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第11回 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」


公園をより楽しく、有効につかってもらうために、公園との関わりの深い方々への取材を通して、皆さまに役立つ情報をお届けします。

◆第11回は、不要になった本を交換し合って再生させていくプロジェクト「敷島。本の森」の仕組みをつくり、敷島公園(群馬県前橋市)で青空市「ブック・マルシェ」、野外コンサートなどを開催しているフリッツ・アートセンター代表の小見純一さんのインタビューです。毎年5月の連休明けに開催される「ブック・マルシェ」は、本を通じて公園と人と地域を結ぶイベントです。「敷島。本の森」プロジェクトがスタートしたきっかけや、その背景などについてお話をうかがいました。


空洞化が進んだ我が故郷

私は群馬県前橋市の中心商店街で生まれ育ちました。高校卒業後に上京、また度々欧米等の文化や美術を巡る旅をしました。

前橋に帰郷した1982(昭和57)年はバブルに突入する少し前、まさにデジタル化がスタートした時代です。7年ぶりに見る故郷・前橋は、駅前通りや中心商店街の人通りが減ってしまい、街の空洞化が急激に進んでいました。さらに、高校時代まで足しげく通った喫茶店や本屋、映画館などが激減していたことに寂しさを覚えました。

私が子供の頃は、街全体が冒険の場であり、つながり合う場所でもありました。商店街の店主、喫茶店のマスター、映画館の技師さん、銭湯のおばさんといった界隈の人たちが、地域の子供たちを見守り育ててくれました。私が本屋の床で寝てしまうと、商店街の店主らがリレー形式で自宅まで送り届けてくれたものです。ところが、そんな古き良き時代の面影はみられませんでした。そこで、街なかのコミュニティー好きなアートや音楽、映画などの力を生かして失ったものを再生したいと考え、まずは、身近なコミュニティーからと、敷島公園の近くに場所を見つけてカフェを開きました。

カフェ、書店、映画館でコミュニティーを再生

敷島公園のすぐ西側に、カフェ「RITZ(リッツ)」を1985(昭和60)年にオープンしました。カフェでは、飲食以外に展覧会やコンサート、映画の上映会などを開催し、地域の人たちにさまざまな文化や芸術を発信しました。さらにカフェの庭で手作りのパーティーや結婚式を開きました。当時、ガーデンウエディングは新鮮なもので、県外からも大きな話題を集めました。このカフェでプロポーズをすれば「結婚が必ず成就する」という都市伝説が生まれたほどです。

その後、93(平成5)年にもともとの夢だった「フリッツ・アートセンター」をオープンさせます。店内のショップには絵本をメインに、詩集や童話、写真集や美術書など、子供から大人までが楽しめるような幅広いジャンルの本を揃えています。また、ベルギー生まれの人気漫画『タンタンの冒険』のグッズ(国内に3店舗しかないタンタンの公式ショップの1つです)やポストカード、木の玩具なども販売。そして「くまのプーさん」「ディック・ブルーナ」絵本原画展や写真展、現代美術展、演劇やダンス公演、コンサートなどもするギャラリースペースもあります。

「フリッツ・アートセンター」を運営しつつ、1995(平成7)年には、音楽や芸術を通じて、街の活性化に取り組む市民文化団体、「前橋芸術週間」(2009(平成21)年よりNPO法人)を発足しました。街の空洞化を嘆くばかりでなく、アートや文化の力で空間を再生するパフォーマンス活動を行ってきました。銀行やスーパーなどの空きビルを劇場にしたり、旧消防署跡地を美術館にしたり、アーケード内の壁をスクリーンにして映画の上映や演劇、サーカス公演などを次々に企画、実現しました。

そんな中、2009(平成21)年、前橋市内で最後の1館となった映画館が取り壊されるということを知りました。映画館は市民にとって大切な文化の生まれる拠点であり、活性化にもつながっていく場所です。「この場所を何とか残さなければ」と奔走しました。結果、願いが叶い2009年12月に全国でも数少ない名画座映画館「シネマまえばし」として生まれ変わりました(現在は市の所有、映画館としての機能は残っている)。

その中で、これまでの取り組みを通じて、同志と呼べる仲間も増え、また新たなネットワークも広がりました。

捨てられる本を救う

空洞化が進む前橋市内で、カフェとアート・センター/書店を開き、空き店舗や空き地を利用したイベントを数多く行ってきましたが、次は本そのものの再生に取り組むことになります。

2011年頃、家庭からまたは図書館や小中学校の除籍本など、多くの本が捨てられている実態を知りました。本をただ捨てるのは、実にもったいないことです。そこで、捨てられる本を救い、本と出合える場所を作ろうと考えたのが、不要になった本を交換して再利用する「敷島。本の森」プロジェクトです。

このプロジェクトは、敷島公園の近隣にある「フリッツ・アートセンター」や郵便局、喫茶店、美容室など15か所(2016年2月現在)に設置した38㎝四方の手作りの本箱に、一般家庭で読み終えた本や、図書館や学校で廃棄処分になった本の中からきれいな物を選別して本箱に入れて置きます。登録や返却期限はありません。条件は自分が読まなくなった本と交換すること。本箱から自由に好きな本を持ち帰れる仕組みで、2013年5月からスタートしました。毎日、様々な方が立ち寄って自分の持って来た本と交換されていきます。今後、本箱は病院や他の店舗などにも少しずつ設置を増やしていく考えです。

「ブック・マルシェ」で子供たちに本との出合いを

「敷島。本の森」をより多くの人に知ってもらうために、5月の連休明けの週末(2016年は 5月14~15日)、敷島公園の黒松林(上毛新聞敷島球場北)を中心にイベント「敷島。本の森」を開催しています。そのメニューの一つとして、「ブック・マルシェ」(以下、マルシェ)を実施しました。出店する書店や古書店は、前橋市、高崎市以外の県外(軽井沢、東京、横浜、京都、岐阜など)からも参加してくれて、絵本や詩集、古書や洋書など様々なジャンルの本が並びます。はじめは少数の出店を考えていましたが、本と公園に対する同じ志を持つ仲間が徐々に増え、2014年、2015年と回を重ねるうちに約20店になりました。大型書店に行くと同じ本ばかりが目につくと思います。マルシェでは、季節や場所(公園)と人(公園に来るお客さん)を考えて本を選んで持ってきてくれます。マルシェで珍しい絵本や貴重な古書等、探していた本が見つかるかもしれません。

基本的にマルシェでの振る舞いは自由です。お店の人に声を掛けて本を持ち出して公園のベンチで読むのもOK。美味しいコーヒーを飲みながら、お気に入りの本を探したり、木漏れ日の中で読書するなど楽しみ方も人それぞれです。

2日間の「敷島。本の森」イベントでは、本の販売のほか、コーヒーの販売、詩の朗読会や野外上映、コンサートも開催されます。来てくれる人は、子供から大人まで老若男女さまざま。来場者数は2日間で約7000人近くになります。

「敷島。本の森」イベントの最大の目的は、たくさんの本と出合う中で、公園での楽しい思い出を作ってもらうこと。インターネットの世界だけでは、想像力や街への誇りはなかなか養われません。1冊の本を手にしたことから人生が変わることもあります。本と場所との記憶が重なって、そこが特別な場所になっていったりもします。

敷島公園観光連盟と共にPR活動

敷島公園周辺は閑静な住宅街ですが、利根川の洪水を防ぐために植えられた約3000本の松林に囲まれ、公園からは、赤城山・榛名山・妙義山の上毛三山を一望することができる景勝地です。園内には、600種7000本のばら園、郷土の詩人・萩原朔太郎の記念館や詩碑などがあります。春には桜の名所として多くの人たちがお花見を楽しむ憩いの公園です。

敷島公園での思い出はたくさんあります。少年時代は「彼女ができたら初めてのデートは敷島公園でボートに乗る」と決めていたほど、憧れの場所でもありました。7年ぶりに前橋に戻ったとき、街の景色は変わっていましたが、敷島公園は当時の記憶のままでした。私は故郷(前橋市)の誇りでもある敷島公園に恩返しをしていきたい、という気持ちを持って活動を続けています。

敷島公園でのイベントの企画・運営は、2015年から「敷島公園観光連盟」(以下、連盟)とともに取り組んでいます。この連盟の前身は、公園周辺の組合組織の親睦会メンバーで構成されており、現在、公園近辺のホテルや飲食店、ブティックや美容室など約30店舗が加盟しています。

連盟の皆さんも、敷島公園を良くしたい、大事に守っていきたいという同じ考えを持っていますので、協力しあいながら楽しんで取り組んでいます。

5月の「敷島。本の森」イベントに続き、2014年から11月に「敷島。音の森」と題してばら園での音楽家による演奏会を開催しています。当初は野外で行っていた演奏会ですが、雨が降ってきたため、ばら園の温室に逃げ込んだことによって演奏会が実現しました。満開のばらの花の香に包まれた中で聞く音楽は最高です。5月の「敷島。本の森」イベントと11月の「敷島。音の森」は、地域の皆さんが楽しみにされる文化イベントとして現在も成長しています。

指定管理者で変わった敷島公園

敷島公園は、南北で行政の管理が分かれています。「敷島。本の森」イベントを開催する松林やばら園、ボート池などがある北側は前橋市の管理。南側に位置する野球場や陸上競技場など運動公園は群馬県が管理していましたが、*指定管理者制度が導入され、県が管理する南側(県立敷島公園)は、平成24年度から、指定管理者「敷島パークマネジメントJV(代表企業オリエンタル群馬)」(以下、敷島PMJV)が管理しています。

敷島PMJVの出現によって、私の活動は劇的に変化しました。最も大きな点は、管理・運営する人の「顔が見える」ということ。そして共に行動してもらえることです。ともに汗を流すコミュニケーションは大事です。敷島PMJVは県立敷島公園の指定管理者ですが、公園の北側を管理する前橋市と協力して「敷島。本の森」イベントを開催しているため、イベントがスムーズに運ぶよう、アシストしてくれます。敷島PMJV側から私達市民と協力して公園を運営していくための相談や提案を受けたこともありました。

2015年の夏、野球場や競技場で「しきしまナイトスクリーン」と題して野外上映会を実施しました。敷島PMJVがうまく調整役となってくれたおかげで実現したイベントです。野球場での映画上映は、地域の方々に対して、新たな公園利用の提案ができたと思っています。敷島PMJVとは「敷島公園と地域の活性化」という同じ目標がありますので、お互い力を出し合って、公園を中心とした街づくりに取り組んでいきたいと思っています。

指定管理者制度によって公園だけではなく、地域全体の活性化につながるような新しい試みが実現しているので、現在の敷島PMJVには最低10年は指定管理者として管理・運営していただきたいところです。担当者が変わる可能性もありますが、実践してきた志と経験は引き継がれると期待しています。
公園を活性化するには、行政と指定管理者そしてわれわれ民間の3者それぞれが協力しあうことが重要だと感じています。


*指定管理者制度:公共団体等に限られていた公の施設の管理主体を、民間事業者やNPO法人にも開放する制度。民間事業者の活力を活用した住民サービスの向上、施設管理における費用対効果の向上を目指すもの。地方自治法が一部改正(2003(平成15)年)され、制度化された。

未来の子供たちのために、公園での記憶づくり

4回目となる今年(2016年)の「敷島。本の森」イベントは5月14日(土)、15日(日)に開催します。県外からも出店する書店は、今や敷島公園での「敷島。本の森」イベントを楽しみにしているリピーターの常連さんばかりです。

「敷島。本の森」イベントでは、毎回メッセージテーマを発信しています。
今年のテーマは「家族」です。また、「敷島。本の森」イベントには「お弁当を持って」や「公園近くの飲食店で食事を」と呼び掛けます。家族や恋人、友達同士そしてマルシェで知り合った者同士でいっしょに本と食事、コーヒーで楽しいひとときを過ごしてもらいたいと思っています。楽しいという気持ちや笑顔は、たちまち公園中に伝播します。

「フリッツ・アートセンター」や敷島公園内でのさまざまなイベントは、参加してくれる地域の人たちに思い出を残すための活動です。とくに子供たちには、敷島公園の楽しい記憶をたくさん残してあげたいものです。

その子供が大人になって、またその子供たちの、子供たちのためにも…。

未来の子供たちにも敷島公園を誇りに思い、大事にしてもらいたいと、私はその心の種を蒔いているのです。

■サイト・関連情報
フリッツ・アートセンター http://theplace1985.com
敷島公園 http://www.shikishima-park.org
敷島公園観光連盟 http://www.shikishimapark.net
前橋市 http://www.city.maebashi.gunma.jp

※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時のものです。2016年3月掲載

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過去記事一覧
20 下町に残る、手つかずの自然を守り、育てる
19 絵本、ケルナー広場を通して、子供たちの成長を見守る
18 生かされていることを実感 自然と一体になれるサップヨガ
17 震災後、市民の手によって再生された西公園
16 住民の心をつないだ3万個のキャンドル
15 市民がつくり、見守る広場
14 満月BARで公園の非日常を楽しむ
13 わらアートで、地域に笑顔と一体感を
12 再生物語を支えるボランティア組織「MEG」
11 公園が図書館に変わる「敷島。本の森」
10 公園に地域の人が集う「はじっこまつり」
09 トンボの魅力を子供たちに伝える
08 「朝市」で公園がコミュニケーションの場に
07 「スポーツ鬼ごっこ」を通じて 子供たちの居場所づくりを実現
06 高齢者、障がい者に公園案内 ボランティア側も癒される
05 仲間と共に成長してきたみはまプレーパーク
04 地域で子供たちを育成・指導 地元の公園でイルミネーション作り
03 公園がアートな空間に生まれ変わる日 あそびの重要性を考える「アートパーク」
02 子供たちにワークショップで地域貢献 公園での活動は発見の連続
01 自然環境は、利用しながら保全する


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