を動かされたケルナーさんは、翌年には自費で再来日。私たちとともにケルナー遊具の導入へ向けた活動に参加してくれました。

市が2007年にカッパピアの土地と建物を買収したことを知り、私たちは『世界で最大、最高の「カッパピアどろんこの森」~こどもフィールドミュージアム~設立に向けて』と題する企画書を作成し、市に提出しました。2009年には公園整備の基本計画を策定した市に対して、私たちは折にふれ、遊びや教育の大切さ、ケルナー遊具の良さ、会が広場の管理運営に携わる熱意を伝え続けた結果、ついに2011年、市は私たちの要望の一部を受け入れてくれました。カッパピア跡地164ヘクタールのうち、一部が市民のための広場として整備され、ケルナー遊具の設置が決定しました。

2016年3月26日(土)、観音山公園として整備した約1.5ヘクタールの中にケルナー遊具が置かれるゾーンを「ケルナー広場」、入り口のあずまやがある場所を「エントランス広場」、広い芝生のエリアを「芝生広場」と名づけ、部分開園しました。「どろんこの森」構想から13年という長い時間がかかりました。長く厳しい道のりでしたが、ケルナーさんをはじめ市の公園緑地課の担当者、会のメンバーの熱意と情熱のおかげです。

ケルナー広場開園後、「ぴよぴよの会」は「青空ぴよぴよ」という名称の屋外での子育て支援活動を毎週2回(月・木)、午前10時~11時に行っています(予約不要、無料)。10時近くになると、毎回平均10組ほどの親子がやって来ます。まずエントランス広場で絵本の読み聞かせをしてから芝生広場で植物観察など自然遊びを行います。

手助けはせず、声掛けと見守り

ケルナー広場の利用時間は午前9時から午後5時まで、利用は無料です。管理・運営は、市から委託を受けた会が担当しています。主に※※ケルナー遊具の安全管理、声掛け、来場者のカウントなどを行っています。現在、会の登録人数は約100人ですが、「ぴよぴよの会」のスタッフも含め、常時30人程が携わり、平日は3~4人、土日なら5~6人が常駐しています。

「ケルナー広場」での遊びは、基本的に自己責任です。
遊具をデザインしたケルナーさんからのメッセージが書かれた看板が広場内に設置されています(日本語とドイツ語)。

以下、メッセージの全文です。

親愛なる子どもたち 親愛なる保護者たちへ
気持ちよく 自由に 心を開いて おもいっきり 自分を試して遊んでください
保護者へのお願い 子どもが遊ぶ時に 手助けしないでください

会ではケルナーさんの遊具に対する考えを尊重しながら、注意が必要な子供や周囲の大人には声を掛け、目を配る見守りを心掛けています。子供たちの行動で注意する点は、棒付きのアメやアイスクリームなど食べ物を食べている場合や、リュックを背負ったまま、ポシェットや水筒を掛けながら、フード付きの衣服を着ているなどで、見かけたらその都度、声を掛けます。また大人に対しては、遊具のそばでスマートフォンに夢中の親などに、「子供たちのことを見ていてあげてくださいね」と伝えています。ケルナーさんからのメッセージに「手助けしないでください」とありますが、放っておいていいということではありません。

「ぴよぴよの会」の横山さんをはじめ、会のスタッフが広場での子供たちをよく観察しています。子供は高い場所から飛び降りるのが大好きです。遊具のてっぺんから飛び降りて転んでしまった子供に対しては、「危ないからダメ」と叱るのではなく、子供目線に合わせて「怖かった?」と聞くような見守り方をしています。

ケガが起こる原因の多くは、この飛び降りた時の衝撃です。ケルナー広場の地面には転んでもクッション代わりになる砂利を敷き詰める工夫も凝らされています。

遊具の安全管理面では、開園前にネジやボルトのゆるみがないか、点検を行っています。会のスタッフらのきめ細かな管理もあり、これまで大きな事故はありません。

平日は約100人、土日はそれぞれ500~1000人の来場者があります。障がいを持つ子供たちもケルナー広場だからこそ、と遊びに来てくれます。また、遊具だけではなく、子供が自由に絵本を読めるスペース「おはなしの部屋」を設置しています。

※※ケルナー広場には「時をつむぐ会」が施設の管理に加え、遊びを指導し見守るために常駐しており、一般の遊具とは設置目的や利用形態が異なることから、ケルナー遊具は「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」の対象とされていません。

きらきらとした目で、全身を使って遊ぶ子供たち

ケルナー広場がオープンしてからは、市内のみならず市外、県外からも多くの来場者があり、開園約1年後には10万人を超えました。市にも私たちにも想定外の数字でした。春夏秋冬、毎日、大勢の子供たちが生き生きとした表情、全身を使ってケルナー広場で遊んでいます。会のスタッフも年末年始以外は毎日常駐しています。

子供たちはケルナー遊具が大好きです。子供たちから「こういう遊具を待っていたんだ!」「自分の通う小学校にもほしい」などの声を聞きます。会が10年以上前から構想を練り、実現に向けて活動してきたケルナー広場で、子供たちが元気に遊ぶ姿を見ると苦労が報われた思いです。

原画展の開催も含めて会の活動は23年になります。最近、うれしいことに若いお母さんたちの会員も増えてきました。私は「会いたい」と思ったらすぐに絵本作家の自宅を訪ねて交渉、公園整備については「こんな公園にしたい」と直接市長に企画書を持って行きお願いするなど、思い立ったら即行動してしまうタイプです。そんな私をサポートしてくれたのが家族と横山さんをはじめ、会のメンバーです。そして出版社や本の取り次ぎ店の経営者や営業担当者たちにも助けてもらい、ここまで走り続けてきました。

ケルナー広場は現在も整備中です。平成29年度は夏に公園内にプールが完成し、秋には幼児用のケルナー遊具が増設されます。園内はケルナー広場に留まらず、芝生広場から白衣観音、染料植物園、野鳥の森へと、ハイキングコースとして整備が進むことも期待しています。

今後も読み聞かせ、原画展、ケルナー広場を通じて子供たちの健康と成長を見守る活動を続けていきます。

■関連サイト
「時をつむぐ会」facebook https://www.facebook.com/tokitumu/
「ケルナー広場」facebook https://www.facebook.com/kellner.hiroba
「本の家」ホームページ http://honnoie.sakura.ne.jp/

※文中に出てくる所属、肩書は、取材時(2017年4月)のものです。2017年7月掲載

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過去記事一覧
21 市民の手によって「つくり続ける公園」
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続
01 自然環境は、利用しながら保全する


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