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第16回 住民の心をつないだ3万個のキャンドル


公園をより楽しく、有効につかってもらうために公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。

◆第16回は、公園・夢プラン大賞2015「実現させた夢」部門に入選した「大栗川キャンドルリバー」を主催した「由栗ゆっくり交流会」代表の吉田俊一さんのインタビューです。
八王子市東部地区(旧由木村)にある大栗川と大田川の分岐点にある大栗川公園をメイン会場に、緑道沿いに3万個のキャンドルを灯すイベントは、多摩ニュータウン開発で大きく変わった街で、新旧住民の交流を深めることを目的に開催されました。旧由木村出身の吉田さんに、「キャンドルリバー」開催への思いについてうかがいました。

合併50年目が交流の原点に

私が生まれ育った由木ゆぎ村は、人口約6000人余りの農村地帯でした。当時中学校は1校しかなく、村の住民とはほぼ顔馴染みで、苗字を聞けばだいたい誰だか分かる、という環境の中で育ちました。高度経済成長期に入ると、由木村に合併話が沸き起こり、村は合併の相手を八王子市か日野市かで意見が割れ、村を二分する激しい争いがありました。合併案の強行採決や村長のリコール運動などを経て、住民投票の結果、1964(昭和39)年8月に八王子市との合併が決まりました。

私は1921(大正10)年に祖父が旧由木村で創業した観賞魚・園芸品販売会社(吉田鑑賞魚販売 株式会社 現八王子市松木)を継ぎ、観賞魚、園芸品、食品雑貨などの販売からガーデニング工事の設計施工、レストラン経営までの事業を行っています。なかでも錦鯉や金魚の養殖と飼育、そして魚や池に適した水作りや池造りを主事業としてきました。

2014年8月、旧由木村が八王子市に合併されてちょうど50年を迎えました。人口は50年で約6000人から約11万人と約20倍に増えました。街は大きく発展しましたが、旧由木村時代から住んでいる私たち旧住民と、多摩ニュータウン(以下、ニュータウン)に越してきた新住民との交流があまりないまま、半世紀という歳月が経過していました。私は常々、ニュータウンの住民の皆さんにかつてこの土地が「由木村」と呼ばれていたことや、由木村の文化や歴史について知ってもらいたいという思いがありました。50年という節目にも関わらず、自治体によるイベントなどは行われず、残念な気持ちでいました。私はこの機会に新旧の住民が交流できるイベントができないものか、と考えていた矢先の9月に、市内で公園管理・運営を行うNPO法人「フュージョン長池」代表の富永一夫さんから依頼を受け、旧由木村の歴史を学ぶ勉強会「由木つむぎの会」で、大栗川にまつわる「川と水と魚」をテーマに講演する機会がありました。

私は講演の中で、(八王子市)堀之内から南大沢までの大栗川沿いの緑道を「由栗ゆっくり散歩道」と名付け、手作りマルシェや京都の川床のような地域住民が楽しめるイベントを開催して新旧住民の交流を図りたい―という夢を語りました。すると富永さんが「面白いですね、ぜひその夢を実現させましょう」と声を掛けてくれました。
富永さんが賛同してくれたことがきっかけとなり、「大栗川キャンドルリバー」の企画がスタートします。

「由栗交流会」結成

私は富永さんと市内の東部地区公園の指定管理者「スマートパークス由木」の皆さんと共に、由木の地域を生かしたイベント企画について話し合いました。当初は「公園でキャンドルを灯す」案が浮上しました。しかし公園内のイベントでは、普段公園を利用する人しか参加してもらえないと考え、街のシンボルでもある大栗川沿いにキャンドルを灯す内容に決定しました。

イベントの企画を具体的に進める前に、新旧住民同士の交流会を11月に立ち上げました。会は由木村の「由」と大栗川の「栗」を合わせて「由栗ゆっくり交流会」と名付けました。会のモットーは、「あわてず、いそがず、ゆっくりと住民の輪を広げていこう」です。

定例会は、毎月第3水曜日の夜7時から私が経営するレストランの定休日に開催。会費は1人1000円で飲み物や食べ物は持ち込み自由です。会の目的は新旧住民が顔を合わせ、意見交換することです。ときにはテーマを決めて由木村の歴史の勉強会を行います。この会は、まちづくりや由木地区の歴史や文化に興味がある人なら誰でも参加できます。とくに規約は設けず、自由な会として活動しています。発足から丸3年が経過し、交流会には大学生から高齢者まで、多い時には70人以上が集まるようになりました。

さらに由木村の歴史を知るには、アニメ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994年公開、原作・監督・脚本は高畑勲)を見てもらうのが一番です。この映画は由木村が多摩ニュータウン開発のために山を切り崩し、変わっていく姿を分かりやすく伝えていますので、不定期で上映会を行っています。

「大栗川キャンドルリバー」のイベントに向けて、公園は八王子市に、緑道は東京都に許可を得たのが11月後半。開催日は2015年2月14日(土)に決定しました。準備まで約3カ月となり、「ゆっくり」はしていられなくなりました。

大阪・千里でノウハウを学ぶ

日本初の大規模ニュータウンとして誕生した千里ニュータウン(大阪府豊中市、吹田市)は、2012年に50周年を記念して千里ニュータウンの人口と同じ9万個のキャンドルを灯すイベントが行われました。初回は行政主体で行われ、2年目からは住民が主体となって準備や資金集めなどを行い、住民同士の交流を目的に、毎年1回開催されていることを知りました。私は11月に開催される「千里キャンドルロード」を視察するために大阪に行きました。

千里のイベントでは、白い紙コップの中にティーライトキャンドル(以下、キャンドル)を入れたものでした。私は「紙コップで大丈夫なのか?」と驚きました。その内容は、紙コップの中に重し代わりの砂を入れ、その上にキャンドルを置き、火を灯します。

日帰りの慌ただしい視察でしたが、担当者の奥居武さんからは、さまざまなノウハウを教えてもらいました。

我々も千里キャンドルロードを参考に、紙コップと砂とキャンドルを利用することにしました。配置場所は、主会場の大栗川公園を中心に大栗川と大田川沿いの緑道、そして近くの大石やかた公園と松木えのき公園。距離にして約1.5㎞にわたります。

3万個のうち約2000個の紙コップには、地元の小学生に絵を描いてもらいました。告知は限られた時間でチラシとポスターを作成。チラシは教育委員会を通じて由木地区の小学校に配布してもらい、ポスターは、会場となる3公園と京王線の「京王堀之内」と「南大沢」の各駅に貼ってPRしました。

由木緑道と3つの公園を照らしたキャンドル

開催当日の午後は、ボランティアら約60人と共に紙コップを配置しました。大栗川公園には、由木村の自然を表す花や鳥の模様に並べ、大石やかた公園は、間伐した竹を利用して幻想的な竹林をイメージ。松木えのき公園は、由木村の11か所の村を起伏のある地形をキャンドルでイメージしました。

また、バレンタインデー企画として花のプレゼントも行いました。日本では女性が男性にチョコレートを贈る独自の習慣がありますが、私たちは本来の由来である男性が女性に気持ちを表すバレンタインデーとして、男性に「奥さん、彼女へ渡してください」と、花をプレゼントしました。

点灯式は4時です。大人が見守る中、子供たちがライターでキャンドルに火を灯します。日ごろは禁じられているせいか、子供たちはキャンドルに火をつけるだけで大喜びです。日が暮れてだんだん暗くなってくると、公園内や緑道沿いに置かれた3万個のキャンドルが、街を幻想的な世界に包みました。紙コップの中の炎の揺れが意外にもぼんぼりのように揺らめき、美しさを際立たせていました。

初めてのイベントに、果たしてどれくらいの人が来てくれるか心配しましたが、次々と人が来場し、結果、約1万人もの人が来てくれました。

合併50年という長い歳月を経て、ようやく新旧住民との交流が実現しました。イベントの成功を確信した私たちは、終了後すぐに次回の開催を決めました。

「公園・夢プラン大賞」受賞の朗報届く!

「由栗交流会」のメンバーでもあり、「スマートパークス由木」のスタッフの榊啓子さんは、美術大学を卒業して絵の教師だった経歴から、「キャンドルリバー」のチラシやポスターをはじめ、イベントキャラクターの「キャンドルちゃん」もデザインしてくれました。

榊さんが「公園・夢プラン大賞2015」(一般財団法人 公園財団主催)に応募したところ、「大栗川キャンドルリバー」が最優秀賞を受賞しました。第1回の開催でとても驚きました。「由栗交流会」にとっては、大変喜ばしいことで「キャンドルリバー」の活動の励みとなりました。

最優秀賞受賞の朗報が、第2回開催の直前に届いたため、スタッフ一同、気持ちに弾みが付いたのですが、開催日の2月20日(土)は朝から激しい大雨。やむなく中止し、2回目は晩秋の10月22(土)に開催することにしました。

多くのボランティアに支えられた第2回

10月22日の開催日までは、市の広報誌へのPRやチラシ配布やポスター貼りなど、時間を掛けた広報活動ができました。私は自転車で地元企業に協賛をお願いする毎日でした。また、2回目は会場の一部を区画に分け、1区画2000円でキャンドル(200本を提供)の出品者を募集。個人でも企業・団体でもそれぞれが自由に並べてもらえるシステムです。そのほかに、当日は一口500円の「ワンコインスポンサー」と、キャンドルの設置や点灯作業を手伝ってくれるボランティアも募集しました。

10月22日(土)は、曇り空でしたが心配された雨も降らず、大栗川公園での点灯式には、多くの人が集まってくれました。1回目(2月14日開催)よりも、来場者の滞留時間が長かったように感じます。やはり野外イベントは開催時季も重要なのだと感じました。来場者数は1回目と同じく約1万人でした。

夜8時にすべてのキャンドルの火を消して、紙コップ、キャンドル、砂を分別して撤収するのですが、初回よりも1時間以上も早く終了しました。時間短縮の理由は、作業の要領を得たこともありますが、一番にはボランティアの力だと思っています。3万個のキャンドルの仕込みと片付けが最も手間の掛かる作業なのですが、多くのボランティアのおかげでスムーズに終えることができました。

ボランティアは当日申し込みも含め、580人集まりました。

一般募集のボランティア以外にも、公園に設置する竹を加工する植木屋さん、火元の見回り役の自営消防団員、交通整理は交通安全協会員の皆さんが担当してくれました。イベントは、多くの住民ボランティアによって支えられ、無事、終了しました。

新旧住民との垣根が取れ、街も活性化

イベント終了後、旧住民からは「とても良かったよ」と言ってもらいました。また、ネット上ではSNSが盛り上がっていました。ツイッターやフェイスブックには、キャンドルの写真とともに、自分が住む街を自慢する多くの書き込みがありました。

2回目を終えて、これまで意識していた新旧住民の見えない垣根がなくなったように感じました。とくに新・旧など関係ないニュータウンの子供たちにとっては、自分の街の自慢すべきイベントとして記憶に刻まれることでしょう。

意外だったことは、このイベントをきっかに初めて3公園(大栗川、大石やかた・松木えのき)に来たという住民がいたり、普段は空いている飲食店に行列ができ、開催後も集客が増えていると聞いているので、「大栗川キャンドルリバー」は、地域と公園の活性化にも貢献できたと思います。

「やってみたい」を「実現できる」へ

2回目の「キャンドルリバー」は、2017年(9月16日~10月15日)に開催される「全国都市緑化はちおうじフェア」のプレイベントだったため助成金を受けての開催でしたが、「由栗交流会」では、住民が資金を集め、住民の手による、住民と地域のためになるイベントが基本的考えです。「キャンドルリバー」の場合、キャンドルや紙コップなどの消耗品、広告宣伝用のチラシとポスターなど経費は約60万円です。1万人規模のイベントとしては、費用対効果はかなり高いと思います。

「大栗川キャンドルリバー」は、この地域の風物詩として、未来へ育んでいくイベントとなるように継続していきたいと思っています。キャンドルリバーは八王子市に留まらず、多摩市まで距離を延ばす、多摩川の流れに沿って二子玉川までエリアを広げる…などの自由な発想も交流会で話し合われるようになりました。

人との交流の面では、交流会やイベントを通じて近隣の首都大学やヤマザキ学園(共に南大沢)、東京薬科大学(堀之内)の学生との輪も広がっています。今後は大学生を中心に若者が自主的に行動してくれることを期待しています。

「大栗川キャンドルリバー」によって、旧由木村住民とニュータウン住民との交流が図れたことで、当初の目的が達成できたと思っています。今後は「由栗交流会」では、「こんなイベントはできないだろうか?」「こんなイベントがやりたい」という発言を、実現していく場にしていきたいと考えています。

■サイト・関連情報
「由栗交流会」公式サイト http://yugimura.jp
「由栗交流会」フェイスブック
https://www.facebook.com/%E7%94%B1%E6%A0%97%E4%BA%A4%E6%B5%81%E4%BC%9A-1090491191007877/

※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。2017年1月掲載

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過去記事一覧
21 市民の手によって「つくり続ける公園」
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続
01 自然環境は、利用しながら保全する


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