
~地域文化を育むひたち海浜公園~2025年(後編)
地域文化を育むひたち海浜公園――私たちの活動が生み出す「もう一つの居場所」の価値
【第2回】市民が育てる公園へ――洞峰公園の事例から
■つくば市「洞峰公園」を襲った危機
講演の後半では、視点を変え、つくば市にある「洞峰公園」の事例が紹介されました。洞峰公園はつくば市中心部の緑豊かな都市公園で、市内唯一の総合公園です。体育館やランニングコース、大きな池などもあり、地域住民の憩いの場となっています。長年にわたり大勢に親しまれてきたこの公園は数年前、民間活力を導入する「Park-PFI(パークPFI)」制度により、グランピング施設の建設や大規模な樹木伐採が計画され、その存続が危機に瀕しました(※Park-PFI=公共施設を民間の資金やノウハウで整備・運営する制度)。
この計画に対し、市民から大きな反対の声が上がり、署名活動などが活発化。最終的に計画は白紙となり、公園は県から市へ無償譲渡され、市民が主体となって運営に関わる道が開かれました。
■市民の手で未来を創る「ふれあいフェスタ」
この出来事をきっかけに、「自分たちの公園は自分たちで守り育てる」という機運が高まり、協議会が設立。2025年6月15日には、協議会の設立を市民に広く知らせるための「洞峰公園ふれあいフェスタ」が開催されました。

市民の手で企画・運営された「洞峰公園ふれあいフェスタ」のチラシ
自然観察会やスポーツ体験など、多様な催しを通じて、洞峰公園は単なる憩いの場から、地域コミュニティの核となる「生きたサードプレイス」へと進化を遂げたのです。
■あなたが「自分の公園だ」と感じる瞬間は?
洞峰公園の事例を踏まえ、藤田教授は再びひたち海浜公園のボランティアの皆さんに問いかけました。「あなたが、この公園を『自分の居場所だ』と感じるのはどんな瞬間ですか?」
【会場から寄せられた主なご意見】
- 来園者に園内のことを尋ねられたとき
- 休園日に活動しているという「特別感」
- 自分が手入れした植物が花をつけ、成長したとき
- 保全した場所を来園者から「きれいになった」と褒められたとき
- 市だけでなく県や国、世界の財産として誇りを持って関われるとき
- 県外の友人から公園のニュースを聞き、誇らしく感じたとき
一つひとつの答えから、活動への誇りと公園への深い愛着が伝わってきます。来園者への説明や案内、自分の活動成果を実感できるときに「自分の居場所」として感じる方が多いようです。また、特別な時間や景色の中で、自分だけの時間を持てる瞬間も大切ですね。「ルールを守れば自由」という回答には、公園の自主性や信頼関係が表れていると思います。また、公園が社会的・国際的財産であるという自覚を持って活動されている方もいらっしゃいます。
こうした答えから、一人ひとりが「自分だけの瞬間」を大事にしていることが分かります。その視点こそが、公園を単なる場所から、コミュニティを醸成する「生きたサードプレイス」へと進化させる力になっています。
結論:私たちの活動が「公園文化」を育む
■公園が持つ「3つの価値」の好循環
藤田教授は、ひたち海浜公園の価値を「景観・環境」「レクリエーション」「コミュニティ」の3つに整理。これらが互いに影響し合い、スパイラル状に発展していくことこそが、公園の多面的な魅力の源泉であると解説しました。
1.景観・環境としての価値
まずは豊かな緑地や素晴らしい景観など、環境としての価値です。これはすべての公園に共通する魅力で、開放的な空間や自然の美しさが人々を惹きつけています。ただし、この景観や環境は「何もしなくてもそこにあるもの」ではありません。そこに携わる職員さん、パークパートナーの皆さん、一人ひとりの努力によって維持・発展しているものです。活動を通して「自分の公園だ」と感じる瞬間を持てるのは、こうした日々の取り組みがあってこそです。
2.レクリエーションとしての価値
次にレクリエーションの価値があります。公園があることで、四季折々の花や風景を楽しんだり、運動や散歩、家族や友人と交流したり…日常に彩りを与える場所になっています。ただ、この価値は「景観や環境」が整っているからこそこそ生まれるものです。つまり1つ目の価値があってこそ、2つ目の価値が活きてきます。
3.コミュニティとしての価値
三つ目はコミュニティとしての価値です。人がつながり、交流する場としての公園の役割もとても重要です。来園者同士や活動の仲間とのつながりが、園の魅力を高めています。また、「人と自然」「人と生き物」との関わりを深める場でもあります。景観・環境、レクリエーション、コミュニティが循環し、スパイラル状に発展していく…これこそが国営ひたち海浜公園の多面的な魅力です。

3つの価値が循環し、公園の魅力は発展していく
■ボランティア活動が生み出す、かけがえのない財産
そして、この好循環の中心にあるのが、ボランティアの皆さんの活動です。それは単なる作業ではなく、多くの学びや喜び、発見に満ちています。
「皆さんの活動は、人と自然、人と人とを繋ぎ、ひたち海浜公園ならではの『文化』を創造しています。これは地域にとって、かけがえのない財産です」と藤田教授は強調します。
■私たちの活動は「地域の宝」
最後のワークショップでは、「パークパートナーの活動が、地域にどのような『宝』を生み出しているか」を考えました。
【会場から寄せられた主なご意見】
- ふるさとの魅力を皆で支え、残していく場所
- 茨城の素直さや素朴さを感じられる場所
- 地域や世代を超えた交流の学びの場
- 人と人だけでなく、人と自然をつなぐ場所
- 自然の素晴らしさを理解し、多くの人に伝える場所
- これまで気づかなかった自然の魅力を来園者に伝えられる場所
- 自慢できる、誇りに思える場所
- 希少な植物を守り増やすことで付加価値を生み出している
- 市民の心に自然保護の意識を醸成できる、生物多様性を守る場
- 自然と生き物、そしてそれを守る人との共存を世界に発信できる場所
- 公園と地域の魅力を高めている
これらの意見は、ボランティア活動が持つ多面的な価値と、参加者自身がその創造者であることを改めて浮き彫りにしました。
公園はふるさとや地域の良さ、伝統を体現し、未来へと次世代に受け継ぐ活動の場となっています。通常なら出会う機会のないさまざまな人々が、共通の目的のもとに協働できるのは公園の大きな価値です。また、誇りに思える場所として育てていけるのも、サードプレイスならではの役割であり、ボランティア活動の最大の恩恵です。
生きものや自然を守る、発信するという声も多く、公園の「文化」としての価値がさらに高まっていることが分かります。
参加者の意見から、パークパートナーの活動には多面的な価値があり、その活動に関わる皆さん自身がその創造者であることが再認識できます。これからも地域文化を育み、国営ひたち海浜公園を象徴的な場所として育てていく活動を続けていくことが期待されます。
■公園を、もう一つの居場所に
最後に藤田教授は、「これからも、皆さんの活動を通じて、ひたち海浜公園が地域文化を豊かに育むサードプレイス、地域を象徴する公園へと成長していくことを期待しています」と述べ、講演を締めくくりました。「公園をもうひとつの居場所に」というメッセージには、国営ひたち海浜公園がこれから先も、誰もがいつでも気軽に訪れ、自分の居場所だと感じられる公園であり続けてほしいという願いが込められていました。
これからも、パークパートナーの活動を通じて、国営ひたち海浜公園が地域文化を豊かに育むサードプレイス、地域を象徴する公園へと成長していくことが期待されます。

熱心に耳を傾ける参加者の皆さん。講演は終始、和やかで真剣な雰囲気に包まれた
(2025年9月掲載)
- 公園文化の集い in 国営ひたち海浜公園 環境シンポジウム
~地域文化を育むひたち海浜公園~2025年(後編) - 公園文化の集い in 国営ひたち海浜公園 環境シンポジウム
~地域文化を育むひたち海浜公園~2025年(前編) - 公園文化の集い in 武蔵丘陵森林公園「牧野富太郎と都市緑化植物園」2023年
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