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遺跡「保存」の難しさ


吉野ヶ里歴史公園が開園して今年で14年になります。1989年に吉野ヶ里遺跡が弥生時代最大の環濠(かんごう)集落であることが判明し、保存が決定され、国営公園として整備されるまで実にさまざまな人たちとの膨大な時間をかけた議論がありました。その多くの難問や課題の中で私が最も重視したことは、遺跡の利活用についてです。遺跡は保存するだけではなく、一般の人に公開するなどして、活用されてこそ意味があるのです。

遺跡の保存活用はとても難しい問題です。

1970代後半、佐賀県北部にある久保泉丸山遺跡が発見されました。当時、発見された場所(佐賀市久保泉町)は、長崎自動車道の建設予定地の敷地内で、遺跡は国の史跡レベルの評価がありました。このとき佐賀県教育委員会にいた私は文化財保護の責任者という立場で、保存か、それとも破壊か、という問題に直面しました。しかし、すでに高速道路の建設準備が進んでいたため、路線変更による保存は不可能でした。また、橋をかけて遺跡を高速道路の橋げたの下に残した場合は、ほかの例では遺跡はゴミの捨て場か野犬のすみかになってしまうものです。そこで考えたのが遺跡の「移転」でした。この「保存」か「破壊」かの二者択一での議論を続けていた中、保存のための「移転」は第3の道の選択でした。

移転先は長崎自動車道の金立(きんりゅう)サービスエリアから歩いて行ける「金立公園」(佐賀市金立町)です。公園を訪れた人はもちろんのこと、サービスエリアに立ち寄った人も歩いて貴重な遺跡を見ることができます。当初、この移転案については国会でも議論されましたが、結果、この遺跡の移転は歓迎されました。

この久保泉丸山遺跡は、公園整備が遺跡保存の手伝いとして、利活用につながるという経験になりました。

また、佐賀県北部に豊臣秀吉が朝鮮出兵のために築いた名護屋城跡と諸大名の陣跡があります。名護屋城跡を中心に半径3キロメートルの範囲に遺跡が広がり、陣跡の数は約140。広域な遺跡群で国の特別史跡です。70年代後半ごろ名護屋城跡と陣跡の調査を担当していた私に、県の都市計画課の人が「国営公園という考え方もある」と言っていました。私はそのときは「無理な話だな」と思ったものの公園という発想はいいな、と感じました。その後、吉野ヶ里遺跡を国営公園として整備に取り組むことになるなど、そのときは知る由もありませんでした。

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過去記事一覧
31「公園を育てながら楽しみつくす「推しの公園育て」」 非営利型一般社団法人「みんなの公園愛護会」代表理事 椛田里佳
30「公園から始める自然観察と地域との連携」 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29「すべての人々へ自然体験を」 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28「都市公園が持つ環境保全への役割」 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27「フォトグラファー視点から見る公園」 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26「高齢社会日本から発信する新しい公園文化」 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25「植物園の魅力を未来につなげる」 (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24「アートで公園内を活性化!」 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23「手触りランキング」 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22「和菓子にみる植物のデザイン」 虎屋文庫 河上可央理
21「日本庭園と文様」 装幀家 熊谷博人
20「インクルーシブな公園づくり」 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19「世田谷美術館―公園の中の美術館」 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18「ニュータウンの森のなかまたち」 ごもくやさん 中田一真
17「地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~」 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16「公園標識の多言語整備について」 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15「環境教育:遊びから始まる本当の学び」 すぎなみPW+ 関隆嗣
14「青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール」上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13「関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践」 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12「植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み」 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11「海外の公園と文化、そして都市」 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10「都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜」 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09「日本の伝統園芸文化」 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08「リガーデンで庭の魅力を再発見」 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07「七ツ洞公園再生の仕掛け」 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06「ランドスケープ遺産の意義」  千葉大学名誉教授 赤坂信
05「公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?」 森本千尋
04「公園のスピリチュアル」 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03「遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~」 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02「公園市民力と雑木林」 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝 
01「これからの公園と文化」 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎


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