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「ランドスケープ遺産」の意義

「公園文化を語る」は、様々な分野のエキスパートの方々から、公園文化について自由に語っていただくコーナーです。
第6回目は、風景計画学、都市緑地史を専門とし、1981年からこの3月(2016年)まで千葉大学園芸学部で研究と教育に携わってこられた赤坂信千葉大学名誉教授に語っていただきました。

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赤坂 信 千葉大学名誉教授
日本の造園の総体を示すランドスケープ・イベントリーの必要性


公園を造成し維持管理する上で、造園技術が必要とされるのはいうまでもありません。それは、その技術を支える思想や文化があって初めて成り立ちます。では造園という専門、職業の総体はなにかと問われて、どう答えたらいいのでしょう。今から十数年前に、日本造園学会で「造園」という職業を社会に広く知ってもらうにはどうすればいいか議論されたことがありました。それには、これまで造園がしてきた仕事を全部並べてみることが先ず必要となるでしょう。とくに国際化の時代、日本の造園の総体を問われて、真にどう答えるのか。今や桂離宮の庭の話をしてお茶を濁している時代ではありません。造園・ランドスケープのインベントリー(inventory,目録、在庫調査)作成の必要性を思い至ったのはこれがきっかけです。筆者が日本造園学会の関東支部長になった2005年度からは、インベントリー作成をテーマとしましたが、関東支部から始まった活動が、やがて『ランドスケープ研究(第7巻4号、2011)』で「ランドスケープ遺産インベントリーづくりの現状」特集され、全国レベルで展開するに至りました。そのなかで筆者は「ランドスケープ遺産の特質とインベントリーの意味」と題して、小論を書いたことがあります。今もその論旨に変わりはありません。その後、日本造園学会関東支部三十年記念誌(2014)や関東支部の調査報告書においても説明する機会を得ました。繰り返しになりますが、本稿では、これを引用しながら、造園・ランドスケープ遺産の調査の意義についてその要点をあげたいと思います。

※出典 http://heritage.jila-zouen.org



「遺産」への位置づけ


遺産調査(インベントリー作成)の意義1)について最初に述べておきます。筆者が関東支部長を務めた2カ年間(2005~2007年)のうち、最初の1年は造園遺産ではなく造園資産という用語を使っていました。のちに土木遺産、世界遺産ということばにあわせていく方向を取ったこともありますが、資産propertyとしての価値、というよりも遺産heritageの方が、次世代につながっていくようなニュアンスを感じたこともたしかです。造園遺産を構想した当時、土木遺産はすでにスタートしていて、その中に明治神宮外苑の銀杏並木(東京都港区)があったことには驚きました。現在では造園学会の方のインベントリーにもその銀杏並木はリストアップされています。複合体としてのランドスケープだけに専門とする諸分野がそれぞれに遺産として位置づける可能性があり、それぞれに正当な理由があるはずです。



「関東地方造園遺産候補カード」からスタート


造園の仕事を理解してもらうには、これまで果たしてきたものは何かを明示してみることから始めるべきことはいうまでもありません。しかし、明示すべき何か、つまり説明すべき造園というものの総体を私たちはしっかりと持ちあわせているのか。共有できるインベントリーがあれば、それも可能となるでしょう。インベントリー作成の必要を考えたのは、これがその理由です。国際対応など他分野へ働きかけを考えると、これは喫緊の課題と考えました。現代の造園がカバーする総体を示すこと、いわばその在庫調査のようなインベントリーづくりはどこから始めるか。これは足もとから始めなければと、関東支部の活動範囲で先ず試作品を作ることから始めました。「関東地方造園遺産候補カード」なるものを幹事全員に作ってもらい、相互に意見を述べあって検討したことがあったが、これがスタートとなったのです2)。



ランドスケープ遺産は変化要因を含む


インベントリーを作成して次世代に繋げていくとして、リストアップされたものの存続とその将来を考えなければなりません。しかし遺産として保全すべきランドスケープには、それ自体に変化要因をしばしば含むことがあります。たとえば、植物の成長による変化、自然災害による変化、そして人為による変化に対しどのような対応するかが問われるでしょう。これはリストアップされたものが、しっかり維持されていくか否かに直接かかわることです。それにはランドスケープの生成に関する遺産調査が必要となります。どのようにして成立し現在に至ったかというランドスケープの履歴を知ることで変化の契機が把握できます。ランドスケープの構成要素の変化に対する扱いとして、大別して以下の3通りがあげられます。①変えていいもの②変わらないようにコントロールが必要なもの③変えてはならないもの、とくに③はランドスケープの骨格のようなもの、あるいはリストアップされたときの選択理由と特徴を示すものです。

造園分野のなすべきこと


対象となる空間ジャンルでは、比較的閉鎖的な空間である庭園、パノラマなど視点場と対象があって成り立つ眺望があります。借景庭園ならば双方を兼ねたものになります。庭園は庭園という空間の括りで認識されやすいのですが、パノラマなど眺望としてのランドスケープは庭園のようにはいきません。とくに都市においてはビルの建設などによって眺望が遮られることがしばしば起こります。東京の都心部で、富士山が望める富士見坂(東京都荒川区)からの眺望が、マンション建設(東京都文京区)で、2013年6月に消滅しました。現代の都市で無形遺産的な「富士見」という行為が可能だった地点が失われてしまうことにわれわれはもっと関心を持つべきではなかったかと惜しまれます3)。

眺望の保全となると、敷地の範囲のみでランドスケープを構成するということから、敷地からソトの世界の現実の社会に一歩踏み出すことになります。これにも覚悟がいることですが、この分野が今後発展することになれば、造園のprofession(職能)もおおいに広げることが可能となるでしょう。Combined works of nature and of man(自然と人間の共同作品)とは文化的景観の定義ですが、これは自然としっかり組み合ったランドスケープの複合性を見事に表現しています。ランドスケープの複合性は造園という専門に限らず、建築や土木などの諸ジャンルがかかわって成り立っています。これに加えてさまざまな時代に出来たものが重層していることも考えに入れなければなりません。現実には、一定の時代のものが一定の広がりの空間に博物館の展示模型のように整理されて並んでいることはまれです。通常見られるこうした空間は、むしろゴチャゴチャしていると低く評価されてきました。これを時代の積み重なり、さまざまな人が手を加えたあとと見ることで、ランドスケープの成り立ちを見直す契機とすることも可能と考えます。ランドスケープを語るには、専門の壁(区別)を厳しく立てることではなく、関連する空間ジャンルが相互に対話し理解し合うことが条件です。その対話において、ランドスケープの生成から他の要素との連接、分断、転移など歴史的重層性を読み解く眼力と排他的な「不寛容な専門性」と戦えるタフさが求められます。造園分野のなすべきことは多いと思います4)。

引用文献:
1)赤坂 信(2011):「1.ランドスケープの複合性」より引用;ランドスケープ遺産の特質とインベントリーの意味、特集・ランドスケープ遺産インベントリーづくりの現在-地域活動から全国展開に向けた現状と課題-、vol.74 no.4, ISSN 1430-8984、271-273
2)赤坂 信(2014):造園の原点に立ち返り、将来を見据えようとした平成17年度から18年度、公益財団法人日本造園学会関東支部三十年記念誌、27-28
3)赤坂 信(2014):近代文明の発達とランドスケープ(風景)保全思想の展開;文明の未来-いま、あらためて比較文明の視点から、比較文明学会30周年記念出版編集委員会、東海大学出版部、54-74
4)赤坂 信:第4章.特論、第1節.造園・ランドスケープ遺産調査の意義;関東地域の造園・ランドスケープ遺産 調査研究報告書(日本造園学会関東支部発行予定)

※文中に出てくる所属、肩書等は、掲載時のものです。2016年4月掲載

過去記事一覧
10 都市公園の新たな役割〜生物多様性の創出〜
09 日本の伝統園芸文化
08 リガーデンで庭の魅力を再発見
07 七ツ洞公園再生の仕掛け
06 ランドスケープ遺産の意義
05 公園文化を育てるのはお上に対する反骨精神?
04 公園のスピリチュアル
03 遺跡は保存、利活用、地域に還元してこそ意味をもつ  ~公園でそれを実現させたい~
02 公園市民力と雑木林
01 これからの公園と文化
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