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第19回 世田谷美術館―公園の中の美術館

第19回は、「美術館は特別な場所ではなく、生活に息づく場所である」という考えのもと、世田谷美術館が実施している様々な取り組みについて、世田谷美術館学芸部普及担当マネージャーの東谷千恵子(あずまや ちえこ)さんからご紹介・ご寄稿いただきました。

 

「美術大学」など、教育普及事業を担当する東谷千恵子さん

「美術大学」など、教育普及事業を担当する
東谷千恵子さん

世田谷美術館について


世田谷美術館は、1986年、東京都世田谷区の砧(きぬた)公園(こうえん)に誕生しました。

 

エントランスホールの壁にはラテン語で「ARS CUM NATURA AD SALUTEM CONSPIRAT」と刻まれています。—芸術と自然は秘かに協力して、人間を健全に導く―当館は、この言葉を開館以来、運営の理念としてきました。

 

アンリ・ルソーなどの素朴派の作品、世田谷区ゆかりの作家の作品など国内外の近代美術16,000点に及ぶ豊富なコレクション、国宝から現代美術までと幅広く、ユニークな視点による企画展の開催、また、講演会、ワークショップ、創作講座、コンサート、パフォーマンスなど、小さなお子様から大人の方まで、楽しんでいただける様々なイベントを開催してきました。美術館は特別な場所ではなく、生活に息づく場所である、と考えています。

居場所としての美術館


当館の大きな特徴として、およそ34年前の開館当初からワークショップや創作講座などの教育普及事業に力を入れてきたことがあります。

特に現在でも他にあまり例のない事業として、開館以来おこなっているのが、区民を対象とした年間にわたる実技と講義を組み合わせた総合的な講座「美術大学」、また区立の全小中学校を対象とした「美術鑑賞教室」です。「美術大学」を修了された方がボランティアとして、「美術鑑賞教室」で来館する子どもたちの案内をする、という流れが自然にできあがり、この二つの事業はリンクしています。

 

こういった教育普及事業の厚みにより、当館は地域と密接なつながりを持っています。そして「展覧会を見るために訪れる美術館」ではなく、地域の方々の居場所としての美術館でもあるのです。



公園の中の美術館


当館に入館するためにはいくつかのアプローチがありますが、公園側の入り口といえる中庭が「くぬぎ広場」です。そこには世田谷名木百選にも選定された大きなくぬぎの木があります。実は当館の建物は、この木を取り囲むように建っているのですが、展覧会にいらっしゃるほとんどのお客様は外側のメインエントランスから入退館するため、この中庭をご存じない方も多いのです。中庭を訪れるのは、公園から来る方々—ウォーキング後に一休みする人、犬の散歩をしている人、お弁当を食べる人、陽の下で読書をする人、そんな方々です。秘かに、この「本人は公園で過ごしていると思っているのに、実は美術館の中心で過ごしている方々」が当館の美術館としての在り方に大きく影響しているのではないか、とほくそ笑んでいます。



作品のない展示室


2020年の夏、当館は一風変わった企画を開催しました。それまで考えてもみなかった状況に世の中が一変し、世界中で多くの美術館が休館するという事態となりました。当館もまた、3月31日から6月1日まで休館となり、その後も予定を大幅に変更せざるを得ませんでした。海外からはおろか、当面、国内からも作品を借用することが難しくなり、急遽、所蔵品による展示に切り替えることにしたのですが、どうしても準備のために催しの空白の期間ができてしまいました。

 

その期間を一体どうするか?相談の中で、いっそのこと何も展示せずに、美術館そのものと外の風景を見てもらったらどうか、というアイデアが出たのです。

 

当館の設計は戦後を代表する建築家のひとりである内井昭蔵(1933-2002)によるものです。内井昭蔵は設計上のコンセプトを「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」の3点としました。そのため、当館には多くの窓とアプローチがあり、本来は開放的な作りとなっています。光あふれる自然の中で作品と接する場となる狙いだったのですが、ところが、美術館としては作品保全の観点から、作品を太陽光にさらすわけにはいかず、残念ながら通常の展示ではこの窓はシャッターで堅く閉ざされています。この件については、内井先生は来館の度に残念がっていらっしゃいました。

 

この『作品のない展示室』という企画は「型破り」「前代未聞」として思いのほか、話題にしていただきましたが、わたしたち職員にとってはごく自然なことでした。なぜなら、わたしたちはこの建物の本来の姿を知っていましたから。

窓をあけることにより、初めてランドマークであるはずのくぬぎの木や屋外彫刻の存在に気付かれた方も多く、外の風景を「まるで絵のようだ」とゆったりと楽しみ、くつろいで過ごしていただきました。

美術館とは、ただ作品を見せる場所ではない、当館は開館以来ずっと、そう考えてきたのですが、この企画をすることで、改めて実感しました。

 

『作品のない展示室』では本来の建物の姿を多くの人が楽しんだ

『作品のない展示室』では本来の建物の姿を多くの人が楽しんだ

 

 

今回、寄稿させていただくにあたり、ふと「公園」の定義とは何かを調べてみました。Wikipediaによると「公園とは、公衆が憩い、また遊びを楽しむために公開された場所」とありました。この言葉通りに考えれば、美術館も公園のひとつだと考えられるのではないでしょうか?

 

 

 

◆関連ページ

世田谷美術館HP:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/

 

※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。

(2020年12月掲載)

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19 世田谷美術館―公園の中の美術館
18 ニュータウンの森のなかまたち
17 地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~
16 公園標識の多言語整備について
15 環境教育:遊びから始まる本当の学び
14 青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール
13 関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践
12 植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み
11 海外の公園と文化、そして都市
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜
09 日本の伝統園芸文化
08 リガーデンで庭の魅力を再発見
07 七ツ洞公園再生の仕掛け
06 ランドスケープ遺産の意義
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?
04 公園のスピリチュアル
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ  ~公園でそれを実現させたい~
02 公園市民力と雑木林
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