「公園文化を語る」は、様々な分野のエキスパートの方々から、公園文化について自由に語っていただくコーナーです。
第4回目は、第9回みどりの学術賞(2015年)を受賞し、東京農業大学名誉教授・元学長である進士五十八先生に語っていただきました。
東京農業大学名誉教授・元学長
進士五十八先生
公園のスピリチュアリティを考えたい。
コミュニティがしっかりしている地区では、たいてい公園で盆踊り大会が開かれている。
京都の夏は祇園祭ではじまる。
お盆も祭りも、いま風に言えば宗教行事である。もっともこれはGHQの解釈で、日本社会ではコミュニティの年中行事で、檀家だから氏子だから参加しなくてはいけないというものではない。宗教とか信仰とは別の、くらしのスタイル、いわば「文化」である。
一方、公園といえば「みどり」、みどりといえば「自然」が連想される。そして日本人は、自然への畏敬は「八百万(やおよろず)の神々」を感じることである。立派なお山を神体山として仰ぐ。大木・老木もご神木として手を合わせる。大きな岩にも注連縄(しめなわ)をめぐらして、手を合わせる。天津磐座(あまついわくら)という。
私たち日本人にとっては、木も石も自然のものにはすべて神様が宿り、ありがたいと思えるのである。現代日本人の心の底には、いまもそのアニミズム感覚が残っている。
新規に植栽された公園の植物は、みどり・緑化ではあるが、自然ではないし、ましてや神様を感じることはない。何十年か経って、幹も太り根も張って自然そっくりになった時初めて「自然」になる。庭さびというのは、つくった庭が時間が経って、「自然のようになること、然り(しかり)・そっくりになること」で、これを「然び:しかび、音変して“さび”となる」という。日本美をあらわすワビ・サビのサビは、時間の経過によって自然そっくりになった美しさと味わいを意味するのである。
戦後整備された公園は、かなりお金もかけ技術的にもデザイン的にも高水準である。にもかかわらず、何か足りない。機能性・美観性・生物性(エコロジー)には十分配慮されているのだが「精神性(スピリチュアル/メンタル)」が欠けているのだ。
そう考えると納得できることがある。韓国のニュータウンを見学した時のこと。土地利用計画図に“教会用地”もしくは“宗教用地”と明記された区画があるのだ。うろ憶えだが、未だどんな宗教か、教会か寺院かわからないが、都市には“心の拠り所”が必要ということで位置づけられているのではと私は想像した。もうひとつ、埼玉県の三芳町、所沢市に「三富新田」という江戸期の計画的開発農村がある。堆肥用の落葉かき場所でもある雑木林の防風林、そして農地、屋敷林が整然と区画された循環農法のメッカである。ここでも開拓初期にコミュニティ・コアとして神社と寺院が建立されている。柳沢吉保の川越藩の開発事業だが、新規入殖者たちの心の拠り所として「神仏の森:社叢」が当初から計画されている。
私は、凡そ日本の公園の原形は「社叢」(鎮守の森)・「社寺境内地」だと確信している。共有地に社寺を寄進し、檀家・氏子を問わず、年中行事を運営し、樹林の手入れや建物の修復をコミュニティのボランティアで継続的におこなってきた。それは強制ではなく、ふるさと:拠り所としての神仏の存在を感じていたかったからであろう。
私は「明治神宮境内総合調査」の座長として度々神宮の森を歩き実感している。それは、造園界の先人たちの知恵で、人為的にではあったが100年かけて「永遠の杜」を立派につくりあげたこと。「人のつくった森」の凄さもあるが、実はこの人為の森の中に明治神宮という神様がおられるから、その神を感じる森として人々はそのインスピレーションを享受できているのではないか、ということである。
一方、三井不動産によるコレド室町・日本橋の都市再開発では“福徳神社”が再興され森づくりもすすんでいる。便利で恰好よくとも無機的な都心開発には“真”が足りない。それを中央に神社を建立して補っているのは流石である。
社叢は「歴史的緑地」であり、日本社会の「文化的景観」でもある。文明としての近代公園が、真に「日本文化としての公園」になるためには、スピリチュアリティの回復が必要ではないか。
ビルの谷間にある福徳神社
※文中に出てくる所属、肩書等は、ご寄稿いただいた時点のものです。2015年8月掲載
30 公園から始める自然観察と地域との連携 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29 すべての人々へ自然体験を 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28 都市公園が持つ環境保全への役割 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27 フォトグラファー視点から見る公園 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26 高齢社会日本から発信する新しい公園文化 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25 植物園の魅力を未来につなげる (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24 アートで公園内を活性化! 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23 手触りランキング 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22 和菓子にみる植物のデザイン 虎屋文庫 河上可央理
21 日本庭園と文様 装幀家 熊谷博人
20 インクルーシブな公園づくり 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19 世田谷美術館―公園の中の美術館 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18 ニュータウンの森のなかまたち ごもくやさん 中田一真
17 地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~ 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16 公園標識の多言語整備について 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15 環境教育:遊びから始まる本当の学び すぎなみPW+ 関隆嗣
14 青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール 上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13 関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12 植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11 海外の公園と文化、そして都市 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09 日本の伝統園芸文化 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08 リガーデンで庭の魅力を再発見 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07 七ツ洞公園再生の仕掛け 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06 ランドスケープ遺産の意義 千葉大学名誉教授 赤坂信
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神? 森本千尋
04 公園のスピリチュアル 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~ 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02 公園市民力と雑木林 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝
01 これからの公園と文化 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎