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第28回 都市公園が持つ環境保全への役割

第28回は、札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表で、公益財団法人札幌市公園緑化協会が管理する札幌市豊平川さけ科学館で、野生サケの調査研究を続けながら、水辺の科学コミュニケーションを実践している有賀望氏に、「都市公園が持つ環境保全への役割」についてご寄稿いただきました。

 

札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表 有賀 望氏

札幌市豊平川さけ科学館 学芸員(農学博士)
札幌ワイルドサーモンプロジェクト共同代表
有賀 望氏

さけ科学館の成り立ち


札幌市内を流れる豊平川では、高度経済期の河川改修や水質汚染により、サケの遡上がほぼ途絶えましたが、市民による環境保全活動の先駆けであったカムバックサーモン運動により、再びまとまったサケが遡上するようになりました。さけ科学館は、サケの回帰継続と水辺環境の普及啓発を目的に1984年に設立されました。

 

さけ科学館では、河川に遡上するサケや淡水魚の調査を継続し、市内の水生生物の情報を蓄積しています。入館無料の館内では、約20種類のサケ科を継代飼育し、市内の水辺に生息する淡水魚、甲殻類、両生爬虫類も飼育展示しています。

最近は、小学校から大学まで、学校教育から依頼が多くなり、サケの遡上観察、採卵実習、卵~稚魚の飼育体験といったサケ学習のほか、川での魚とり、学校への出前授業にも対応しています。

 

科学(サイエンス)コミュニケーションの重要性


長期にわたるさけ科学館の調査から、豊平川には平均1000尾以上のサケが遡上し、その半数以上が自然産卵由来の野生魚であることが判明しました。近年、放流魚は野生魚よりも環境適応度が低いことが知られるようになったため、豊平川ではサケの将来のために放流数を減らし、野生魚割合を高めることに舵が切られました。川ではサケの産卵環境の復元も同時に進めており、野生魚のモニタリング調査を行っています。

さらに、希少種の生息河川における工事の相談を受けた際には、生息調査への協力、保全対策の提言、関係団体との情報共有の場の設定などを行っています。これらのことは、さけ科学館単独で実施することは難しく、共同研究してきた研究者、河川管理者、マスコミ、行政などとの連携で進められています。

 

科学コミュニケーションとは、文部科学省webサイトに「科学のおもしろさや科学技術をめぐる課題を人々へ伝え、ともに考え、意識を高めることを目指した活動」とありますが、重要なことは、地域の課題に気づき、科学的な知見に基づき、専門家や関係者、市民を交えて環境保全のために行動できることにあると考えています。

 

サケの産卵環境改善に取り組む関係機関との連携の現場

 

公園管理の現場での気づき

公園管理を約4年間経験した際に、都市公園が持つ環境保全への役割の大きさを実感しました。初めに勤務した西岡公園には水源池があり、トンボの種類が豊富な自然公園でした。小学生がトンボを調査するヤンマ団と、水生生物を調べるさかな組が活動しており、公園で生き物を調べ、まとめて発表する取り組みは、子供たちが身近な自然に触れ、実体験として記憶できる良い機会になっていると感じました。次に勤務した円山公園は、北海道神宮や円山動物園、円山球場と隣接し、人通りが多い一方で、天然記念物に指定されている円山原始林の裾野に位置し、エゾリスやクマゲラなど野生動物が身近に感じられる公園でした。ここでは、野生動物への過度な餌付け行為が散見され、都市における人間と野生動物との関わり方を利用者や専門家と考える機会となりました。

 

野生動物への餌付け現場

都市公園が持つ環境保全の役割を果たすために

札幌市では、生物多様性の保全を推進するため、長期的な指針を示す「生物多様性さっぽろビジョン」を策定していますが、専門委員として改訂作業に参加した際に、あるべき姿の一つとして、「都市公園などの緑地では、市民参加型の生物調査、観察会、環境教育の場として活用されるとともに、生物相が把握され、多様な生物が保全されている」ことが期待されていたり、生物多様性に関する市民の理解促進や保全活動の活性化を図る拠点として位置付けたネットワーク事業に、公園管理者が自主事業で取り組んでいる外来種防除や普及啓発事業を組み込んでいることを認識しました。

生物多様性の損失の解決のためには市民の理解と協力が欠かせませんが、都市公園は、生物多様性が保全/保護されている場所であるだけではなく、市民が野生動物や自然環境に触れ、生物多様性の保全に寄与する活動に参画する場として重要な役割を持っています。今後、都市公園が持つ環境保全の役割を着実に果たすためには、「生物多様性の保全を推進すること」を公園管理の仕様に盛り込んでいくことが必要ではないかと思います。

 

■関連ページ

札幌市豊平川さけ科学館

https://salmon-museum.jp/

札幌ワイルドサーモンプロジェクト

https://www.sapporo-wild-salmon-project.com/

生物多様性さっぽろビジョン

https://www.city.sapporo.jp/kankyo/biodiversity/vision.html

 

※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。(2024年2月掲載)

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過去記事一覧
28 都市公園が持つ環境保全への役割
27 フォトグラファー視点から見る公園
26 高齢社会日本から発信する新しい公園文化
25 植物園の魅力を未来につなげる
24 アートで公園内を活性化!
23 手触りランキング
22 和菓子にみる植物のデザイン
21 日本庭園と文様
20 インクルーシブな公園づくり
19 世田谷美術館―公園の中の美術館
18 ニュータウンの森のなかまたち
17 地域を育む公園文化~子育てと公園緑地~
16 公園標識の多言語整備について
15 環境教育:遊びから始まる本当の学び
14 青空のもとで子どもたちに本の魅力をアピール
13 関係性を構築する場として「冒険遊び場づくり」という実践
12 植物園・水族館と学ぶ地域自然の恵み
11 海外の公園と文化、そして都市
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜
09 日本の伝統園芸文化
08 リガーデンで庭の魅力を再発見
07 七ツ洞公園再生の仕掛け
06 ランドスケープ遺産の意義
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?
04 公園のスピリチュアル
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ  ~公園でそれを実現させたい~
02 公園市民力と雑木林
01 これからの公園と文化


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