「公園文化を語る」は、様々な分野のエキスパートの方々から、公園文化について自由に語っていただくコーナーです。
第8回目は、全国の造園業者が集う、日本最大の造園緑化団体として、技術技能の向上、よりよい緑の環境づくりをめざし様々な活動を展開している(一社)日本造園組合連合会の井上花子理事・事務局長にご寄稿いただきました。
「リガーデン」ご存知ですか。住宅のリフォームに対抗して、1997年、講談社から刊行した園芸書『庭師が教える新しいガーデニング』の中で、私が名づけた造語です。当時はガーデニングブーム真っ盛りでしたが、庭中に草花の鉢があふれ、足の踏み場もない状態の庭を庭師が手を入れて、景色を作り、庭を再生した事例を2例掲載したときに「リガーデン」と名づけました。2016年では、ヤフーの検索でも1300万件ヒットするように知られてきたように思います。
そもそも庭園の世界では、「模様替え」といわれ、庭好きなお客さんは10年に1度ぐらいの間隔で、庭の改造を行ったものでした。庭に植えられた樹木は日の当たる方向に生長し、バランスが崩れてきます。植木の向きを替え、時には鋸を使っての荒透かしをするというような模様替えは良く行われたものでした。植木職人の手間が安い時代、暇なときに植木屋さんに仕事の場を提供するという一面もあったようです。
さて現代のリガーデンは、庭のある暮らしを楽しむ、家族構成の変化、ライフスタイルの変化などに対応して庭園を作り変える積極的なガーデンリフォームを行っております。
リガーデンのきっかけとしては、家族構成の変化、ガーデンに対する好みの変化があげられます。高齢のご両親と同居することから通路のバリアフリー化を契機としてリガーデン、逆に小さなお子さんが同居することで、石組みや池などを安全なものに変えるリガーデン、バラを楽しみたい、家庭菜園で収穫を楽しみたいという庭に対するニーズからリガーデンすることも多いです。
さらに庭園の管理費をコストダウンするために、リガーデンする方も増えてきました。(一社)日本造園組合連合会では一般市民を対象とした庭に対するアンケート調査を3年おきに実施していますが、毎回のアンケートに出てくるのは、庭にかける管理費のコストダウンの要望です。樹木や芝生の管理費用を少なくしたい、草取りが負担という方も大変多いです。ローメンテナンスの庭園・緑地つくりは公共の施設だけではなく、個人の住宅庭園でも大きな課題となっています。管理費を低減する庭へのリガーデン、高木を減らす、ご自分で管理できる剪定のしやすい樹木に変える、裸地を減らして、土系舗装や防草シートの提案などが考えられます。
一方で車が1台増えるので、庭園を壊して駐車場にしたいという造園人にとっても悲しいお話も多い。このようなときに無機質な駐車場ではなく、車と共存したパークキングガーデンとして、駐車場の舗装に石材を使い、駐車に邪魔にならないところへ植栽する積極的なリガーデンを提案しています。
リガーデンには高度な技術が必要で、専門業者としてのスキルが求められます。
①リガーデンを依頼される方は既存の樹木や石材を極力活用して、新しい庭園に変えてほしいという希望を持っています。材料を新しくすれば簡単ですが、それぞれ樹木や石材などに思い入れのあるものもあり、デザイン的に高度な技術が必要になります、もったいないというお客さんの思いをどう活かしていくかテレビのビフォーアフターではありませんが、高度なデザインテクニックが必要です。
②既存樹の移植がリガーデンにはつき物で、機械も入らない場所での移植が多く、長年の熟練の技能が活躍します。
③リガーデンの施工では、大型機械が入らない現場も多く、三又やそりで石を動かす伝統技能、担ぐといった人力施工が必要になることがあります。新規庭園よりも高度な技術技能が必要です。
本格的に庭を直すとなると、費用もかかるという方にはプチリガーデンをお勧めします。
管理費のコストダウンも考えて、庭の中に小道(パス)を作りましょう。草花や宿根草が庭
のあちこちに咲いている自然風の庭もとても雰囲気があっていいのですが、管理が行き届かないと、雑草が増えて、病害虫もやってきます。平板な石を敷くだけの簡単なパスを作り、草花や樹木を毎朝見回りするだけで、管理費もコストダウンできます。
花壇の縁取りをレンガから自然石の低い石積みに変えると和風モダンに、庭に重みが出てきます。
小さなお庭では、生垣に数種類の樹木を混色する混ぜ垣はいかがでしょうか。花が咲くもの、紅葉の美しいものを混植した混ぜ垣はそれだけで小さな庭園になります。
混ぜ垣・敷石・石積みも昔から日本庭園の世界で行われてきたこと、それらにもう一度スポットライトを照らして、庭のある楽しい暮らしになるようプチリガーデンから始めてみませんか。
※文中に出てくる所属、肩書等は、ご寄稿いただいた時点のものです。2016年12月掲載
第29回 すべての人々へ自然体験を
28 都市公園が持つ環境保全への役割
27 フォトグラファー視点から見る公園
26 高齢社会日本から発信する新しい公園文化
25 植物園の魅力を未来につなげる
24 アートで公園内を活性化!
23 手触りランキング
22 和菓子にみる植物のデザイン
21 日本庭園と文様
20 インクルーシブな公園づくり
19 世田谷美術館―公園の中の美術館
18 ニュータウンの森のなかまたち
17 地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~
16 公園標識の多言語整備について
15 環境教育:遊びから始まる本当の学び
14 青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール
13 関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践
12 植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み
11 海外の公園と文化、そして都市
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜
09 日本の伝統園芸文化
08 リガーデンで庭の魅力を再発見
07 七ツ洞公園再生の仕掛け
06 ランドスケープ遺産の意義
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?
04 公園のスピリチュアル
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ ~公園でそれを実現させたい~
02 公園市民力と雑木林
01 これからの公園と文化