
一方、日本の公園へと目を転じてみると、さすがに芝生だけの公園は少ないものの、日本庭園にしてもイングリッシュガーデンにしても、昆虫たちと共存するという概念は、ほとんどないように思える。
様々な樹種を組み合わせる日本式の庭園でも、多様な植物が導入されれば当然、それらを寄主植物とする様々な昆虫が発生するので、放っておけばあちらこちらで害虫化することも十分考えられる。そのため公園や庭園などでも必要に応じて殺虫剤などの散布が行われている。また広大な面積での単独植物の開花を売り物にしているような公園でも、その植物を食べる昆虫が大発生してしまう可能性があるため、管理は必要であろう。実際、コスモスの花畑となっている公園では、オオタバコガが花に産卵し、幼虫が花をかじってしまうことから、定期的に農薬を散布する所もあるようだ。多くの花がイモムシに食べられているのではイメージも悪くなるので、こうした管理も必要かもしれない。しかし害虫が出たからといってすぐに殺虫剤散布というパターンも、そろそろ考え直す時期に来ているのではないか。
人々の暮らしに潤いを与えてくれる植物を食べる昆虫は、「害虫」という扱いになってしまうが、これらを盲目的に防除するのではなく、天敵など自然界のシステムで、被害が目立たない程度の発生に抑える方法により、公園でも昆虫との共存を目指せないかと考えている。こうした考えのもと、私たちの研究グループは千葉大学の屋上(10階部分に相当)に、生物多様性を考慮した屋上緑化を創出している(図6)。ここでは多くの樹木や草本が植えられ、剪定等は行うものの農薬などは一切使用しない活動を10年以上行っている。
我々の調査では10階という高層の緑地でも80種以上の昆虫が観察でき、こうした生物多様性屋上緑化で、都市部で少なくなった希少昆虫の保護が行えないかなど将来構想も膨らんでいる。さらに、灌水などの管理を行わず、再生資材を利用した「屋上はらっぱ」でも(図7)、条件さえ整えば多くの昆虫たち(調査では合計70種にも及ぶ)が生息可能であり、「昆虫たちの生息地」として新たな屋上緑化の役割を担う可能性についても研究を重ねている。いつかは、この粗放型の屋上庭園の生物多様性維持に関しても情報発信していきたい。

31「公園を育てながら楽しみつくす「推しの公園育て」」 非営利型一般社団法人「みんなの公園愛護会」代表理事 椛田里佳
30「公園から始める自然観察と地域との連携」 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29「すべての人々へ自然体験を」 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28「都市公園が持つ環境保全への役割」 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27「フォトグラファー視点から見る公園」 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26「高齢社会日本から発信する新しい公園文化」 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25「植物園の魅力を未来につなげる」 (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24「アートで公園内を活性化!」 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23「手触りランキング」 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22「和菓子にみる植物のデザイン」 虎屋文庫 河上可央理
21「日本庭園と文様」 装幀家 熊谷博人
20「インクルーシブな公園づくり」 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19「世田谷美術館―公園の中の美術館」 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18「ニュータウンの森のなかまたち」 ごもくやさん 中田一真
17「地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~」 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16「公園標識の多言語整備について」 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15「環境教育:遊びから始まる本当の学び」 すぎなみPW+ 関隆嗣
14「青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール」上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13「関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践」 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12「植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み」 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11「海外の公園と文化、そして都市」 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10「都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜」 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09「日本の伝統園芸文化」 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08「リガーデンで庭の魅力を再発見」 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07「七ツ洞公園再生の仕掛け」 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06「ランドスケープ遺産の意義」 千葉大学名誉教授 赤坂信
05「公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?」 森本千尋
04「公園のスピリチュアル」 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03「遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~」 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02「公園市民力と雑木林」 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝
01「これからの公園と文化」 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎