皆さま、こんにちは。まだまだ寒い日々が続いていますが、少しずつ気温が上がる日も増え、春の足音が聞こえてくる頃となりました。今回は先月に引き続き、冬の公園を楽しむアートのお話をさせていただきます。
この季節は、澄んだ空気の中で公園を散歩するのがとても気持ちいいです。ただし、花々は少なく、木々は枯れていて、景色に色味があまりない時期なので、公園を歩いて楽しいことを増やしたいところです。そこでおすすめしたいのが「彫刻散歩」です。

【季節のいろ】 葉牡丹は、葉の形が牡丹のようでもあり、色のグラデーションが美しいのも特徴のひとつです。よく見ると、ひらひらとしたフリルのように見えて面白いです。
【彫刻に出合える公園】
彫刻というと、人物像や立体的なオブジェを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。美術館に足を運ばなくても、街の中や公共空間、公園といった場所でも出合えるアートが彫刻です。
普段、皆さんが何気なく歩いている駅前や広場などを思い出してみてください。渋谷駅のハチ公像は、その代表的な例です。彫刻作品の前が待ち合わせ場所になったり、子どもがその作品に触れたり遊んだりする光景を目にすることもあるのではないでしょうか。
このような公共の場における彫刻は、1970年代~80年代にかけて、日本各地でまちづくり事業の一環として設置されていきました。地方自治体が国内外の著名な作家の作品を購入したり、彫刻家の作品を屋外に展示し、コンペで賞を取った作品は買い上げになる、ということもありました。
山口県宇部市のときわ公園で今日も開催されている「UBE現代日本彫刻展」は、1961年に始まった、世界で最も長く続いている野外彫刻展で、公園内に100を超える作品が設置されています。
ほかにも神戸須磨離宮公園では1968年からビエンナーレ形式※で野外彫刻展が開催され、今もその作品群は園内で見ることができます。また、長野市では城山公園、南長野運動公園をはじめ市内各地に150近くの作品が設置されています。こちらも1973年に始まった「野外彫刻ながのミュージアム事業」により、文化的なまちづくりを目指したものとなっています。
全国にこのような事例は数多くあり、私もまだまだ足を運べていない場所も多く、網羅しきれておりません。そんな中、昨年は北海道の洞爺湖ぐるっと彫刻公園に行きました。洞爺湖の湖畔に全58作品があるのですが、半日かけて散歩して半分巡れるというくらい、広大な自然の中に配置されています。歩きながら次の作品を見つけると嬉しくて、写真を撮ったり、事前にプリントアウトしたマップに印をつけて彫刻散歩を楽しみました。

洞爺湖ぐるっと彫刻公園に設置されている安田侃の「意心帰」、北海道を代表する彫刻家による大理石の作品です。
【様々な彫刻の素材】
野外に設置された彫刻作品は、どうやって作られているかご存じですか?例えば、女性の人物像を例にこのような質問を学生にすると、「削って作られているのではないか?」と言います。では、「何でできているのだろう?」と聞くと「鉄ですか?」という回答もしばしばあります。鉄を削って写実的な人物の像に近づけるには、すごい技術が必要でしょうし、そもそも鉄の塊から彫刻を作るのは至難の業です。
屋外に恒久的に彫刻作品を設置するには、雨、風、雪などの様々な自然から作品を守るために耐久性のある素材が選ばれます。最もよく用いられるのがブロンズ(金属)や石(大理石や御影石)です。また、アルミやステンレス、FRP(強化プラスチック)などを使用する場合もあります。
先の人物像の場合、彫刻家が粘土であらかじめ人物をかたち作り、その外側を石膏でかたどります。次に、鋳物屋が石膏の中に鉄を流し込んで固め、最後に石膏を剥がすと作品が完成します。
イメージがわきにくい方は、シリコン型にチョコを流して剥がすとその形のチョコレートができることを想像してみてはいかがでしょう?このように、数々の工程を経て一点ものの彫刻作品ができています。
ここでは人物像を例に挙げましたが、石であれば彫刻家が削って作りますし、抽象的な形の場合はデザイナーが考案し、業者が施工するということもあります。彫刻作品の近くには、キャプションという作品のタイトルや作者、制作年、素材などが書かれたプレートがあることが多いです。彫刻散歩の際には、このプレートも見てみると、いつ、だれが作ったものなのかということも分かるので、ぜひ探してみてください。

群馬県館林市 彫刻の小径にある木下 繁の「裸婦」(ブロンズ)。
右下にキャプションがある。ポーズを真似する娘。

富山県富山市富岩運河環水公園にある富山県美術館のマスコットキャラクター、
永井一正デザインの「ミルゾー」。素材はFRP。
【彫刻鑑賞の方法】
では次に、彫刻はどうやって見たらいいのか、というヒントをお伝えしたいと思います。
一つ目は、いろいろな方向から作品を見ることです。散歩をしながら、彫刻の周りをぐるっと回ってみてください。一方向から見た時の印象が、別の方向から見ると全く異なって見えることがあります。自分にとってのベストな角度を見つけるために写真を撮ることも楽しいですね。
二つ目は、危険がなければ作品に触れてみることです。先にお伝えしたように、素材ごとに触った感じが異なるので、冷たい、つるつるしている、ざらざらしているなど、触覚を通して感じることが出来ます。美術館では作品に触ることは出来ませんが、屋外作品であれば特に問題はありません。作者がどんな気持ちでその部分を作っていたのか、など想像もできますね。三つ目は、想像を膨らませてみることです。具象彫刻であれば、その像がどんな思いでそのポーズをとっているのか考えたり、抽象的な形であれば、もしその作品が小さかったら自分の家のどこに飾ろうかなど、いろいろ思いを巡らせてみてください。作品は自分にとってリアリティのあるほうが、楽しく鑑賞できます。
最後に、私が2012年に国営武蔵丘陵森林公園の中央口付近の彫刻広場で行った、中・高校生を対象とした彫刻ツアーを紹介します。この活動は、1月のアートコラムでも書いた「アートセッション」の取り組みです。公園職員の方から、彫刻広場の彫刻を活用した催しを行ってほしいという要望を受けていたため、他校の生徒と共にグループを作り、いくつかのミッションをワークシートにまとめて行いました。
そのミッションは、彫刻のシルエットクイズや、作品と同じポーズで写真を撮ってくるといったような、ゲーム感覚のものです。しかし、初めてグループになった人と会話をしながら園内を回り、普段は気に留めない作品にも触れるきっかけを作ることで、作品への理解が深まります。同じポーズを取るのは意外と難しく、実際にやってみるととても盛り上がりました。

彫刻の場所を地図で確認する参加者

ミッションの一つ、シルエットクイズ

彫刻と同じポーズを取り、写真を撮るミッション
【彫刻散歩から広がる世界】
「彫刻散歩」のお話、いかがだったでしょうか。かつて屋外に彫刻が次々と設置された時期、作品を街中や公園に飾ることで文化的なまちづくりを目指していました。今は新しい作品が設置される地域は少ないかもしれません。しかし今は、それらをどう活用するか考えられる時代となりました。皆さんが公園を散歩する中で作品に出合い、感性を刺激されることを願います。お気に入りや推しの作品などがあると、冬の散歩も楽しみになりますね。
◎公園でのアート活動、アイデア、ご相談などありましたらお気軽にお問い合わせください。
群馬県立女子大学文学部美学美術史学科 准教授
アートフェスタ実行委員会 代表 奥西麻由子
(2026年2月掲載)
※ビエンナーレ(biennale)は、2年に1回開かれる美術展覧会のこと
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