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第10回 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜

第10回は、応用昆虫学(農業害虫管理)、昆虫の分子系統学などを専門とし、都市緑化の生物多様性などにも関わっておられる、千葉大学大学院園芸学研究科の野村昌史准教授に語っていただきました。

千葉大学大学院園芸学研究科 准教授
野村 昌史氏
北米の公園事情


昨年、アメリカ東部のペンシルバニア州のほぼ中央に位置する街、ステートカレッジのペンシルバニア州立大学(ペンステート)で研修する機会をいただいた。当初は専門の害虫防除に関する最新の知見を研修するはずだったが、現地到着後に運命は大きく変わり、感染症の研究室で「ジカ熱のウイルスに感染したサルの培養細胞が産生するタンパク質の性質を調べる」という・・・全く予想もしない研究を行うことになった。しかし実験そのものは面白かったので、研究室の仲間たちと楽しく研究させていただいたが、アメリカの昆虫を観察する機会は研究上では失われた。しかし「アメリカの昆虫を見たい!」という欲求は消えるはずもなく、アフター5や週末にあちらこちら出かけることにした。

しかし、これほど広大な土地があるのに、アメリカにはいわゆる原っぱや荒れ地といったものがほとんどない。基本的には芝生と樹が点々と植わっている環境で、これが住宅と住宅の間のスペースやスーパーマーケットの裏庭、そして道路脇の空き地や州立公園などにおいても、変わらない光景であった(図1)。つまり、ほとんど草花は生えておらず、どこまで行っても「芝生と樹木」という景色が広がるだけで、写真にすると「美しい」という景色に見えなくもないが、チョウどころかアリ1匹を探すのにも一苦労するような環境だったのである。

アメリカのバタフライガーデン


アメリカの緑地環境に愕然とした私であったが、幸い車も持っていたので遠出をして昆虫観察に最適な場所を探してみた。しかし良い場所はほとんどなく、車で1時間ほど離れた州立公園では、野生植物が植わっている所もあったので、多少は昆虫観察もできた。それでも昆虫が多いとはいえない環境で、何となく物足りない日々を送っていた。ところがある日、住んでいた家のまさに隣にあった公園を散歩していたところ、芝生と樹木の一角に多様な植物が植えられているガーデンが広がっているのを見つけた。しかも看板が出ていて、ここはペンシルバニア州の自生の植物を中心に植栽されている「バタフライガーデン」であることが判明した(図3)。まさに運命的な出会いだった。

それからは毎日のようにガーデンに向かい、管理している人たちにも会うことができ、管理仲間に入れてもらった。ペンステートのエクステンション(解放・拡張機構)になっているこのガーデンを管理する人たちは、自然や動植物を愛する人たちで、週に2日程度ガーデンの管理をしながら、彼らの自然保護や生物多様性の取り組みなどの話を聞くこともでき、とっても楽しい時間であった。でも観察できた昆虫の種類となると、同程度の日本の公園をイメージした場合に比べ遙かに少なかった。周りに自生植物を中心とした公園がないからだろうし、日本に比べ昆虫の種類そのものが少ないというのもその理由だろう。

それでも夏になると、ガーデンには多くの花々が咲き乱れ、チョウなどの昆虫たちも数多く見つけることができた。憧れだったオオカバマダラを撮影できたときの感動や(図4)、見たことのない色合いのセセリチョウなどを見つけた時(図5)など、私にとっては至福の時間であった。

図5 セセリチョウの一種 Common white checkered skipper


偶然出会ったこのガーデンのように、公園に自生種を植える取り組みも広がっているようだが、広大なアメリカにしてはまだ本当に狭い範囲でしか作られていないようである。少しずつでもバタフライガーデン活動を拡げていきたいものである。そして、いつかこのガーデンに出向いて、管理している彼らと生物多様性ガーデンを推進する活動を行うのが楽しみである。

屋上緑化における生物多様性


一方、日本の公園へと目を転じてみると、さすがに芝生だけの公園は少ないものの、日本庭園にしてもイングリッシュガーデンにしても、昆虫たちと共存するという概念は、ほとんどないように思える。

様々な樹種を組み合わせる日本式の庭園でも、多様な植物が導入されれば当然、それらを寄主植物とする様々な昆虫が発生するので、放っておけばあちらこちらで害虫化することも十分考えられる。そのため公園や庭園などでも必要に応じて殺虫剤などの散布が行われている。また広大な面積での単独植物の開花を売り物にしているような公園でも、その植物を食べる昆虫が大発生してしまう可能性があるため、管理は必要であろう。実際、コスモスの花畑となっている公園では、オオタバコガが花に産卵し、幼虫が花をかじってしまうことから、定期的に農薬を散布する所もあるようだ。多くの花がイモムシに食べられているのではイメージも悪くなるので、こうした管理も必要かもしれない。しかし害虫が出たからといってすぐに殺虫剤散布というパターンも、そろそろ考え直す時期に来ているのではないか。

人々の暮らしに潤いを与えてくれる植物を食べる昆虫は、「害虫」という扱いになってしまうが、これらを盲目的に防除するのではなく、天敵など自然界のシステムで、被害が目立たない程度の発生に抑える方法により、公園でも昆虫との共存を目指せないかと考えている。こうした考えのもと、私たちの研究グループは千葉大学の屋上(10階部分に相当)に、生物多様性を考慮した屋上緑化を創出している(図6)。ここでは多くの樹木や草本が植えられ、剪定等は行うものの農薬などは一切使用しない活動を10年以上行っている。

我々の調査では10階という高層の緑地でも80種以上の昆虫が観察でき、こうした生物多様性屋上緑化で、都市部で少なくなった希少昆虫の保護が行えないかなど将来構想も膨らんでいる。さらに、灌水などの管理を行わず、再生資材を利用した「屋上はらっぱ」でも(図7)、条件さえ整えば多くの昆虫たち(調査では合計70種にも及ぶ)が生息可能であり、「昆虫たちの生息地」として新たな屋上緑化の役割を担う可能性についても研究を重ねている。いつかは、この粗放型の屋上庭園の生物多様性維持に関しても情報発信していきたい。

公園でも昆虫観察を!


日本の公園は様々な植生や土地利用形態があるので、昆虫たちがたくさん見られる公園も多い。でも自然や昆虫との出会いを楽しみにしている人がいる反面、昆虫との遭遇を歓迎しない人たちも存在する。公園の歩道を歩いていた親子の前方数メートルにバッタが出てきただけで、母親が悲鳴をあげて子供を引っ張って逃げていく場面に遭遇したことがある。昆虫に恐怖心を抱いている人に昆虫と仲良くなってもらうのは難しいとしても、少しでもこうした感情が薄まるようなことはできないものか、と考えてしまう。言うは易くだが、「公園でも昆虫がいて生活している」ということで、自然とのふれあいの場という一面も担っていくことは、まだまだ先の話だろうか。

徹底的な管理を行っていたとしても、どんな公園でも昆虫は生息している。花が咲けばそこにはハチやチョウなどは必ずといっていいほど訪れるものだし、どんな小さな植物でも高い樹木でも、探せば昆虫を見つけ出すことができる。そして小さな昆虫だけでなく大型のものでも、草や木に隠れじっとしている場合が多い。このように隠れている昆虫たちを、図鑑などを片手に探すのも一つの楽しみ方である。花から花へ飛び回るチョウやハチを観察するだけでなく、「自然のかくれんぼ」を体験してはどうだろうか。草地のバッタや落ち葉の下のゴミムシやオサムシなど、隠れ場所は山ほどあるのだから・・・

生物多様性創出機能を持った公園


都心においても、また都市部だからこそ、生物多様性を考慮した公園があってもいいのではないかと考える。管理された公園だけではなく、自生植物を植栽し、少ない管理で昆虫たちとの共存を目指す公園があってもいいのではないか。そうした公園は増えることで、多くの昆虫たちに生活場所を提供できる。この取り組みにより、都会では姿を消してしまった昆虫たちを復活させることもできるかもしれない。

私の専門は農業害虫の環境に優しい防除であるが、小さい頃から昆虫好きでこの道に入ったこともあり、防除だけでなく昆虫を守る面の研究も行いたかった。今回紹介した屋上緑化やバタフライガーデンの取り組みは、昆虫好きの私にとって長年の夢が叶ったものであり、この方面でも良い成果が上げられるよう努力していきたい。そして「日本の公園では多くの昆虫たちと接することが出来る」という側面が一般化するような活動を行っていきたいと考えている。

■関連サイト
戸定の昆虫 http://www.h.chiba-u.jp/lab/insect/tojo/tojo.html



過去記事一覧
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜
09 日本の伝統園芸文化
08 リガーデンで庭の魅力を再発見
07 七ツ洞公園再生の仕掛け
06 ランドスケープ遺産の意義
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?
04 公園のスピリチュアル
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ  ~公園でそれを実現させたい~
02 公園市民力と雑木林
01 これからの公園と文化
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