皆さん、こんにちは。2022年に「公園文化を語る 第24回 アートで公園内を活性化!」で寄稿させていただいた奥西麻由子と申します。普段は大学でアートマネジメントと美術教育を中心とした研究をする傍ら、アートフェスタ実行委員会の代表として、公園でもアートプロジェクトや子どもを対象とした造形ワークショップの企画、運営をしています。今年度よりアートコラムを執筆させていただくことになりました。アートを切り口に公園で行ってきた活動などを紹介していこうと思います。
アートというと難しい?絵やものづくりが上手でないといけないのかな?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は小さい子から高齢の方、障害のある方なども皆がアートをみる、つくる活動を通して豊かな出会い、新しい自分の発見に繋がるような場作りを目指しています。どうぞごゆるりとお付き合いくださいませ。

【季節のいろ】 この時期はあじさいが目を楽しませてくれます。水色、青、紫、ピンクなどのグラデーションは水彩絵の具をにじませたようです。
【階段アートの始まり(2016)】
さて、今回は私が国営武蔵丘陵森林公園で実施した階段アートのお話をします。始まりは2016年。こちらの公園、西口のゲート付近にとても長い階段があります。それまでも色々お世話になっていた当時のセンター長、企画担当の皆さんと、「夏休みは西口から近い、水遊び広場で遊ぶ来園者がたくさん来るんだけれど、暑~い埼玉の夏に少しでも公園の“涼”を届けられないかな~」と話していた際、近隣の熊谷駅というところで階段に全面シートを貼ったアートが施されているからうちでもやってみよう!ということになりました。駅の階段もずいぶん大きなサイズですが、公園のほうも負けていません。上の段は18段、下の段は16段、上下で3m×3.5mの巨大キャンバスです。ここの一段ずつの側面にアートを施し、下から見ると大きな絵にみえるようにしてしまおう!という試みです。
さて、どうやってそれを実現しようか。。。まさか階段に直接ペンキで描くことは出来ません。熊谷駅のほうをリサーチすると、デザインは公募作品なのですが、出力して施工は業者さんがきっちりと剥がれないように貼っています。そしてきっとその方法だと予算が足りません。私たちは当時出来るだけ手作りで耐久性のある方法を模索していました。試行錯誤の結果、まずは“涼”を感じるデザイン画を作り、企画担当の方々と話しながら、屋外用のカッティングシートを使うことにしました。デザイン画にある金魚のパーツは、6月のイベントで来園者の方にもハサミで切って、形を作ってもらいました。

いろいろなデザイン画を作りました

施工1日目、グラデーションにシートを貼っていきます
そして、7月のもうすでに暑い日・・・!階段ごとにカットしたシートを貼っていきます。当時まだ休園日がなく、施工中は安全コーンを置いて、来園者の通路を確保しながら行いました。やっと1日でベースのシートを貼り、2日目は金魚、水玉パーツです。施工を行うのは私と応援に駆け付けたセンター長。皆さん夏の準備で忙しくなかなかハードでした(笑)。2日間みっちりと作業を行った結果、水遊び場に向かう子どもたちには「わー、魚の絵になっている!」とうれしい声が。気づいてくれてありがとう。なんとか、階段アート、完成しました。そして9月上旬まで西口ゲートで来園者をお迎えすることができました。

右でシートを黙々と貼るセンター長

完成した初めての階段アート
【素材を変えて、夏の風物詩シリーズ(2017~2019)】
どんなアート作品も一度やってみて、わかること、改善点というのがあります。最初の年に使用したカッティングシートをはがす際、実はとんでもないことになりました。・・・ある程度は予想していましたが、ちぎれてしまう箇所があり、うまくきれいに剝がれないのです。現状復帰まで随分苦労したので、次は素材を変えようということになりました。暇さえあればホームセンターを回り、どの素材が貼るのも剝がすのも、耐久性もよいか・・・ということで出た結論がプラスチック段ボールをベースにして、アクリル系の絵の具で絵を描くという手法です。さらに剥がしやすい、強力な両面テープを段ボールの裏に貼ることで、施工が随分らくちんになりました。
2017年、私は出産間近だったため、夫が講師を勤める本庄第一高校美術部の皆さんにデザインと作品を作ってもらいました。生徒の皆さんはムサシトミヨという埼玉県で生息する魚を全面に描きました。続く2018年、19年は私が夏の風物詩を描き、素材を変えて夏の季節、西口の階段を彩ることが定番になりました。いつも施工は暑い時期に行うのですが、作業後の休憩時間に企画担当の方々とかき氷を食べてキーンとなったあの冷たさ、頬を撫でる熱風など、夏の時期のあの感覚がこうして文章を書いている今もすぐに懐かしさと共によみがえってきます。当日はやっぱり疲れるのですが、やめられないのがアートの面白さですね。

2017年 本庄第一高校美術部の作品「ムサシトミヨ」

2018年 「風鈴と朝顔」

2019年 暑中見舞い 花火とヨーヨー
【コロナ禍は階段アートもお休み(2020~2021)】
2020年からの二年間は、コロナ禍ということもあり、公園のイベントなど多くの制限が課された時期でした。これまで続いてきた取り組みもいったんお休みになってしまいましたが、公園でお仕事をされていた方々は、本当にご苦労の絶えない日々だったと思います。今思えば、しばし次の活動に向けて充電ということでした。
【中学校美術部の階段アート(2022~2025)】
コロナ禍もまだ明けたとは言えない2022年、公園の所在地、比企郡滑川町の教育長様が、「滑川町唯一の中学校、美術部に活躍の場を与えたい。何か連携することは出来ないでしょうか」と公園側に打診がありました。そこに同席させていただいた私も色々とアイデアを話すうちに、これまでやっていた階段アートを中学生が作るのはどうかという話になりました。中学生にとっては、学校の外に飛び出し、来園者を自分たちの作品でおもてなしする機会になりますし、公園側にとっても近隣の教育機関との連携は重要でしょう。私はここではアドバイザーとして関わることとなりました。まさに階段アート、第二弾の幕開けです。
はじめは、美術部担当の顧問の先生も不安そうな面持ちで、「果たして生徒たちができるかどうか…」と心配そうでした。しかし、公園の企画担当の方々と数回学校へ赴き、中学生に階段アートの紹介をし、デザインの描き方などを伝えました。最初の一年目は半分程度サポートをして、生徒の皆さんにはデザイン画の制作、プラスチック段ボールへのトレース、着色を行ってもらい、休園日の7月に公園に来てもらいました。これまで私たちが数人で作業していたことが嘘のように、中学生30名近くがきびきびと作業をして、あっという間の短時間で全面に貼りつけることが出来ました。
施工当日は、新聞社やケーブルテレビなどのメディアの方々も駆けつけてくださり、取り組み自体を新聞記事等に取り上げていただくことが出来ました。最後に記念撮影をした際の、生徒の皆さんの満面の笑みは、完成したぞ!という喜びと達成感にあふれていました。

皆で作業すればあっという間・・・!

完成した2022年の階段アート作品
一度、制作のプロセスを体験すると、中学生であっても階段アートを作り上げることが出来ます。2023年以降は、同じように学校に赴き、レクチャーはしましたが、先輩が後輩にノウハウを伝えていくというかたちとなり、よりスムーズに作品を作ることが出来てきました。最初のデザイン画では全体のバランスを考えて私が修正を加えた箇所もありましたが、翌年は生徒さんのデザインをそのまま作品にすることが出来ました。おかげで3年目にはこちらの作業はデータおこしとプラスチック段ボールの最初のカットのみで、ほぼ中学生が制作工程をこなせるようになりました。大人が思うよりずっと、子どもたちはしっかりとしていて、毎年恒例の作品制作だ!という意識で臨んでいるようです。

2023年の作品 スイカとひまわり

2024年の作品 50周年に寄せて
そして、2025年の作品を現在制作中です。すでにデザインが決定し、着色を始めている頃です。また、暑い埼玉の夏が始まりますが、クールスポットでもある公園で、ぜひ本物の階段アートをご覧ください。皆さんに少しでも“涼”を届けられるように頑張っています!
【公園を彩るということ】
階段アートのお話、いかがだったでしょうか。2年間はコロナ禍のブランクがありますが、始めてから10年がたとうとしています。限られた材料、予算の中でもアイデア次第で公園を彩ることは出来ます。手作りのアートだからこそ感じられる温かみや思いがあるのでは…と思います。当然雨、風といった天候や安全性の問題はつきものです。公園という自然の中で、ある種異質なアートという存在、でもそれを作った人、訪れた人の少しでも記憶に残るものになったらいいなと思います。
◎公園でのアート活動、アイデア、ご相談などありましたらお気軽にお問い合わせください。
(2025年5月掲載)
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