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第13回 わらアートで、地域に笑顔と一体感を


公園をより楽しく、有効につかってもらうために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。

◆第13回は、武蔵野美術大学基礎デザイン学科教授の宮島慎吾氏のインタビューです。
新潟市西蒲区(にしかんく)の上堰潟(うわせきがた)公園では毎年夏に、武蔵野美術大学(東京都小平市)の学生らが、わらを使った巨大なわらアートを制作・展示するイベント「わらアートまつり」が開催されています。コシヒカリの里としても有名な西蒲区で、稲わらを使ったわらアート作品によって、公園に多くの人が集まり、地域に活気をもたらしています。わらアートを発案した宮島教授に、公園でわらアートをはじめた経緯とこれまでの活動についてお話をうかがいました。

材料は稲わらを「とば編み(わら編み)」した「とば」

わらアートとは、角材で骨格を作り、稲わらを編み込んだとばを取り付けた造形物です。題材は主に恐竜やイノシシ、ゴリラなどの動物などで、高さ7m、全長8mの巨大な作品となることもあります。初めて見る人はその圧倒的な大きさと自然の風景にマッチしたアート作品に、驚きと感動を覚えます。何よりもお米を収穫して出る副産物が利用できるところが特徴です。

わらアートのきっかけは「何か新しいイベントが無いでしょうか?」という西蒲区役所の方との会話から始まり、「でしたらコシヒカリのコメを収穫した後の『わら』を活用して造形物を作るイベントはどうでしょう?」となり、わらアートが始まりました。

わらアートが誕生する前の話になりますが、平成15年に武蔵野美術大学は、交流があった西蒲区の岩室地区(当時は岩室村)の町づくりに取り組みました。

岩室温泉街の再生と活性化を目的に、学生が岩室という景観や土地に相応しいアート作品を制作して旅館や飲食店などに展示。岩室の町をまるごと美術館にするイベント「アートサイト岩室温泉」を、平成15年から2年に1回のペースで開催しています。このイベントの成果もあって岩室温泉街は活気づきました。また、学生にとっては貴重な実践授業となりました。

私は、稲わらを使ったアートを創ることを考えましたが、やり方は、地元西蒲区の農家の方々に教えていただきながら考えていきました。地元西蒲区の農家の方々と話をする中で、「俵編み」や「とば編み」といった伝統的なわら編みがあることを教えてもらい、それらをうまく利用して作ることに決めました。

貴重な戦力「かっぽうぎ隊」のおばさんたち

「とば」とは、稲わらの束を一つずつ編んでいき、幅50㎝、長さ5mほどのシート状にしたものです。わらアートを作るには、たくさんの「とば」が必要になります。

現在、「わらアートまつり」で5~6作品制作するために使用するわらの量は、田んぼ40アール(4,000㎡)分。収穫した稲わらを、区内の倉庫で約半年間保管。それを使って岩室地区の農家のおばさんたち、通称「かっぽうぎ隊」に「とば」作りを依頼します。平均年齢70歳の「かっぽうぎ隊」のおばさんたちは、制作が始まる8月末頃までに約180個のとばを作ります。

とば編みは、初心者でも教えてもらえばできないこともありませんが、やはりベテランの技術にはかないません。「とば」作りは地味で根気がいる作業です。「かっぽうぎ隊」のおばさんたちが編んでくれる「とば」があってこそのわらアート作品なのです。

平成18年度に岩室温泉観光協会主催で、初めての作品(ピースサイン、落ち葉、額縁)が旧岩室村の夏井地区に展示されました。そして平成20年11月、西蒲区役所主催で、第1回「わらアートまつり」が開催されました。会場は西蒲区の成り立ちである5つの地区(巻・西川・潟東・岩室・中之口)にわらアート5体(カタツムリ、キノコ、カモ、羽黒山、米の精)をそれぞれ1体ずつ展示しました。ところが5つの作品が5地区に散らばった展示だったため、観賞のしづらさや管理の難しさなどから、次年度以降は、上堰潟公園で開催することに決まりました。

学生が、わらアートを通じて人と地域に関わる

「わらアートまつり」は、毎年学内で募集をした約40人(移動用のバス1台分が定員数)の学生が制作をします。今でこそ40人が集まりますが、当初は学生が集まらず「温泉に入れる」とか「新潟のおいしいお米が食べられる」などの誘い文句で学生を集めたものです。その後、学内に貼られる募集ポスターや経験者の口コミに加え、わらアートがメディアに取り上げられたりして徐々にわらアートの認知度が上がり、最近では参加希望者が定員超えするほどになりました。

活動動機は温泉やおいしいご飯など、つい大人は考えがちですが、デザインを志す学生は皆まじめで純粋です。大きな作品を制作できること、西蒲区役所の皆さんや農家のおばさんたちとの心温かな交流などに魅力を感じているようです。

大学側では、「アートサイト岩室温泉」での活動実績も含め、デザインによる地域再生の効果を出したことから、学外の授業は学生にとって大変意義のあるものと評価しています。よいデザインを生み出すためにも、学生には社会とつながりを持ち、多くの人と関わってほしいと思っています。28年度から「わらアート」は、産学共同プロジェクトの学科科目として、単位化(2単位)が決まりました。

「わらアートまつり」スタート当初は、私がいろいろ指導してきましたが、今では学生中心の活動です。学生は基礎デザイン学科が中心ですが、油絵学科など他の学科の学生も参加可能です。私はさまざまな調整と学生が迷っている時に助言するくらいで、活動の中心となるのは3~4人の代表者です。

代表者は、前年の「わらアート」制作に参加した学生です。「わらアートまつり」開催前日の宴会後に次の年の代表者を決めるのが恒例となりました。立候補者がいない場合は、指名によって決まります。まさに盛り上がっている時に次の代表者を決めることで、自覚と責任、リーダーとしての資質が養われるように思います。

このような体制が定着し、回を重ねるごとにわらアート作品の内容も充実してきました。

共同制作者のウチヤマ看板の内山さん

「わらアートまつり」は、毎年4月にメンバーを募集して、グループ分けをします。5月には各グループが制作する作品を決め、作品のスケッチを描き、模型を作ってイメージを具現化させます。この模型を作ることによって、作品の寸法が分かり、「とば」の必要数を割り出します。

6月は代表者を連れて上堰潟公園に行きます。展示会場となる公園の下見と、西蒲区役所の担当者、共同制作者であるウチヤマ看板の内山清二郎さんらと細かな打ち合わせを行います。

西蒲区内で看板製造を営む内山さんは、2回目の「わらアートまつり」から、骨組みの作成を担当しています。内山さんは学生が描いたスケッチを基に角材を使い、わらアートが作りやすいようアレンジして組み立ててくれます。内山さんの熟練の技術で作られる骨組みは、すでにアートと言えるほどの作品です。

「わらアートまつり」は2日間の開催ですが、終了後もわらアートはそのまま上堰潟公園で2カ月間展示されます。内山さんには、展示期間中の管理やメンテナンスもお願いしているので、「わらアートまつり」には欠かせない人です。

子供から大人まで大喜びのわらアート

大学側は、「わらアートまつり」開催1週間前に現地に入ります。出来上がっている骨組みに、塩ビパイプを使って形を作り、その上にとばを取り付けます。風雨に飛ばされないよう、木材と塩ビパイプにしっかりひもで結びます。作業日数は7日間、時間は朝8時半から夕方5時半まで作業します。

西蒲区役所では、地域交流を目的に「制作サポーター」も募集しています。賛同してくれた地域の人や地元大学生も制作に加わってもらいます。「わらアートまつり」では、わらアートを通じて地域住民との交流も大切にしています。

2日間の「わらアートまつり」には、地区を超えた大勢の来場者があります。初めてわらアートを見た人は、子供から大人まで「わぁ、大きい」と感動してくれます。特に子供は巨大なゴリラや恐竜の足元に入って大喜びです。時にはやんちゃな子供が作品に乗ろうとしたり叩いたりしますが、特に注意書きは設置せず自由に振る舞ってもらいます。来場した人たちには、わらアートを見るだけでなく実際にわらに触ってもらいたいと思っています。

わらアートは風雨に弱く、約2週間でわらが抜けたりして形が崩れてしまいますが、メンテナンスをすることによって約2カ月間の展示が可能です。展示期間中は西蒲区役所の担当者と内山さんが日々点検し、補修してくれるおかげで長期間、観賞することができるのです。

わらアート作品を作り始めたころは、作品のクジラの尾が崩れたり、マンモスが倒れてしまったことがありました。試行錯誤を繰り返して骨組みや設置の仕方の改良を重ねて頑丈なわらアート作品が作られるようになりました。

「わらアートまつり」展示終了後、作品を解体した稲わらは、西蒲区のイチジク農家が「敷きわら」として再利用しています。稲わらの再利用の流れは、地域の農業の活性化にも役立っていると思います。

全国に広がるわらアート

上堰潟公園で開催される「わらアートまつり」の様子がホームページやFacebookなどによって、西蒲区の成功例として知られるようになると「わが町でもわらアートを」と全国の自治体から依頼を受けるようになりました。新潟市で誕生したわらアートは、現在では北海道から九州までに広がっています。

わらアートは、稲わらの確保、展示するスペース、駐車場やトイレ、休憩する場所の有無など、最低限の条件をクリアすれば実施は可能です。また、「とば編み」の代わりに稲わらを麻ひもで束ねたり、型(フレーム)にひもを通して「とば」のようなものを作るなど代替案を考え、その地域にあったわらアートの制作法や展示の仕方についてアドバイスしています。

稲わらを再利用してできるわらアートは、米を作っている土地であれば無理なくできます。そして制作にかかわった人は達成感が得られ、完成後はニュース性がありますので、地域に一体感をもたらすきっかけになると確信しています。

以下は新潟市西蒲区以外で依頼を受けて制作されたわらアートの一例です。
◆香川県「瀬戸内国際芸術祭」での展示(武蔵野美大の学生が制作)
◆東日本大震災の被災農地の地域活性として、仙台市若林区の田んぼにマンモスと恐竜トリケラトプスを制作。(仙台市の鉄道会社から依頼を受けて作り方を指導)
◆宮城県岩沼市の「千年希望の丘*植樹祭」で巨大ゴリラを制作。(武蔵野美大の学生と市民ボランティアで制作)
*クロマツの防潮林があった海岸線一帯に、震災により発生したガレキ(再生資材)を利用して丘を築造。「千年希望の丘」は、先進的な復興モデル実現の場となっている。
◆埼玉県行田市でギネス認定された「世界一大きい田んぼアート」の稲わらを利用して「古代蓮の里」で「わらアートまつり」を開催。武蔵野美大の学生、市民、市職員らが作品づくりに参加。
◆愛媛県今治市鈍川地区の農業者らがつくる「鈍川地区都市農村共生・対流協議会」から依頼を受け、宮島教授が指導を行い、市民が巨大なイノシシを制作。棚田に巨大イノシシが出現したとインターネット上で話題。人口500人に満たない農村に約1万5000人が駆け付けた。鈍川温泉街や食堂などは売り上げが3倍増。同地区の米は「鈍川米」と名付け、ブランド米として販売するなど地域活性の効果を上げた。

西蒲区役所の熱意、上堰潟公園の魅力

「わらアートまつり」では、西蒲区の特産品などを販売する「西蒲市場」、歌や踊りを披露する「わらわらステージ」、スタンプラリーやわら細工体験、過去のわらアート作品や制作風景を写真で紹介する「木陰のギャラリー」などを開催します。西蒲区だけでなく新潟市民が2日間で延べ2万人以上が集まるイベントに発展しました。

他の自治体でも盛り上がりを見せているわらアートですが、西蒲区は、「わらアート発祥の地」というプライドがありますので、「わらアートまつり」に対する意気込みが他の自治体とは違います。「今年はこんな斬新な見せ方をしてはどうか」などのアイデアを出してくれて、打ち合わせは学生とともに白熱します。

「わらアートまつり」の広報ツールとしてFacebookを活用しています。主に学生が制作しているのですが、学生の活動だけではネタ不足になるため、西蒲区役所の方から地元の情報を提供してもらっています。西蒲区からは町や里山の風景写真、特産品や「かっぽうぎ隊」のおばさんたちの笑顔などが届くので、日々更新される活気あるFacebookになっています。

「わらアートまつり」の会場となる上堰潟公園は、散歩やウォーキングに最適な遊歩道(全長2km)、春には桜、水辺にはたくさんの野鳥、家族連れにはバーベキュー施設など、子供からお年寄りまでの市民が憩いの公園として市民に親しまれています。

私はわらアートをきっかけに、毎年西蒲区を訪れていますが、何よりも自然豊かな景観が気に入っています。特に雄大な角田山(かくだやま)と潟は地域の財産だと思います。

西蒲区の素晴らしい風景に溶け込む自然を生かした公園だからこそ、わらアートが引き立つのだと思います。

今年(平成28年)で9回目を迎える「わらアートまつり」は、9月3日(土)、4日(日)に開催されます。学生と市民が力を合わせて制作するわらアート作品をぜひ見に来てください。

■サイト・関連情報
上堰潟公園(新潟市)https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/park/shoukai/area/nishikanku/uwaseki.html
わらアートまつりhttps://www.facebook.com/waraartmatsuri
わらアートJAPANhttp://waraartjapan.com/
武蔵野美術大学http://www.musabi.ac.jp/

※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。2016年7月掲載

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過去記事一覧
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続
01 自然環境は、利用しながら保全する


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