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第9回 トンボの魅力を子供たちに伝える

公園をより楽しく、有効につかっていただくために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けいたします。

◆第9回は西岡公園(札幌市豊平区)で活動している「西岡ヤンマ団」団長の平塚和弘さんへのインタビューです。西岡ヤンマ団は、西岡公園でトンボの調査・研究活動に取り組む団体で、メンバーは小学生です。北海道トンボ研究会の事務局長でもある平塚さんは、団員から「トンボのおじさん」の愛称で親しまれ、トンボの魅力から園内の自然や生き物の大切さを子供たちに伝えています。

北海道有数のトンボの生息地

西岡公園は、通称「西岡水源池」として市民に親しまれ、札幌市内にありながら豊かな森に囲まれた池と湿原を持つ自然環境に恵まれた公園です。もとは1909年(明治42年)に、旧陸軍の水道施設として月寒川(つきさむがわ)をせき止めて水源池が作られました。その後、市民の水源としての役目を終え、公園として整備されました。

総面積約41万㎡の中に水源池(73,500㎡)を貫いて月寒川が流れ、その上流の湿地帯、下流の流水域の中心に位置する水源池には、多様な動植物が生息しています。特にトンボと野鳥は、多くの生息が確認されていて、道内でも有数の生息地です。

私は子供の頃から昆虫が大好きでした。とくにトンボが網の中に入った時の感動は未だに忘れられません。学生になってからも昆虫への思いは変わらず、高校時代は生物部への入部をきっかけに、トンボ研究の道に進みました。大学で恩師となる(トンボを研究する)先生に出会うこともできました。大学卒業後、札幌市の中学教諭(理科)となり、市内の西岡公園に通い詰めるようになりました。以来約30年間、園内に生息するトンボを観察してきました。当時、北海道では稀少とされていたオオヤマトンボをはじめ、何種かの希少種の生息を確認しました。85年に道内初のコシボソヤンマを確認した翌年(86年)に「北海道トンボ研究会」が発足し、以後も西岡公園でのトンボの調査を続け、研究会などで発表を続けてきました。西岡公園でのトンボの記録種数は、2013年で50種を超えました。

西岡ヤンマ団(以下、ヤンマ団)は、西岡公園管理事務所(以下、管理事務所)の呼びかけで2007年に発足しました。その内容は、トンボに興味を持つ小学生を対象とした調査・研究活動です。私はヤンマ団の前身である園のイベント「トンボの標本づくり講座」で、講師を務めていました。それ以前からも、トンボを採りに来る多くの子供たちにトンボの種類や名前、採り方などを教えていました。いつしか子供たちから「トンボのおじさん」と呼ばれるようになりました。そんななか、管理事務所の職員の方が、①虫好きの子供たちがトンボの知識を深め、②子供たちがグループで活動することによって多くのデータが集まり、西岡公園の調査・研究に役立つのではないか、③西岡公園に集う子供たち同士の交流の場が作れないか、などを提案、ヤンマ団が結成されました。管理事務所からの依頼を受け、北海道トンボ研究会の横山透会長とともに、子供たちに指導を続けています。

活動を通して、より多くのかかわりを経験する子供たち

ヤンマ団は公募で集まった小学生が、5月から翌年の3月まで活動をします。年会費は3,000円、その他標本箱代や調査員帽子代といった経費が必要となります。小学生が対象なので誰でも参加できるよう、なるべくお金をかけない工夫をしています。

5月に入団式と保護者説明会を行います。団員一人ずつ自己紹介をしてもらい、トンボを収める標本箱を手渡します。活動日は毎月1回(第2土曜日)。9時半に管理事務所に集合し、グループに分かれてその日の予定を紹介します。各自活動テーマを確認してからトンボ採集です。外でお弁当を食べて午後は標本づくりと調査報告会を行い、午後3時に終了します。冬季の11月からは管理事務所内で、今年採集したトンボの標本整理と、報告会の準備。2月~3月に市内で1年間の成果を発表して終了です。

ヤンマ団はトンボを採るだけではなく、団員それぞれがテーマを決めて、トンボの調査研究を行います。テーマの内容は、「トンボの止まり方について」「モノサシトンボはものさしになるか」「トンボの顔について」など自由です。活動で最も大切なことは、「楽しんで取り組む」ことです。楽しんで取り組んだ結果、ヤンマ団の採集記録につながればいいと思っています。

毎年、公募で1年生から6年生までの小学生が15人前後集まります。小学生は何でも吸収する時期なので、トンボの名前から標本作りまで、驚くほどの早さで覚えて実践します。ベテラン団員になると希少種のトンボの名前や特徴を憶え、場所や時期を狙って追いかけます。女の子や低学年の団員は、最初は怖がっていた標本作りも1年も経過すると手慣れた様子で取り組んでいます。

先輩が後輩を指導したり、頼もしい先輩のやり方を見て、後輩たちが真似て覚える姿が見られるなど、学校では学べない貴重な活動だと思います。

活動の場は、西岡公園以外にもあります。
年に1回、遠征調査に出掛けます。遠征の目的は西岡公園以外の環境に生息するトンボの調査です。場所の選定には毎回苦労しますが、遠足のような雰囲気に子供たちも大喜びです。遠征先の地域との折衝は管理事務所が担当します。

今年は「コカ・コーラ環境教育賞活動表彰部門*1」に応募したご縁で、公益財団法人コカ・コーラ教育・環境財団などが運営している夕張郡栗山町ハサンベツ里山地区に遠征に行き、ヤゴと成虫の調査を行いました。

9月には、西岡公園の魅力を伝えることを目的に、管理事務所とボランティアグループ「ニハルクラブ*2」の主催で、札幌駅と大通公園をつなぐ地下歩行空間「チ・カ・ホ」で「西岡水源池inチカホ」という発信イベントを開催しました。このイベントでは、西岡公園内で活動する「西岡さかな組(以下、さかな組)」と共同で、同じくパネルや標本などを展示して、活動を紹介しました。展示には、保護者やボランティアの皆さんにも協力してもらいますが、団員が自ら進んで来場者にトンボの説明や調査内容を紹介しました。小学生とは思えないほど、みんな立派に説明していました。

そして2月(円山動物園内を予定)と3月(さけ科学館を予定)にはこれまで採集したトンボの研究報告展を行います。これまでの活動の集大成を人前で発表する場となります。

ヤンマ団の子供たちは、トンボの調査・研究や標本作りを憶えるだけでなく、地域とのかかわり、団員とのコミュニケーション、私や管理事務所スタッフといった大人とのかかわり、西岡公園の自然とのかかわりなど、活動を通して多くの経験を学びます。


*1「コカ・コーラ環境教育賞活動表彰部門」では、地域に根ざした小学生の環境教育活動が評価され、ヤンマ団は優秀賞を受賞しました。
*2ニハルクラブは、ヤンマ団とさかな組の保護者と有志(卒団生や地域の方等)によるボランティアグループです。ニハルとは、アイヌの言葉で「宿り木」の意味です。

親とボランティアの協力が不可欠

ヤンマ団は子供だけの活動ではなく、親御さんにもサポートをお願いしています。団員の親御さんが必ずしも昆虫好きとは限りませんが、親御さんの理解やサポートがないと子供は活動できないので、親御さんにはニハルクラブに必ず参加いただき、年に1回はサポートしていただくようお願いしています。

2012年にニハルクラブを結成してからは、はじめは付き添いだけだったお母さんがトンボに魅了されてしまい、子供の先を走り回っていたり、昆虫好きのお父さんが一緒にトンボを採る姿が多くみられるようになりました。トンボは意外に大人もハマるんです。

ヤンマ団は小学生の活動ですが、長く活動に関わってほしいという思いから、中学生になったらニハルクラブに入り、活動をサポートしてもらっています。今ではヤンマ団の初代の団員は大学生になりました。中学生になると忙しくて一度はヤンマ団から離れた子供たちも、高校生や大学生になると、また活動に関わってくれることもあります。子供たちにとって、また関わりたいと思える活動であるといいなと思います。

市民によって守られた公園の自然

西岡公園は、都市公園の総合公園に分類されていましたが、2008年に貴重な自然環境を保全するために、特殊公園(風致)という、良好な自然環境を保全する公園に種別変更されました。

私がトンボ観察のために西岡公園に通い詰めていた1984年、ボート乗り場の建設が持ち上がりました。さらにはパークゴルフ場の建設計画も出ました。このとき西岡公園で自然保護活動を続けてきた「西岡公園の自然を残す会」が立ち上がって計画反対を訴えました。私も貴重なトンボの生息地を守りたい思いから「北海道トンボ研究会」のメンバーとして「日本野鳥の会・札幌支部」と共に市に提言し、陳情しました。近隣住民やさまざま組織による反対活動によって、計画は白紙となりました。

当時、市民やさまざまな団体から反対意見があがったことから、2000(平成12)年に、西岡公園の維持管理について行政と指定管理者、市民が話し合う場「西岡自然パネル」が発足しました。管理事務所では、現在もパネル会議を定期的に開催し、西岡公園の管理・運営・自然保全に関する話し合いを行っています。会議の運営は指定管理者である(公財)札幌市公園緑化協会が担い、行政やボランティア団体、近隣住民、自然観察団体、ヤンマ団員の親御さんも参加できる開かれた場です。議題によっては、湿原調査の専門家にも参加してもらい、西岡公園の自然保護という観点で活発な意見交換が行われています。これからの課題は、湿原の環境の維持に重点が置かれるようになると思います。

30年前と現在の変化

私が西岡公園でトンボの観察を始めてから30年以上が経過しました。風致公園として自然環境が守られてきたのですが、逆に手つかずの状態にしたことで、環境が大きく変わってしまいました。一番大きく変わったところは、園内の見晴らし、植物繁茂と解放水面の減少です。

昔、木道の奥にある見晴台からは水源池を眺めることができましたが、今では池の確認すら難しいほど草が生い茂っています。川に並行して木道を設置したことにより、木道の下に月寒川の流れが集中し、周辺が乾燥してしまいました。また、湿原には小さな解放水面があり、ヨツボシトンボがこのエリアを縄張りとしていましたが、現在では草が生い茂り、ヨツボシトンボが見られなくなりました。更に、台風による倒木で日光が差すようになり、植物が繁茂して解放水面が小さくなり、オオアオイトトンボが見られなくなった場所もあります。園内の管理は「西岡自然パネル」に諮り、繁茂したヤナギの伐採や川の流路を変えるなど、取り組んでいますが、いろいろな意見が出ますので、一つのことを決定するまでには膨大な時間が掛かっている状況です。

自然は手を加えずそのままにという考え方がありますが、水を中心とした生態系が特徴である西岡水源池の環境を維持し、価値を向上させるためにも、人の手を入れる時期にきていると私は感じています。30年前と比べて園内の環境は大きく変化してしまいましたが、意外にも昔出会えなかったサラヤンマが、ヤンマ団による調査で少しずつ確認されるようになってきました。課題は多くありますが、「すべてが悪くなった」とは言えないと思っています。

課題に対して、共に考え、行動してくれる管理事務所

管理事務所とは、トンボ標本づくり講座の時代から信頼関係が築けており、ヤンマ団の活動を含めると長いお付き合いになります。昔から園内の要望や意見などについては、管理事務所のスタッフの皆さんが共に考え、行動してもらえるのでとても有難いと感じています。

私は子供時代に生き物に触れる経験は必要だと思っています。管理事務所も同じように考え、子供を育む気持ちを持っているからこそヤンマ団結成の実現にもつながったと思っています。「生き物を捕まえることはいけないこと」と考える世の中の流れはありますが、今後、子供時代に生き物に触れる経験の大切さが再認識され、様々な場所で子供たちがトンボを採集できる環境になることを願っています。

ヤンマ団が結成されて来年(2016年)で10周年を迎えます。団員が記録し蓄積された膨大なデータを使って「西岡公園のトンボの季節消長(季節ごとにトンボの出現の多少を示した図など(図:トンボの季節消長(イメージ)参照))」が作れないか検討中です。

これまで多くの子供たちが捕虫網を持って、無我夢中でトンボを追いかける姿を見てきました。トンボを追いかけることによって、季節や環境、場所によって見つけられる種がちがうということを学びます。クワガタやカブトムシは見つけたらもう捕まえたようなものですが、トンボは見つけても捕まえられるとは限りません。私はトンボを見つけて追いかけるということに、ロマンを感じます。ヤンマ団を卒業した子供たちの中から、生物の面白さを勉強して、未来のトンボ博士がでてきてほしいと、期待しています。


※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。2015年11月掲載

■関連サイト・関連情報
西岡公園 http://www.sapporo-park.or.jp/nishioka/
西岡ヤンマ団 http://www.sapporo-park.or.jp/nishioka/?cat=8
北海道トンボ研究会 https://sites.google.com/site/hokodonsoc/
日本トンボ学会 http://www.odonata.ne.jp/

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過去記事一覧
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続
01 自然環境は、利用しながら保全する


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