第30回は、日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授で、森林社会科学を専門としている杉浦克明氏にご寄稿いただきました。杉浦氏は、著書「森林教育学」(海青社)の編集に携わったり、森林環境教育の分野を中心に社会と森林とのつながりに関する論文を発表するなど、幅広く活躍されています。
昔であれば都市部でも空き地やちょっとした林はあったはずです。当時の子どもたちはそのような場所で木登りやボール遊びなどで体を動かしたり、自然観察をしていたのではないでしょうか。現在はというと、都市部ではそういった場所は少なくなり、子どもたちが自由に遊べる環境は減ってきています。まさにそれを補ってくれる場所が公園です。公園には、緑地保全、防災拠点、健康増進など様々な機能を持ち合わせていますが、子どもたちにとっては体を動かせる、自然に触れ合うことができる最初の入り口となる場所といえます。公園には多くの草木があり、そこは昆虫や鳥などの生息場所にもなっていたりします。子どもたちは公園の自然と触れ合うことで、嗅覚、触覚、視覚、聴覚、味覚(これはなかなかありませんが)といった五感(五官)を使って自然を感じることができます。公園での経験をきっかけに、本物の自然へとつなげ、生きる力が育まれていくのではないでしょうか。
私は森林科学を専攻していることもあり、一人でも多くの人に日本の森林の現状やその資源の大切さを伝えたいと思っています。
しかし、現代の都市部に偏重した生活様式であると、森林に赴くことは多くないと思います。たまにはキャンプやバーベキューなど自然に触れ合い楽しむことはあるかもしれません。しかし、森林は頻繁に訪れることは難しく、私たちの生活の中では公園が身近な自然になります。本当の自然とはいえないかもしれませんが、公園はアクセスもしやすくトイレなどの設備も整っており、管理されているため安全です。まさにこれこそが公園の良さだと思っています。現代の人々にとっての身近な自然は“公園”なのかもしれません。人々の健康増進、自然との触れ合い、感性を磨く場所として、次世代を担う子どもや地域の人々にとって公園の重要性は高まるばかりだと思っています。
公園の樹木を活用し、森林への興味や関心につなげることをねらいとした森林環境教育プログラムがあります。それが“子ども樹木博士”と呼ばれるプログラムです。
プログラムの内容はとても単純なもので、樹木の名前を憶えてもらい、樹木に親しむことで、森林に興味や関心を持ってもらうことを目的としています。例えば、好きなキャラクターや車の名前など好きなものの名前はすぐに覚えるのではないでしょうか。
興味のないものの名前を覚えるのは難しいかもしれませんが、覚えたものの数が増えていくと、不思議とその違いが分かるようになり興味がわいてくるものです。樹木も同じで、樹木名を覚えていくと、樹木の違いがわかるようになり、知っている樹木と知らない樹木が明確になってきます。特に子どもは友人と競うことでやる気を出したりするので、覚えた樹木の数(正解数)に応じて段や級を与え、認定証を授与しています。子ども樹木博士で行う識別テストは、枝葉を使ったり現物の樹木を見て行います。プログラム名に“子ども”がついていますが、年齢は問わずこのプログラムは実施でき、大人も楽しめるものになっています。公園はこのプログラムを実施するのに適した場所です。前述したように設備も整っており、実施する側も参加する側も安心して実施することができます。より樹木について知りたい人やふと訪れた人々にも樹木について知ってもらうためにも、公園の代表的な樹木だけでも樹木名板があるといいのではないでしょうか。
公園を管理していくためには、公園管理者だけの力だけではなく、地域ボランティアに協力を求めることがあります。特に、森林環境教育プログラムや各種イベントの実施には、地域ボランティアの協力は欠かせません。その際に、ボランティアを組織化する場合があると思います。組織化によって持続的に運営ができているところではいいのですが、すべてが上手くいくとは限りません。組織化した場合、ボランティア組織に加わる人は、子育て世代や現役世代を除いた比較的年配の人が多くなります。そうなると、一時的には上手くいくかもしれませんが、その方たちも一生関わることもできませんし、排他的になってしまうこともあります。また、管理者側とボランティア組織との間で、支援金などがあると、お金にまつわるトラブルも生じやすくなります。こういった問題が生じると持続的に組織を維持していくことが難しくなります。さらに、ボランティア組織の力が強すぎると、ボランティア組織と管理者とで軋轢が生まれやすくなります。ボランティアの協力を持続的に得ていくには、時代の変化に順応しながら管理者と地域の実情に合わせて組織化したり、都度募集するカタチなどの協力関係を築いていくことが求められると思います。公園は地域コミュニティの中心となる場所でもあるので、皆に愛される公園をつくり上げていってほしいと願っています。
■関連ページ
日本大学生物資源科学部森林学科インスタグラム
https://www.instagram.com/nubs_forest_fsr/
日本大学生物資源科学部
https://www.brs.nihon-u.ac.jp/
日本大学生物資源科学部森林学科
https://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~NUBSfos/
※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。(2024年10月掲載)
30「公園から始める自然観察と地域との連携」 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29「すべての人々へ自然体験を」 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28「都市公園が持つ環境保全への役割」 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27「フォトグラファー視点から見る公園」 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26「高齢社会日本から発信する新しい公園文化」 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25「植物園の魅力を未来につなげる」 (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24「アートで公園内を活性化!」 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23「手触りランキング」 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22「和菓子にみる植物のデザイン」 虎屋文庫 河上可央理
21「日本庭園と文様」 装幀家 熊谷博人
20「インクルーシブな公園づくり」 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19「世田谷美術館―公園の中の美術館」 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18「ニュータウンの森のなかまたち」 ごもくやさん 中田一真
17「地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~」 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16「公園標識の多言語整備について」 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15「環境教育:遊びから始まる本当の学び」 すぎなみPW+ 関隆嗣
14「青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール」上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13「関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践」 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12「植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み」 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11「海外の公園と文化、そして都市」 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10「都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜」 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09「日本の伝統園芸文化」 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08「リガーデンで庭の魅力を再発見」 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07「七ツ洞公園再生の仕掛け」 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06「ランドスケープ遺産の意義」 千葉大学名誉教授 赤坂信
05「公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?」 森本千尋
04「公園のスピリチュアル」 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03「遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~」 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02「公園市民力と雑木林」 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝
01「これからの公園と文化」 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎