第24回は、2009年より、国営武蔵丘陵森林公園や国営越後丘陵公園、埼玉県こども動物自然公園でアートプロジェクトや子どもを対象とした造形ワークショップの企画、運営をされている、群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授・アートフェスタ実行委員会代表の奥西麻由子氏に、「公園(緑地)×アート」の実践についてご寄稿いただきました。
私は普段は大学で美術教育とアートマネジメントを専門に教鞭をとっています。その傍らで、2009年から現在までの14年間にわたり、美術教育者及び児童・生徒や、アートを通じて社会と繋がることを模索するアーティスト、またアートに関わることが少ない高齢者や障害のある人など様々な分野の作品を一堂に公の施設である公園に展示する「アートフェスタ」というプロジェクトの運営を継続して行ってきました。この取り組みでは、美術館ではなく、多くの一般来園者が行き交う公園の野外を中心に約3ヶ月間作品を展示し、期間中に関連ワークショップ等を催すことで、アートに関心の少ない人や苦手意識を抱いていた人にも親しみやすい作品を通じて興味を抱いていただけるよう配慮しています。地域の人が訪れる公園で、自由に屋外で作品を鑑賞したり、造形活動に参加することで、子どもたちにとっては学校内だけにとどまらず、その活動を披露することが出来ると同時に、アーティストにとっても美術作品のあり方や存在意義を見直すきっかけになると感じています。
2008年、自身で作品を作るだけではなく、美術ファン以外が楽しめる『場』を作りたいと考えていた時、国営公園『夢プラン』の公募を見つけ、私がやりたいことを企画書に書いて、国営武蔵丘陵森林公園へ応募しました。当時はまだ各地で開催されている芸術祭やビエンナーレ、トリエンナーレなどはまだ社会に浸透していなかった時代かもしれません。しかし、頭にあったイメージを実現したい一心で夢中でした。ご縁があって公園の企画課の方々と実現に向けて共に手探りでやってみようということになり、知り合いのアーティストや近隣の小・中・高等学校に参加を呼び掛けました。私が講師を務めていた高校の美術部の生徒にも声をかけ、作品のプランをたくさん考えました。そして1年越しの2009年、毎年公園で開催されている季節イベント「紅葉見ナイト」とコラボレーションし、約25作品と4つのワークショップ及び関連イベントを行いました。会期中には20万人以上の人出があり、多くの来場者の方に楽しんでいただくことができました。その後、公園スタッフとの信頼関係を徐々に築いていき、2012年まで開催することができました。
国営公園の指定管理者の変更などにより、訳あって2013年からは会場を近隣の動物園に変更することとなりました。しかし、ここでもアートにご理解のある職員の方との出会いによって、展開した形でのプロジェクトが行われるようになりました。一つは「動物」をテーマにした作品を毎年趣向を凝らして展示するということ。もう一つは来園者が気軽に参加した作品も展示し、一体感を得ることができるようになったということです。
これまでにも「鳥」「絵本」「卵」「日本の動物」「神社」「トリックアート」「橋を渡るモルモット」など動物に関連する様々なテーマで行い、園内を歩く人々の目を楽しませることができました。そして今年は「恐竜」をテーマに現在準備を進めているところです。
アートフェスタの会期中には関連事業として来園者向けのワークショップ、作品を出品した生徒たちの交流を図る「アートセッション」も継続して行っています。
ワークショップでは、来園した親子を対象に気軽に造形体験ができるプログラムを実行委員会のメンバーが考案し、実施します。アーティストが考案する題材は学校や保育の現場では用いたことのない技法や材料もあるので、社会教育の場だからこそできるものという実感もあります。そしてやはり会場で作品を見ると「自分も作ってみたい!」という気持ちになるのが子どもたちで、保護者もサポートといいながら、夢中になっている姿をたくさん目の当たりにしました。これらの活動の実施には毎年助成金を申請し、採択されたものを活用しています。自身の持ち出しで行う事業は継続が困難になるので、プロジェクトの運営にはいかに外部資金を調達してくるかというノウハウも必要になってきます。
また、アートセッションでは中・高校の美術部の生徒が多く参加してくれます。他校の生徒とグループになり、自身の作品について話をしたり、時には共同制作をしたり、園内の動物をスケッチしたり、動物園職員の方からとっておきのお話を聞かせてもらうこともありました。最初は緊張した面持ちであった子どもたちがアートを通じて交流し、中には普段不登校の生徒がこの日だけは来たというようなことを聞くと、やはり『場』を作ることの大切さを感じます。
これまで多くの方にアートフェスタをご覧いただきましたが、作品の破損等のトラブルは自然災害以外にほとんどありませんでした。このように公園とアートの関係はとてもいいと思います。それは自然の中で身も心も解放され、人々が本来もっている創造的な欲求や誰かの生み出したものを享受する楽しさにも繋がると考えられるためです。そして「アートは理解しがたく難しい」という意識ではなく、「アートはなんだかわからないけれど、親しみやすく面白い」と関わった人々が少しでも感じてくれると幸いです。
このように様々な場所で多くの職員の方とご縁があり、活動を継続して来れたことを本当にうれしく思います。これからも細々ではありますが、アートの力、そして公園の場の魅力を感じてもらえるように精進していきたいと思います。
※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。(2022年8月掲載)
30 公園から始める自然観察と地域との連携 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29 すべての人々へ自然体験を 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28 都市公園が持つ環境保全への役割 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27 フォトグラファー視点から見る公園 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26 高齢社会日本から発信する新しい公園文化 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25 植物園の魅力を未来につなげる (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24 アートで公園内を活性化! 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23 手触りランキング 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22 和菓子にみる植物のデザイン 虎屋文庫 河上可央理
21 日本庭園と文様 装幀家 熊谷博人
20 インクルーシブな公園づくり 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19 世田谷美術館―公園の中の美術館 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18 ニュータウンの森のなかまたち ごもくやさん 中田一真
17 地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~ 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16 公園標識の多言語整備について 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15 環境教育:遊びから始まる本当の学び すぎなみPW+ 関隆嗣
14 青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール 上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13 関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12 植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11 海外の公園と文化、そして都市 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09 日本の伝統園芸文化 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08 リガーデンで庭の魅力を再発見 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07 七ツ洞公園再生の仕掛け 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06 ランドスケープ遺産の意義 千葉大学名誉教授 赤坂信
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神? 森本千尋
04 公園のスピリチュアル 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~ 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02 公園市民力と雑木林 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝
01 これからの公園と文化 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎