
第34回は、絵本作家/自然写真家の岩渕真理氏にご寄稿いただきました。
岩渕氏は、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、東京大学大学院学際情報学府を修了し、現在は美術大学の非常勤講師を務めていらっしゃいます。身近な生き物を通して自然の魅力を伝えることをテーマに、絵本制作をはじめ写真撮影やデザインも手がけており、主な絵本作品に『にわのキアゲハ』、『ヤママユ』(いずれも福音館書店)があります。

絵本作家/自然写真家
岩渕真理氏
私は普段、絵本作家として活動をしています。現在手がけているのは、科学絵本です。物語絵本も大好きですが、小さな頃から動植物が好きで、色々な生き物や植物を観察していました。その生き物好きが大人になってからも続き、気づけば公園でも、面白い動植物を見つけては、思わず立ち止まって観察をしたり、造形美に驚いたりしています。
中でも、昆虫の生態観察に夢中になり、武蔵野美術大学の卒業制作では庭にやってくるキアゲハの生態を観察し、約200個の卵から成虫になれるのは、たった1~2匹という生存率を図鑑にしました。そのことがきっかけで、後々『にわのキアゲハ』(福音館書店「かがくのとも」2016年4月号)という絵本が誕生します。
その後、森のダイヤモンドと呼ばれる美しい緑色のマユをつくるヤママユをテーマに、8年間飼育して、『ヤママユ』(福音館書店「かがくのとも」2020年9月号)という絵本を出版しました。
どちらの絵本も、さまざな公園での観察結果が活かされていますし、公園での生き物との出会い、また次回の創作アイディアにつながっています。

絵本『にわのキアゲハ』と『ヤママユ』(福音館書店「がかくのとも」)

羽化したてのキアゲハ
公園での過ごし方は日々変わります。リフレッシュのために公園を短時間歩くこともあれば、「たくさん生き物を観察したい!」と思う日はカメラや、スケッチブック、双眼鏡などを持っていきます。カメラは、接写に強いものや、マクロレンズがあると、小さな生き物を美しく拡大できます。双眼鏡は水鳥などを観察するときにもってこいの道具です。肉眼では見えませんが、双眼鏡を使うと細かな羽の模様まで見えて心が躍り、感動します。最近はカイツブリという水鳥を見つけ、双眼鏡で覗くと、羽の間に雛が入り込んでいる様子が見えて嬉しくなりました。
このように意識的に観察をすると、自然の面白さや美しさの一つひとつに感動して、センス・オブ・ワンダー(生物学者レイチェル・カーソンが提唱した、自然の神秘や不思議さに目をみはる感性)が自らのうちに湧いてくるのを感じられますし、豊かな時間を過ごしている充足感を味わえます。

蜜を求めて飛翔するアオスジアゲハ

モンシロチョウもよく見ると美しい
公園や野外に出かけると、思いがけない出会いに遭遇することが多いので、写真やスケッチなどで記録するとより記憶に残りやすくおすすめです。やはり、動植物の細部をじっくり観て手を動かしながらスケッチをすると、その姿がしっかり脳内に刻まれ、時間が経っても描くことができますし、自然と向き合うことでリラックスタイムにもなります。
スケッチや写真に残したら、家に帰って、生態を調べて深掘りすると、より興味深い発見や知識を得ることができます。今は、ネットですぐに正解に辿り着くことに頼りがちになりますが、一度、なんだろう?という疑問を持ったり、綺麗だな、面白いな、という感情を育み、身体を使って記憶に残したものは、オリジナルの知識になって、その人ならではの魅力に繋がっていきます。
もし機会があれば、公園のスタッフの方とお話していただくことをおすすめします。植物園などのスタッフの方は、知識も豊富で、園内のおすすめの場所も教えていただけることもあります。コミュニケーションをすることで、また楽しい自然散策の記憶が残り、次も公園に訪れたくなること請け合いです。

タンポポのスケッチ

タンポポも拡大すると面白い発見が見つかる
2024年に絵本専門士※を取得したことをきっかけに、絵本を介して自然に親しみを持ってもらう活動を行っています。埼玉県にある国営武蔵丘陵森林公園では、絵本を用いて、自然の楽しさや魅力を再発見できるワークショップを開催し、保育園では子どもたちと自然観察も行っています。絵本に登場する動植物を身近に感じ、興味関心を育むことができるのでとてもおすすめです。実際に読み聞かせをすると、子どもたちに楽しい記憶が残るためか、実物を見た時に「絵本に出てきたものだ!」と感動する姿を見ることがあります。ぜひ様々な場所で絵本を取り入れて、楽しみながら自然を愛でる心を育んでいただきたいと願っています。

植物園の展示と併せて行われた造形ワークショップ

野外で観察会を開催
これまでの活動や制作を振り返ると、公園を通して感動や発見を得て助けられてきたことを感じます。公園はリフレッシュだけでなく、自然を通して精神的・文化的豊かさを得られる貴重な場所です。肌に感じる風の心地よさ、木々からの何とも言えない爽やかな香り、動植物たちの想像を超える色彩や造形美など、春夏秋冬を通して自然から「贈り物」を受けていると日々感じています。ワクワクしながら心のアンテナを立て、自然からのメッセージを受信できるようにすると、思いがけない「贈り物」と出会えます。ぜひ公園を生活の一部にして楽しんでみてください。

孵化して間もないカマキリの赤ちゃん

カナヘビもよく見ると愛嬌がある

植物園の花壇は、様々な昆虫がやってくる

葉の裏で休むスジボソヤマキチョウのペア
※絵本専門士:絵本についての深い知識と優れた技術、そして豊かな感性を兼ね備えた絵本のスペシャリスト
◆関連ページ
※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。(2025年10月更新)
34「公園で観察を楽しもう!」絵本作家/自然写真家 岩渕真理
33 「二酸化炭素と緑化と公園の話」九州工業大学客員教授 高橋克茂
32 植物を見るなら、公園に行こう!植物観察家/植物生態写真家 鈴木純
31「公園を育てながら楽しみつくす「推しの公園育て」」 非営利型一般社団法人「みんなの公園愛護会」代表理事 椛田里佳
30「公園から始める自然観察と地域との連携」 日本大学 生物資源科学部 森林学科 教授 杉浦克明
29「すべての人々へ自然体験を」 自然体験紹介サイト「WILD MIND GO! GO!」 主宰 谷治良高
28「都市公園が持つ環境保全への役割」 札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀望
27「フォトグラファー視点から見る公園」 国営昭和記念公園秋の夜散歩 ライティングアドバイザー フォトグラファー 田島遼
26「高齢社会日本から発信する新しい公園文化」 鮎川福祉デザイン事務所 代表 埼玉県内 地域包括支援センター 介護支援専門員 (ケアマネジャー) 鮎川雄一
25「植物園の魅力を未来につなげる」 (公社)日本植物園協会 会長 水戸市植物公園 園長 西川綾子
24「アートで公園内を活性化!」 群馬県立女子大学文学部美学美術史学科准教授 アートフェスタ実行委員会代表 奥西麻由子
23「手触りランキング」 樹木医・「街の木らぼ」代表 岩谷美苗
22「和菓子にみる植物のデザイン」 虎屋文庫 河上可央理
21「日本庭園と文様」 装幀家 熊谷博人
20「インクルーシブな公園づくり」 倉敷芸術科学大学 芸術学部 教授、みーんなの公園プロジェクト代表
19「世田谷美術館―公園の中の美術館」 世田谷美術館学芸部 普及担当マネージャー 東谷千恵子
18「ニュータウンの森のなかまたち」 ごもくやさん 中田一真
17「地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~」 東京都建設局 東部公園緑地事務所 工事課長 竹内智子
16「公園標識の多言語整備について」 江戸川大学国立公園研究所 客員教授 親泊素子
15「環境教育:遊びから始まる本当の学び」 すぎなみPW+ 関隆嗣
14「青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール」上野の森親子ブックフェスタ運営委員会(子どもの読書推進会議、日本児童図書出版協会、一般財団法人出版文化産業振興財団)
13「関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践」 NPO法人日本冒険遊び場づくり協会 代表 関戸博樹
12「植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み」 福山大学生命工学部海洋生物科学科 教授 高田浩二
11「海外の公園と文化、そして都市」 株式会社西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ 代表 西田正徳
10「都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜」 千葉大学大学院園芸学研究科 准教授 野村昌史
09「日本の伝統園芸文化」 東京都市大学環境学部 客員教授 加藤真司
08「リガーデンで庭の魅力を再発見」 (一社)日本造園組合連合会 理事・事務局長 井上花子
07「七ツ洞公園再生の仕掛け」 筑波大学芸術系 教授 鈴木雅和
06「ランドスケープ遺産の意義」 千葉大学名誉教授 赤坂信
05「公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?」 森本千尋
04「公園のスピリチュアル」 東京農業大学名誉教授・元学長 進士五十八
03「遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ~公園でそれを実現させたい~」 学校法人旭学園 理事長 高島忠平
02「公園市民力と雑木林」 一般社団法人日本樹木医会 会長 椎名豊勝
01「これからの公園と文化」 一般財団法人公園財団 理事長 蓑茂壽太郎























