対象となる空間ジャンルでは、比較的閉鎖的な空間である庭園、パノラマなど視点場と対象があって成り立つ眺望があります。借景庭園ならば双方を兼ねたものになります。庭園は庭園という空間の括りで認識されやすいのですが、パノラマなど眺望としてのランドスケープは庭園のようにはいきません。とくに都市においてはビルの建設などによって眺望が遮られることがしばしば起こります。東京の都心部で、富士山が望める富士見坂(東京都荒川区)からの眺望が、マンション建設(東京都文京区)で、2013年6月に消滅しました。現代の都市で無形遺産的な「富士見」という行為が可能だった地点が失われてしまうことにわれわれはもっと関心を持つべきではなかったかと惜しまれます3)。
眺望の保全となると、敷地の範囲のみでランドスケープを構成するということから、敷地からソトの世界の現実の社会に一歩踏み出すことになります。これにも覚悟がいることですが、この分野が今後発展することになれば、造園のprofession(職能)もおおいに広げることが可能となるでしょう。Combined works of nature and of man(自然と人間の共同作品)とは文化的景観の定義ですが、これは自然としっかり組み合ったランドスケープの複合性を見事に表現しています。ランドスケープの複合性は造園という専門に限らず、建築や土木などの諸ジャンルがかかわって成り立っています。これに加えてさまざまな時代に出来たものが重層していることも考えに入れなければなりません。現実には、一定の時代のものが一定の広がりの空間に博物館の展示模型のように整理されて並んでいることはまれです。通常見られるこうした空間は、むしろゴチャゴチャしていると低く評価されてきました。これを時代の積み重なり、さまざまな人が手を加えたあとと見ることで、ランドスケープの成り立ちを見直す契機とすることも可能と考えます。ランドスケープを語るには、専門の壁(区別)を厳しく立てることではなく、関連する空間ジャンルが相互に対話し理解し合うことが条件です。その対話において、ランドスケープの生成から他の要素との連接、分断、転移など歴史的重層性を読み解く眼力と排他的な「不寛容な専門性」と戦えるタフさが求められます。造園分野のなすべきことは多いと思います4)。
引用文献:
1)赤坂 信(2011):「1.ランドスケープの複合性」より引用;ランドスケープ遺産の特質とインベントリーの意味、特集・ランドスケープ遺産インベントリーづくりの現在-地域活動から全国展開に向けた現状と課題-、vol.74 no.4, ISSN 1430-8984、271-273
2)赤坂 信(2014):造園の原点に立ち返り、将来を見据えようとした平成17年度から18年度、公益財団法人日本造園学会関東支部三十年記念誌、27-28
3)赤坂 信(2014):近代文明の発達とランドスケープ(風景)保全思想の展開;文明の未来-いま、あらためて比較文明の視点から、比較文明学会30周年記念出版編集委員会、東海大学出版部、54-74
4)赤坂 信:第4章.特論、第1節.造園・ランドスケープ遺産調査の意義;関東地域の造園・ランドスケープ遺産 調査研究報告書(日本造園学会関東支部発行予定)
※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。2016年4月掲載
30 公園から始める自然観察と地域との連携 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29 すべての人々へ自然体験を 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28 都市公園が持つ環境保全への役割 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27 フォトグラファー視点から見る公園 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26 高齢社会日本から発信する新しい公園文化 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25 植物園の魅力を未来につなげる (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24 アートで公園内を活性化! 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23 手触りランキング 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22 和菓子にみる植物のデザイン 虎屋文庫 河上可央理
21 日本庭園と文様 装幀家 熊谷博人
20 インクルーシブな公園づくり 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19 世田谷美術館―公園の中の美術館 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18 ニュータウンの森のなかまたち ごもくやさん 中田一真
17 地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~ 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16 公園標識の多言語整備について 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15 環境教育:遊びから始まる本当の学び すぎなみPW+ 関隆嗣
14 青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール 上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13 関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12 植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11 海外の公園と文化、そして都市 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09 日本の伝統園芸文化 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08 リガーデンで庭の魅力を再発見 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07 七ツ洞公園再生の仕掛け 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06 ランドスケープ遺産の意義 千葉大学名誉教授 赤坂信
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神? 森本千尋
04 公園のスピリチュアル 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~ 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02 公園市民力と雑木林 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝
01 これからの公園と文化 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎