公園文化ロゴ
公園文化ロゴ
語るパンくず
公園文化を語る 公園の達人 公園管理運営「チャレンジ!」しました 公園とSDGs 生きもの小話 みどり花コラム アートコラム 花みどり検定 公園の本棚 世界の公園 たまて箱 公園”Q&A /
過去記事一覧
01「これからの公園と文化」 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎 02「公園市民力と雑木林」 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝  03「遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~」 学校法人旭学園 理事長 高島忠平 04「公園のスピリチュアル」 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八 05「公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?」 森本千尋 06「ランドスケープ遺産の意義」  千葉大学名誉教授 赤坂信 07「七ツ洞公園再生の仕掛け」 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和 08「リガーデンで庭の魅力を再発見」 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子 09「日本の伝統園芸文化」 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司 10「都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜」 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史 11「海外の公園と文化、そして都市」 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳 12「植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み」 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二 13「関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践」 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹 14「青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール」上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団) 15「環境教育:遊びから始まる本当の学び」 すぎなみPW+ 関隆嗣 16「公園標識の多言語整備について」 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子 17「地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~」 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子 18「ニュータウンの森のなかまたち」 ごもくやさん 中田一真 19「世田谷美術館―公園の中の美術館」 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子 20「インクルーシブな公園づくり」 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表 21「日本庭園と文様」 装幀家 熊谷博人 22「和菓子にみる植物のデザイン」 虎屋文庫 河上可央理 23「手触りランキング」 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗 24「アートで公園内を活性化!」 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子 25「植物園の魅力を未来につなげる」 (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子 26「高齢社会日本から発信する新しい公園文化」 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一 27「フォトグラファー視点から見る公園」 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼 28「都市公園が持つ環境保全への役割」 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望 29「すべての人々へ自然体験を」 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高 30「公園から始める自然観察と地域との連携」 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明 31「公園を育てながら楽しみつくす「推しの公園育て」」 非営利型一般社団法人「みんなの公園愛護会」代表理事 椛田里佳
公園文化を語る ロゴ

第19回 世田谷美術館―公園の中の美術館

第19回は、「美術館は特別な場所ではなく、生活に息づく場所である」という考えのもと、世田谷美術館が実施している様々な取り組みについて、世田谷美術館学芸部普及担当マネージャーの東谷千恵子(あずまや ちえこ)さんからご紹介・ご寄稿いただきました。

 

「美術大学」など、教育普及事業を担当する東谷千恵子さん

「美術大学」など、教育普及事業を担当する
東谷千恵子さん

世田谷美術館について


世田谷美術館は、1986年、東京都世田谷区のきぬた公園に誕生しました。

 

エントランスホールの壁にはラテン語で「ARS CUM NATURA AD SALUTEM CONSPIRAT」と刻まれています。—芸術と自然は秘かに協力して、人間を健全に導く―当館は、この言葉を開館以来、運営の理念としてきました。

 

アンリ・ルソーなどの素朴派の作品、世田谷区ゆかりの作家の作品など国内外の近代美術16,000点に及ぶ豊富なコレクション、国宝から現代美術までと幅広く、ユニークな視点による企画展の開催、また、講演会、ワークショップ、創作講座、コンサート、パフォーマンスなど、小さなお子様から大人の方まで、楽しんでいただける様々なイベントを開催してきました。美術館は特別な場所ではなく、生活に息づく場所である、と考えています。

居場所としての美術館


当館の大きな特徴として、およそ34年前の開館当初からワークショップや創作講座などの教育普及事業に力を入れてきたことがあります。

特に現在でも他にあまり例のない事業として、開館以来おこなっているのが、区民を対象とした年間にわたる実技と講義を組み合わせた総合的な講座「美術大学」、また区立の全小中学校を対象とした「美術鑑賞教室」です。「美術大学」を修了された方がボランティアとして、「美術鑑賞教室」で来館する子どもたちの案内をする、という流れが自然にできあがり、この二つの事業はリンクしています。

 

こういった教育普及事業の厚みにより、当館は地域と密接なつながりを持っています。そして「展覧会を見るために訪れる美術館」ではなく、地域の方々の居場所としての美術館でもあるのです。



公園の中の美術館


当館に入館するためにはいくつかのアプローチがありますが、公園側の入り口といえる中庭が「くぬぎ広場」です。そこには世田谷名木百選にも選定された大きなくぬぎの木があります。実は当館の建物は、この木を取り囲むように建っているのですが、展覧会にいらっしゃるほとんどのお客様は外側のメインエントランスから入退館するため、この中庭をご存じない方も多いのです。中庭を訪れるのは、公園から来る方々—ウォーキング後に一休みする人、犬の散歩をしている人、お弁当を食べる人、陽の下で読書をする人、そんな方々です。秘かに、この「本人は公園で過ごしていると思っているのに、実は美術館の中心で過ごしている方々」が当館の美術館としての在り方に大きく影響しているのではないか、とほくそ笑んでいます。



作品のない展示室


2020年の夏、当館は一風変わった企画を開催しました。それまで考えてもみなかった状況に世の中が一変し、世界中で多くの美術館が休館するという事態となりました。当館もまた、3月31日から6月1日まで休館となり、その後も予定を大幅に変更せざるを得ませんでした。海外からはおろか、当面、国内からも作品を借用することが難しくなり、急遽、所蔵品による展示に切り替えることにしたのですが、どうしても準備のために催しの空白の期間ができてしまいました。

 

その期間を一体どうするか?相談の中で、いっそのこと何も展示せずに、美術館そのものと外の風景を見てもらったらどうか、というアイデアが出たのです。

 

当館の設計は戦後を代表する建築家のひとりである内井昭蔵(1933-2002)によるものです。内井昭蔵は設計上のコンセプトを「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」の3点としました。そのため、当館には多くの窓とアプローチがあり、本来は開放的な作りとなっています。光あふれる自然の中で作品と接する場となる狙いだったのですが、ところが、美術館としては作品保全の観点から、作品を太陽光にさらすわけにはいかず、残念ながら通常の展示ではこの窓はシャッターで堅く閉ざされています。この件については、内井先生は来館の度に残念がっていらっしゃいました。

 

この『作品のない展示室』という企画は「型破り」「前代未聞」として思いのほか、話題にしていただきましたが、わたしたち職員にとってはごく自然なことでした。なぜなら、わたしたちはこの建物の本来の姿を知っていましたから。

窓をあけることにより、初めてランドマークであるはずのくぬぎの木や屋外彫刻の存在に気付かれた方も多く、外の風景を「まるで絵のようだ」とゆったりと楽しみ、くつろいで過ごしていただきました。

美術館とは、ただ作品を見せる場所ではない、当館は開館以来ずっと、そう考えてきたのですが、この企画をすることで、改めて実感しました。

 

『作品のない展示室』では本来の建物の姿を多くの人が楽しんだ

『作品のない展示室』では本来の建物の姿を多くの人が楽しんだ

 

 

今回、寄稿させていただくにあたり、ふと「公園」の定義とは何かを調べてみました。Wikipediaによると「公園とは、公衆が憩い、また遊びを楽しむために公開された場所」とありました。この言葉通りに考えれば、美術館も公園のひとつだと考えられるのではないでしょうか?

 

 

 

◆関連ページ

世田谷美術館HP:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/

 

※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。

(2020年12月掲載)

区切り線
過去記事一覧(敬称略)
31「公園を育てながら楽しみつくす「推しの公園育て」」 非営利型一般社団法人「みんなの公園愛護会」代表理事 椛田里佳
30「公園から始める自然観察と地域との連携」 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29「すべての人々へ自然体験を」 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28「都市公園が持つ環境保全への役割」 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27「フォトグラファー視点から見る公園」 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26「高齢社会日本から発信する新しい公園文化」 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25「植物園の魅力を未来につなげる」 (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24「アートで公園内を活性化!」 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23「手触りランキング」 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22「和菓子にみる植物のデザイン」 虎屋文庫 河上可央理
21「日本庭園と文様」 装幀家 熊谷博人
20「インクルーシブな公園づくり」 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19「世田谷美術館―公園の中の美術館」 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18「ニュータウンの森のなかまたち」 ごもくやさん 中田一真
17「地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~」 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16「公園標識の多言語整備について」 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15「環境教育:遊びから始まる本当の学び」 すぎなみPW+ 関隆嗣
14「青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール」上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13「関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践」 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12「植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み」 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11「海外の公園と文化、そして都市」 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10「都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜」 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09「日本の伝統園芸文化」 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08「リガーデンで庭の魅力を再発見」 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07「七ツ洞公園再生の仕掛け」 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06「ランドスケープ遺産の意義」  千葉大学名誉教授 赤坂信
05「公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?」 森本千尋
04「公園のスピリチュアル」 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03「遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~」 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02「公園市民力と雑木林」 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝 
01「これからの公園と文化」 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎


TOPに戻る