公園文化ロゴ
公園文化ロゴ
公園文化を語る 公園の達人 公園管理運営「チャレンジ!」しました 公園とSDGs 生きもの小話 みどり花コラム アートコラム 花みどり検定 公園の本棚 世界の公園 たまて箱 公園”Q&A /
公園管理運営チャレンジしました
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)

第5回目は、東京都江戸川区で住民からの苦情の元になることが多い街路樹を「みんなのもの」という意識を広め、住民からも愛される街路樹として管理している江戸川区土木部水とみどりの課 調整係の海老澤 清也係長の「チャレンジ!」をお届けします。

江戸川区 海老澤 清也さん
江戸川区 海老澤 清也さん

都市化の波と街路樹事業
江戸川区の街路樹

江戸川区の街路樹

江戸川区は東京都の東側に位置し、面積約49㎢、人口約69万人(平成29年3月現在)で、かつてはのどかな田園風景が広がっていましたが、昭和40年代になると急速に都市化の波が押し寄せ緑が失われていきました。そこで、区では昭和45年に「ゆたかな心 地にみどり」を合言葉に緑化運動を推進し、道路整備に合わせて街路樹の植栽を積極的に行い、昭和47年には245本だった街路樹は、平成6年には3万本にまで増えました。街路樹本数の増加とその成長に伴い日照や害虫駆除等様々な要望や意見が市民から届くようになりました。街路樹管理作業の発注件数も年間300件を超えるようになり、区の街路樹担当職員(以下、担当職員)の業務量も急激に増加していきました。

そのため、より効率的な街路樹管理を目的に平成6年に一部地域で、剪定、刈込み、除草、落ち葉清掃等の年間の街路樹管理作業を、造園事業者が適期を判断して行う委託方式を試行しました。この方式では、管理作業を実施(受託)する造園事業者(以下、受託者)が事前に年間作業計画を提出し、各作業の着手、完了の報告をすることによって、担当職員は常に現場の管理状況を把握できる上に、事務処理の手続きが減りました。このため、平成7年からは区内全域でこれを実施し、平成19年からは、それまで見積もり価格だけで受託者を決定していたものを、価格競争に伴う弊害の改善と優良造園事業者育成を目的に、見積もり価格と街路樹管理計画の総合点により受託者を決定する方法に変えました。更に平成20年からは、実施した街路樹管理作業に対する評価が高かった受託者には、翌年度も街路樹管理作業が受託できる権利を与えています。

江戸川区の街路樹数(昭和47年から平成27年)

江戸川区の街路樹数(昭和47年から平成27年)


街路樹指針による街路樹管理
道路毎に作成した目標樹形カード例

道路毎に作成した目標樹形カード例

植栽後30年以上経つ街路樹は大きく成長し豊かな街路景観となりましたが、それと同時に街路樹が支障になることも多くなってきました。そこで、平成19年に学識経験者、区の職員に加えて、区内で緑のボランティアをしている市民の3者で「街路樹のあり方検討委員会」を立ち上げました。その結果、平成20年に街路樹の設計基準、管理基準、住民参加の促進等のあらたな方針が提言され、これを受けて『江戸川区街路樹指針 新しい街路樹デザイン』(以下、指針)が完成しました。平成21年からは、この指針に従って街路樹のある道路毎に作成した目標樹形カードに基いた街路樹管理作業を行っています。従来はその都度、検討していた剪定方法がこれよって明確になり、担当職員や受託者の変更があっても、樹高や葉張り等の樹形が変わらず、効率的で安定した街路管理が可能となりました。更に、剪定作業を行う前に、受託者は道路毎に見本剪定を1本行い担当職員の確認を受けた後、剪定作業に着手します。

担当職員と受託者が一堂に会する街路樹剪定講習会


これに加え、年に1回、剪定技術向上を目的として全ての担当職員と受託者が合同で街路樹剪定講習会を実施しています。これは、区内の街路樹のある道路に集合し、受託者毎に1本ずつ剪定し、担当職員と受託者全員で優秀剪定を決め、受託者の剪定技術を競うと共に、街路樹剪定の共通目標を確認するものです。

また、指針の中で「大きくなり過ぎた街路樹は植え替え、更新する」ことになっており、実施にあたっては時期や予算等の検討が必要となりました。そのような状況の中で、水道局が震災対策として水道管の耐震化工事を実施することになりました。多くの水道管は街路樹の下に埋設されているため、水道管の耐震化工事に伴い、街路樹の植え替えが必要となり、これに合わせて街路樹の更新を進めていくこととしました。更新作業で移植困難な街路樹は、それまで地域を潤した大切な緑として、その材を新たな資源として加工して活用しています。

伐採した街路樹を再利用して地元小学生が「ゆたかな心 地にみどり」の標語を書いた表示板(江戸川区庁舎前)

伐採した街路樹を再利用して地元小学生が「ゆたかな心 地にみどり」の標語を書いた表示板(江戸川区庁舎前)


区民とともに歩む「緑のまちづくり」
バンダナをして活動している市民

バンダナをして活動している市民

良好な街路樹景観を育成するためには、地域の人々の協力が不可欠です。街路樹は「役所のもの」から「みんなのもの」へという地域愛を育む事業の推進です。

江戸川区では「ボランティア立区えどがわ」を目指して平成16年から「みどりのアダプト制度」を実施し街路樹や公園等での緑に関する活動を行う市民を緑のボランティアとして登録し、支援しています。江戸川区のみどりのアダプト制度は、「自分のペースで無理なく楽しく」をモットーに、一人でも多くの住民に参加してもらい、街路樹を「役所のもの」から「みんなのもの」という意識を持ってもらえるよう、一人からでも、年に数回の活動でも登録できるようにしています。区では登録者に、活動の目印である緑のバンダナの他、花苗や枯れ木丸太等の材料、活動内容をお知らせするサインを提供したり、清掃活動での落ち葉等の回収をしています。街路樹を利用したリースづくりや樹名板づくり等市民による様々なイベントへの資材の貸し出しも行っています。また、国土交通省「みどりの愛護功労者賞」へ活動団体を推薦し、受賞を果たす等、区では様々なサポートを実施しています。単に従来の緑の重要性をPRする一方通行の普及啓発ではなく、市民が自主的にそれぞれの地域でそれぞれのペースで楽しみながら活動することが大切であると区では考えています。

緑のボランティア活動の広がりは、街路樹への要望や意見に対して速効的な効果があるものではありませんが、やがて「街路樹はみんなのもの」という豊かな心の土壌となります。緑のボランティアを含む区のアダプト制度の登録者は8,728人(平成28年4月1日現在)になりました。その中には夏の早朝に親水公園の清掃活動をする子供からお年寄りまで様々な人の姿もあります。「親水公園は地域の財産(みんなのもの)」という姿であり「親水公園は役所のもの」という意識とは明らかに違うものです。

1970年(昭和45年)に「ゆたかな心 地にみどり」という合言葉を掲げ市民とともに取り組んできた江戸川区の「緑のまちづくり」は2020年で半世紀を迎えます。これからも市民とともに歩む「緑のまちづくり」を積極的に推進してまいります。

※文中に出てくる所属、肩書等は、取材時(2017年3月)のものです。2017年4月掲載

アダプト制度で活動している花壇に設置されたお知らせサイン

アダプト制度で活動している花壇に設置されたお知らせサイン

区切り線
過去記事一覧
第47回 公園の魅力を見つめ直して「秋のライトアップ」できっかけづくり(足立区花畑公園・桜花亭)
第46回 “五感”を満たす空間づくり ~統一感あるデザインと、一貫したコンセプトを守っていく~ (いばらきフラワーパーク)
第45回 サステナブルな堆肥づくり「バイオネスト」の可能性 (国営木曽三川公園 138タワーパーク)
第44回 都心に残るゲンジボタル(国立科学博物館附属自然教育園)
第43回 大池公園さくら再生プロジェクト!(大池公園)
第42回 初の産学連携!地元の高校生と協同で商品開発!(稲毛海浜公園)
第41回 冬の新宿を彩るCandle Night @ Shinjuku(新宿中央公園)
第40回 20年目を迎える「第20回日比谷公園ガーデニングショー2022」を開催(都立日比谷公園)
第39回 多様な生き物と人が集まるビオトープを作る!(国営アルプスあづみの公園)
第38回 いにしえの植物を万葉歌と共に楽しむ 万葉植物画展「アートと万葉歌の出逢い」(平城宮跡歴史公園)
第37回 来園者も参加する獣害対応防災訓練
第36回 「みどりの価値」を指標化し、「こころにやさしいみどり」をつくる
第35回 時代のニーズをとらえた花畑を(国営昭和記念公園)
第34回 身近な公園でパラリンピック競技を体験する(むさしのの都立公園)
第33回「写真を撮りたくなる」公園づくり(小豆島オリーブ公園)
第32回 「自然学習」アプリは「広い園内で遊べる」ツール(国営昭和記念公園)
第31回 Onlineでも環境教育を(Project WILD)
第30回 コロナ禍でも市民と共に活用できる公園(兵庫県立尼崎の森中央緑地)
第29回 音楽に親しむ公園の「森のピアノ」(四万十緑林公園)
第28回 植物に関するミッションでリピーターを増やす(小田原フラワーガーデン)
第27回 猛威を振るう外来のカミキリムシを探せ(栃木県足利市)
第26回 地域と協働したプロジェクト(播磨大中古代の村(大中遺跡公園))
第25回 地域住民の意見を聞きながら公園の魅力を維持・向上させる(足立区)
第24回 Stay Homeでも公園を楽しむ(国営武蔵丘陵森林公園)
第23回 できる人が、できる時に、できることを(こどもの城)
第22回 雪を有効活用して公園に笑顔を(中山公園)
第21回 地域をつなぎ、喜びを生み出す公園(柏崎・夢の森公園)
第20回 絵本の世界を楽しみながら学ぶことのできる公園(武生中央公園)
第19回 全国に注目されるゴキブリ展を開催(磐田市竜洋昆虫自然観察公園)
第18回 大蔵海岸公園のマナードッグ制度(大蔵海岸公園)
第17回 園内から出た植物発生材をスムーズに堆肥化する(国営木曽三川公園)
第16回 地域の昔話を学ぶことのできる公園(坂出緩衝緑地)
第15回 公園の看板に一工夫(国営讃岐まんのう公園)
第14回 地域に貢献する農業公園(足立区都市農業公園)
第13回 公園のイベントを通して子供たちに「外遊び」を提供!(雁の巣レクリエーションセンター)
第12回 生き物の面白さを伝える動物公園(多摩動物公園)
第11回 増大かつ多様化する公園利用者に対応する施設管理(国営ひたち海浜公園)
第10回 弘前公園のサクラを後世に引き継ぐ(弘前公園)
第9回 未来につづく公園づくり(大野極楽寺公園)
第8回 生き物にふれあえる公園づくり(桑袋ビオトープ公園)
第7回 発生材を有効活用する(公益財団法人 神奈川県公園協会)
第6回 幻の青いケシ(国営滝野すずらん丘陵公園)
第5回 「街路樹はみんなのもの」という意識を(東京都江戸川区)
第4回 最良の門出を祝う「ローズウェディング」(国営越後丘陵公園)
第3回 感謝の気持ちを伝えるくまモン(水前寺江津湖公園)
第2回 ふるさと村で人形道祖神を紹介(国営みちのく杜の湖畔公園)
第1回 様々な競技会にチャレンジ!(国営木曽三川公園)


TOPに戻る

公園文化ロゴ2