
公益財団法人埼玉県公園緑地協会
埼玉県こども動物自然公園
皆さんは「クワイエットデー」という言葉を知っていますか?クワイエットデーは、「クワイエットアワー」というイギリスで始まった取り組みからきています。この取り組みは、感覚過敏により外出にストレスを感じる人たちに配慮して、特定の日時に施設の館内放送を止めることや、照明を通常より暗くすることで環境を整えるものです。

埼玉県こども動物自然公園
■埼玉県こども動物自然公園について
埼玉県こども動物自然公園(以下「動物園」という)は、比企丘陵の自然に囲まれた東京ドーム約10個分という広大な敷地の動物園です。約150種類もの動物を飼育しており、キリン、ペンギンやコアラなど人気の動物だけでなく、日本ではここでしか見ることができない小型のカンガルー、クオッカにも出会うことができます。展示では、動物たちを間近で観察できる仕掛けが施されており、乗馬や乳しぼりなどの体験プログラムも充実しています。
スタンプラリーを楽しみながら動物について楽しく学ぶズーオリエンテーリングや夏休みの宿題お助け隊など動物について子供たちが学ぶ機会をサポートする様々なイベントも実施しています(詳細はこちら)。
■クワイエットデー導入の背景
クワイエットデーは2023年(2022年度)に埼玉県障害者福祉推進課より動物園へ開催について相談があったことから始まりました。当時当園では、障害を持つお子さんのご家族を動物園に招待する「ドリームナイトアットザズー」の開催にむけて準備を進めていたところでしたので、この活動に賛同し企画を始め、約3カ月後に1回目の「クワイエットデー」を開催しました。その後も活動を続け、2023年度には2回、2024年度には6回のクワイエットデーを実施しました。園内放送やメガホンや音響を使用したイベントを止め、安心して楽しい時間を過ごしてもらうことを目的に実施しました。感覚過敏について多くの人に理解してもらうため、休園日に特別開催するのではなく、通常の開園日にクワイエットデーを設けることにしました。

2024年度チラシ
■クワイエットデー取り組み
クワイエットデーでは、①園内放送を停止、②室内施設照明の調整、③カームダウンスペース(一人で落ち着ける場所)の設置、④大きな音が出る場所や照明の明暗が激しい場所にお知らせ看板の設置を行っています。さらに、お知らせ看板の設置場所とカームダウンスペースの案内が反映させた地図(園内MAP)を作成することで、感覚過敏の方々が動物園をより安心して楽しめるよう配慮しています。

クワイエットデー MAP

クワイエットデー 開催時の様子

お知らせ看板 設置

カームダウンスペースの設置

使用停止となる屋内ゲームコーナー
■クワイエットデー導入後の反響
クワイエットデー導入後、動物園を訪れた感覚過敏の方から多くの良いご意見をいただきました。また、「ここが気になる」といった改善点も教えていただき、私たちにとっても大いに学びのある経験となりました。感覚過敏でない方にもクワイエットデーについて広く周知でき、取り組みに賛同してくださる声もいただきました。さらに、動物に対しても良い取り組みだと思う、もっと頻繁に開催してもいいと思う、などの声もいただきました。
普段よりも照明を落としたり、来園者のみなさまにも静かにお過ごしいただくようご配慮いただくことで、動物の動きも活発になったり、またはリラックスしたりできているのではないかと感じます。来園者だけでなく動物にも優しい取り組みになっています。そのほか「普段多くの音に囲まれて生活をしていることに気がついた」、「動物の声が聞きやすかった」など想定していなかった感想もいただき、動物や動物園の魅力を伝えることにも効果があることを感じました。
一方で、緊急時の園内放送の運用には問題もありました。具体的には、いかなる状況を「緊急時」とするべきかについて職員間で混乱が生じることがあったのです。今後は無線での連絡などを活用しながら臨機応変に対応できればと思います。
■今後の方針、チャレンジしたいこと
クワイエットデーを実施した後のアンケートから、人それぞれで配慮すべき刺激やその程度が異なることを強く実感しました。動物園では突発的な動物の鳴き声や、動物のにおいなどもあります。本来そういった刺激は動物園ならではの楽しみとして感じてほしい点です。クワイエットデーの取り組みで静かにすることだけではなく、どの場所で何の刺激があるかを事前に詳細に知らせることで、感覚過敏の方が自分自身で訪れる場所を選べるようにし、より安心して楽しめるエリアを増やすことができるのではないかと考えています。今後も来園者の皆様からのご意見を参考にしつつ、改善しながらより良いものにしていきたいと思います。また、取り組みに対して反響があったのはたしかですが、認知度はまだまだ低いため、取り組みを続けていく中で広報にも力を入れていきたいです。
また“こども動物自然公園”という名前のとおり、かねてより子どもの目線に立った目線での管理・企画・運営を行っています。子どもたちは動物園で感じた驚きや感動、楽しさを、走り回ったり歌ったり、動物の真似をしたりと自由に表現します。これも動物園での楽しみの1つと思います。そのため、動物園を賑やかに楽しむ子どもたちの過ごし方とクワイエットデーの取り組みは、利用が全く異なりバランスを取ることが難しい側面があります。特にイベントの多い土日祝日や遠足など団体でのご利用が多い場合は園内もたいへんにぎやかになるためクワイエットデーの開催とあわせることは好ましくありません。クワイエットデーの開催回数や運営について、そしてどのようにすれば誰もが安心して楽しめる空間を提供できるかなど、これからも検討し続けたいと思います。
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※文中に出てくる所属、肩書、情報などは、取材当時のものです。画像無断転載厳禁。(2025年6月掲載)
